第二十章『丘の上』
ひっそりと静まりかえった丘の上にあったのは、朽ちた建物だった。それ以外はなにもない。
「こんなところに人が住んでる……ワケないか」
その朽ちた建物は手入れさえ行き届いていれば、さぞ立派なモノであっただろう。しかし、それはあくまで仮定の話で、実際にあるのはボロボロの建物である。
「でも、昨日の男の子はこのあたりに住んでるっていってましたよね?」
「そうだけどさ。かなり変わった子だったし……」
おちょくられたのかもしれない。それはそれで納得のできる話だ。そもそもあんな炎天下のなかで、学ランを着て涼しげにしてる男の子が普通なワケない。
「……ちょっと休憩しようか?」
僕の提案に本山さんは「いいですよ」といって、近くにあった石の上に腰かける。
「こんなことしてて、先輩は楽しいんですか?」
「こんなこと?」
僕が問いかえすと、本山さんはあからさまなため息をつく。
「山奥でワケのわからないお話の資料を漁ったり、立ち入り禁止の場所に来てみたり、です」
「ああ、そういうことか」
そこまで言われて、僕はようやく納得をする。
「べつに楽しいなんて思わないよ。なんせかかってるのは単位だ。でも、こういうのは嫌いってワケでもないし」
「……どっちなんですか?」
本山さんの呆れる姿に、僕は苦笑を浮かべる。
「これを言葉で説明するのは難しいな……。でも、好きなんだとは思うよ。そうじゃなきゃ、やってらんないよ」
これで答えになったのだろうか。怪訝な表情を浮かべている本山さんを見ていると、もう一つの答え方だったのかもしれないが。
「そういえば本山さんは、どうしてこの旅行に行こうと思ったの?」
僕がそう訊ねると、本山さんはしばらく視線を合わせようとせず、あたりにさまよわせる。
「誘われたんですよ、教授に。きっと勉強になるよって。私はどっちでもよかったんですけど……」
どうやら彼女なりの複雑な事情があるようで、それ以上は何も語ろうとせずに、黙りこくってしまう。そうしている間に時間は無駄に過ぎていく。
冷涼な空気と、ゆったりと流れる時間が少しずつ僕の意識をまどろみに誘っていくのを感じた。




