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第十七章『いなくなった子供』

「田波は知ってるか?」

「なにを?」

 朝っぱらから照りつけてくる強い日差しの中を僕と田波と本山さんは歩いていた。例によって、実地実習の一環である。田森がいないのは単純に煙を巻かれたからである。

「三歳くらいの子供が昨晩からいなくなったって、村中が騒いでるなんて話だよ」

 後ろを歩いている本山さんが「三歳くらいの子供」という言葉にビクリと肩を震わせる。

「んー……、知らないなぁ」

「ホントか? 僕なんか朝起きるなり相田美崎って娘に聞かれたんだぞ」

「そんなこと言われても、知らないものは知らない」

 田波はきっぱりと言いきる。これは本当に知らないのかもしれない。だとしたら、これ以上の追求は無駄ということになる。

 しょうがないので、僕は「そうか」とだけ言って、この話は打ち止めにすることにした。

「じゃあ、ここいらから別行動ということにするか」

 道が枝分かれになったところで、田波が立ち止まり、僕らにそう言ってきた。

「一人で大丈夫か?」

 僕が心配そうに訊ねると、田波は苦笑を浮かべる。

「おいおい、たかが村の風景を写真に納めるだけだぞ。一人で十分やれるよ」

「ああ……。それもそうか」

 そう言われてしまえば、僕から言うことはなにもない。

「そんなことより、お前にはレポートをまとめるって大役があるんだからな。そっちこそ抜かるなよ」

「はは……。肝に銘じておくよ」

「おう。任せたぜ、大将」

 田波は笑みを浮かべると、「じゃあな」と手をふって、一人で違う道を進んで行った。残された僕と本山さんはお互いに微妙な表情を浮かべ合う。

「先輩も聞かれたんですか?」

 なんとなく田波の背中を見送っていると、本山さんが話しかけてくる。

「うん?」

「三歳の子供がいなくなったことです」

「ああ、そうなんだ。それと……」

 朝から感じる妙な視線――つきまとうような、見張られているような、べっとりとした粘着質な視線を四六時中感じる。ただの被害妄想なのかもしれないが、そう思い過ごすには村の空気が昨日に感じたものとなにかが違う。そして、それは僕だけでなく、本山さんも同質のものを感じとっているようであった。

「三歳の子供っていえば……」

 本山さんが口を開く。自分たちで思い当たるといえば、昨夜に僕らを襲ったアレだろう。しかし、アレを人間だというにはあまりに無理がある。アレはもっと異質なモノだったはずだ。そう何度も言い聞かせて、僕は恐ろしい考えを振り払う。

 まさか、昨日殺したのがその子供だなんて、あるはずがない。いくらなんでも考えすぎだ。

 僕は何度も自分にそう言い聞かせた。



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