第二十四章『阿咲涼貴 其の一』
目が覚めると、蝋燭に灯された火が見えた。
そこから視線をずらすと、膝を抱えて俯いている本山さんがいて、学ラン姿の少年とセーラー服を着た少女――たしか、阿咲涼貴と荷燈光だったか、がいた。
「目が覚めましたか?」
阿咲涼貴が微笑を浮かべながら訊ねてくる。
「ああ……」
僕の意識はまだ朦朧としていたが、なんとか体を起こす。
「ここは?」
「ここはうちの館です」
答えてくれたのは阿咲くんであった。
「……館?」
なんで、こんなところに自分がいるんだろうか? それがさっぱり思いだせない。なんだか悪い夢を見ている気分だった。
「なぜ、自分がここにいるのかわからない、ですか?」
その心情を阿咲くんはピタリと当ててきた。僕は体を強ばらせながら、彼に視線を向けた。
「君なら、その質問に答えられる?」
阿咲くんは微笑むだけで、その問いに答えようとしない。その代わりに、今度は彼から質問を投げかけてくる。
「その泥だらけの服と、すり傷だらけの体に見覚えは?」
そう指摘されて、僕はハッとなる。たしかに服は泥だらけで、体中がすり傷だらけだ。髪の毛も少し湿っているし、これはいったいどういうことなんだろうか……
「あなたは怖い夢を見ていたんじゃありませんか?」
そうだ。僕は人から追われる夢を見ていた。いや、あれは本当に夢の出来事だったんだろうか。おかしい、なにかがズレている。
「少しお困りのようですね」
阿咲くんはそういって、荷燈さんに目配せをする。
すると荷燈さんは立ちあがり、ふすまを開けた。
「ああ……」
本山さんが呻き声をあげる。
ふすまを開けた先にあったのは庭だった。あたりはすっかり暗くなって、雨もポツポツ降っている。
「相田美崎……!」
そこに彼女はいた。おぞましい――鬼のような表情を浮かべて。そして、そのまわりには村の住人と思しき影、その中には玖木教授、安原、一番驚いたのは田森がいたことだった。
「……おかしい。ここで人間の臭いが途切れている」
相田美崎は鼻をひくつかせる。しばらくすると、まわりにいた人間に「もっと念入りに探せ」と指示をだした。
まわりにいた人間は生気のない表情で、返事をすることもなく散開していく。相田美崎もこちらを睨んだような素振りをしたあと、すぐにその場を立ち去った。
それはとても奇妙な光景だった。僕はゴクリとのどを鳴らす。気づいたときには、本山さんが傍にいて、僕の服の裾をぎゅっと掴んでいた。
「これはいったい……?」
「少しお話ししましょうか」
阿咲くんが頷いてみせると、荷燈さんはそっとふすまを閉めた。




