閑話1火の国の男
辺境の地カリスタ地方は火の国と呼ばれる程熱く、一年中猛暑が続いている。
王都とは異なりとても不便であるが、サブローにとって生まれ育った故郷なのでどんなに不便でも自慢だったが、まわりはそうは見てくれなかった。
「見ろよ、カリスタの奴だぜ」
「うわぁ、ホントに人間かよ?あの目と肌の色」
特徴的な肌の色に人は不気味だと馬鹿にする。
差別的な目で見られるのは入試の時も同様だったが、もう一つ馬鹿にされたのは方言だった。
迂闊にしゃべれば方言と訛りで何を言っているか解らず、まともに会話が成立しないのだ。
(皆馬鹿にするっちゃね…)
ワナワナと震えながら苛立つ中。
「通行の邪魔ですわ。どいてくださる?」
「なっ…」
氷のように冷たい視線を向けクラスメイトはその場を去っていく。
「本当に迷惑な人」
まるでゴミを見るような目だった。
「エステルさん」
「探していたんですサブローさん」
「俺を?」
「ええ」
サブローをに本を差し出す。
「これ絵本になっているんです」
「カリスタの辞書と?」
「標準語もあるんですよ」
イラストが描かれており楽しそうだった。
「サブローさん方言で言葉が通じないとおっしゃっていらしたでしょ?これなら読みやすいし、楽しいと思うんです」
「態々探してくれたとね」
「後は、私がカリスタの言葉を知りたいと言うのがあります。方言に興味がありますの」
エステルもサブローの言葉を少しは理解できるが、すべてというわけではない。
「騎士たるもの、言語に明るくなくてはなりませんわ!」
拳を作り気合を入れる。
「特に南の方角には海を越えて貿易にいらっしゃる方も多いと聞きますし」
「多いとね」
「サブローさんは海の先のことも知っていると言うことですわ」
小さな箱庭の生活しか知らないエステルにとっては羨ましいと思った。
「教えてくださいサブローさん」
「なんを」
「海の先のことを…カリスタのことを」
広い世界を知りたいと言うエステルにサブローは嬉しくてたまらない。
「エステルさんは変わっているとね」
「はい?」
「俺を馬鹿にする奴は多いと」
最初から偏見の目で見て来る人間は多かったがその逆はいなかった。
「馬鹿という人が馬鹿なんです。我が領地のことわざです」
「そうなんか?」
「ええ、よって彼等の方が格下です」
断言するエステルに驚く。
「私は王都から来ましたけど、典型的なお馬鹿さん達ですわ。ああいうタイプは傭兵レベルですわ」
「俺も同じと」
「あんな低次元と一緒になさらないで」
出会った当初からエステルはサブローに対して評価が高かった。
「人を陥れ蔑むような人は殿方として失格です。女性が好むのは誠実で強い方ですわ」
「うー…」
「財なんて長く続きません、心が醜ければ顔も醜くなりますわ」
自分の容姿に自信がないサブローはどこか引け目に感じていた。
「金なし、権力無し、教養なしとよ?」
「財も教養も後から得ればいいのですわ。それよりも性格が歪んでいたらせっかくの付属品も意味がありません」
「付属品」
エステルの例え方に噴き出してしまう。
「ですからサブローさんはそのままでいてください」
「エステルさんはやっぱり優しか…」
「いえ…」
恥ずかしそうにプイっとそっぽを向き読書を進める。
「あーエステルいた!」
「何です?」
「エステル様!お願いします!」
スライング土下座をするユランに呆れた表情をする。
「次の語学当たるんだよ!!今週のお願いだ」
「なんです?今週のお願いって」
「それは、来週もお願いするからとりえあえず今週のお願い的な?」
パンと手を叩き言うが、エステルの表情は冷たい。
「図々しい男とね」
「見ましたか?こんな男性もいるのですわ」
「こうはなりたくなかとね」
理想の男性像は色々あるがサブローはこんな情けない男にだけはなりたくないと心から思った。
「ユランさん、お勉強は自分でした方が…」
「ケチケチするなよルーク」
何時もお調子者のユランに、弱気なルーク。
サブローの周りはいつも賑やかで明るい。
差別の目はまだ多いが、ちゃんとわかってくれる人がいる。
「サブローさん、こんな人は捨てていきますよ」
「生ごみに捨てるとね!」
ポカポカのお日様はここにある。
だから…
「絶対許さんとね!」
サブローの太陽を消そうとする輩は許さない。
大切な友人を傷つけさせない為にもサブローは前を向く。
カリスタの男は大切な人を守る為ならどんな敵とでも戦うのだった。




