第九章『バーベキュー』
二日目の照りつけるような日中だった。
その日は玖木教授と課外授業の参加者全員で、バーベキューと決まっていた。
そして僕らは午前中から、その準備をはじめていた。
バーベキューは旅館の近くにある川岸でやることになっており、基本的な機材や食材はすべて旅館が用意してくれていた。ただ、すべて揃っているというわけでもなく、自分たちで足りないと感じたモノは買いだしに行く必要があった。
その買いだし要員にめでたく選ばれたのが僕と田波、そして本山さんだった。もっとも本山さんは玖木教授に言われて渋々だったようだが。
この村にはコンビニもスーパーもなければ、商店街もない。この村にある店といえば、小さな雑貨屋と酒屋くらいのものだ。
問題はそこまでの道程で、僕らの現在位置からその雑貨屋と酒屋はかなり遠い。だからといって自転車があるわけでもなく、しょうがないので、そこまで歩いて往復することになった。
相変わらずの炎天下のなかをモノを抱えて川岸まで戻ってくるのだと思うと、ウンザリする。
「それにしても、この村はホントに静かだな」
田波は独り言のように、そう言った。彼はデジカメのシャッターをいつでも切れるように構えながら歩いている。これが彼の日常のスタイルである。
「たしかに。のどかってよりは静かって表現のほうが適切ではあるかもな」
昔ながらの木造建築の家屋に田園風景がよく似合う風情を感じさせる町並み。その一方で田波の指摘通り、この村にはなぜか人間以外の動物の姿が見えない。イヌネコどころか、虫一匹姿を見せないくらいの徹底ぶりだ。そのおかげか村全体は静かで清潔感がある。そのせいなのか、この村全体が作りもののように見えてしまってならないのである。
「俺なりにこの村に動物がいない理由を考えたんだけどさ。大地震の前触れとかに潰れそうな家からネズミがいっせいに逃げ出すって話あるじゃないか。これってそれと似たようなことなんじゃないかな?」
「なんだか物騒だな……」
僕は顔を引きつらせながら、真顔で話す田波を見る。
「問題はその出来事がもう起こっているのか、それともこれから起こるのかってことだよな。起こっている最中だから動物がいないのか、予兆があるからいなくなったのか……」
「あるいはそもそもこの村に動物なんていない、かだよな?」
「それが本当なら、この村は常識が反転してるってことになるな。生きている俺たちこそ、この村では異分子ということになる」
「じゃあ、なんでこの村は異分子を受け入れたんだろう?」
僕と田波が両腕を組んで唸っていると、背後で大きな嘆息が聞こえた。
本山さんである。
「そんなマンガみたいな話あるわけないですよ」
彼女は呆れた表情で、スタスタと僕らの前を横切っていく。それとともにトンボが近くを飛んでいるのを僕らは見た。夕暮れのように真っ赤な色だ。
田波は思わずデジカメのシャッターを切っていた。
僕らはつまらない議論に白熱してしまったことを彼女に詫びると、雑貨屋への道を急ぐのだった。