表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷走  作者: まほろば
18才1月
9/29

変化2



あれだけ中嶋くんに言ったのに、中嶋くんは1度だけデートしてやってくれ、ってきかなかった。

根負けして、1日だけ昼から外で会った。

半日のバイト代を考えたら凄く損した気分になったけど、これでもう言わなくなると思って堪える。

外でも変わらず会話は少なくて、店で売ってる物を話題に少し話すくらい。

居心地が悪いと感じてるのは私だけじゃないはずなのに、長谷川くんはこれからも外で会いたいと言う。

丁重に時間がないと断っても、長谷川くんはバイトを辞めたら時間は出来ると引かなかった。

それで気が付いた。

『バイト辞めたら』

中嶋くんも長谷川くんも安易に口にするけど、2人からバイトしてる話は1度も聞いた事が無かった。

だから簡単に言えるんだと思ったら半日のバイト代を請求したいくらいだった。

やはりその日も気まずい空気で別れた。

もう終わりと思っていたのに、中嶋くんは緊張がほぐれるまでグループ交際にするとか勝手に言い始めた。

中嶋くんや長谷川くんが言ってくる日にバイトを休める分けなくて。

中嶋くんと今よりもっと距離が出来た。

バレンタインの配送が増えてバイトが忙しくなってきてからは、私から2人と時間をずらした。



はっきり出来ない付き合いのまま3月を向かえた。

4年制の中嶋くんたちは4月になって2年になっても卒業までまだ3年もある。

3年の夏から就活が始まるって聞いてるけど、短大の私にはこれから就活が始まる。

学食で一緒になった日にその話をしたら、2人とも女子の就活はすぐ決まる、と思っていた。

言っても理解して貰えないと分かってからは、学食で会っても笑ってる事にした。

スルースキルはバイトで鍛えられてるから、それくらいで苛々する事も無かった。

思えば、去年の11月を境に自分は信じられないくらい強くなったと思う。

バイトを始めて良かった。

最近は新人に教えたり、今までなら逃げてた事も否応なしにやらされて出来るようになったりしてる。

卒論があるから夏休みまでだけど、それまで働こうと決めていた。



学年末の試験も無事に終わり、バイトに割り振る時間が増えた。

そんな中、試験が終わったからと長谷川くんとまた半日会う事になった。

中嶋くんは何故長谷川くんと私を取り持とうとするのか不思議で仕方無い。

今回は映画に行こうと長谷川くんに言われて、ぎこちない会話をするよりは、と了解した。

映画は今話題になってる恋愛映画で、ベッドシーンが過激だとバイト先で評判だった物だった。

恋人同士で見るなら抵抗無いと思うけど、私と長谷川くんでは気まずいだけなのに。

そう思いながらも映画を見に行った。

隣り合わせに座って見てて、最初手を握ってこられて思わず振り払った。

それ以上は無理強いして来なかったから安心していたら、いきなり太ももを触ってきた。

驚きで動けなかったら、手がスカートをたくし上げて中まで入ってこようとした。

「止めてっ!」

思わず叫んで立ち上がる。

心臓がだくだくした。

周りの暗さが恐怖を増幅して、広太の顔がばっと頭の中を占領した。

逃げなきゃ。

暗い中座ってる人に謝りながら通路に向かった。

触られた感触に嫌悪感が強い。

広太の手を嫌でも思い出して、吐き気が込み上げる。

出口の明かりを頼りに外に出た。

トイレに駆け込むより今は外へ逃げたかった。

受付のお姉さんに変な顔をされながら外に出ると、幸い外はまだ明るくて直ぐに人の波に紛れた。

動悸が止まらない胸を押さえながら駅まで歩く。

咄嗟に声が出た自分に驚きながら、長谷川くんに腹が立ってきた。

だから映画だったのか。

中嶋くんもこうなると知っていて長谷川くんと2人にしたのかと思ったら、もう顔も見たくなかった。

無意識に後ろを振り返る。

長谷川くんの姿が無くてホッとした。



翌日、学食に2人の姿は無かった。

その次の日も。

5日目、講義に中嶋くんの姿があった。

中嶋くんは私を見ても普通で、自然に男友達の横の席に座るから段々その態度に腹が立ってきて、講義の間ずっと睨んでいた。

私が睨んでるのを感じたのか、中嶋くんも度々私の方を振り返った。

講義が終わって、中嶋くんがこっちへ歩いてきた。

「何か怒ってる感じだな」

「怒ってるよ。2人が揃ってるところで言いたい」

中嶋くんが変な顔をして聞いてきた。

「それってお前が映画館で長谷川の手を握ろうとして拒否られた事に関係してるのか?」

「は?」

思わず変な声が出た。

多分私は間抜けな顔をしてたと思う。

「違うのか?」

中嶋くんが怪訝な顔で聞いてきた。

大半の学生は教室を出ていて会話を聞かれる心配がないから、はっきり言った。

「手を握ってきたのは長谷川くんの方。それだけじゃない。スカートたくし上げて触ってきて」

思い出したら身震いがした。

吐き気を堪えて中嶋くんに聞いた。

「中嶋くんも共犯なの?」

怒りから口調がきつくなった。

「いや、長谷川からそんな話は聞いてない」

「もう長谷川くんと無理に会わせようとしないで」

中嶋くんが焦った顔で聞き返してきた。

「長谷川に2人だけで会いたいってみずきの方から誘ったんだろ?だから長谷川は脈ありだって」

「誘うわけ無いじゃん。2人で居ても会話無いのに」

中嶋くんが迷うような表情をして聞いてきた。

「本当に誘ってないのか?」

「誘うわけ無いでしょ。バイトはあるし今から就活ノートも作らなきゃなのに」

中嶋くんが何か納得した顔をした。

「俺も最初は不思議だったんだ。みずきが積極的に長谷川に迫ってるって聞いて、あのみずきが?って」

「いつも断るばかりで、私から長谷川くんに会いたいとか1回でも言った事ある?」

「…無いな」



中嶋くんとその場は別れた。

長谷川くんに確かめる、と言ってたのに、翌日は中嶋くんに会わなかった。

そしてその翌日も。

3日目も会わなくて、話してないんだ、と諦めた。

その日の夜あやみから電話が来た。

「もしもし」

「中君がみずきに謝りたいって」

あやみの言葉で2人がまだ会ってるんだと分かって、直ぐには返事が出来なかった。

「連絡したくてもみずきの番号も個人のラインも知らないから謝れない、って言ってて、番号教えたよ」

無意識にため息が出た。

「私に確かめもしないで、何で勝手に教えるの?」

「え?あ…」

「私の番号は消して貰って」

「でも中君が謝りたいって…」

あやみが語尾を濁した。

「私の意思は?中嶋くんの意思は尊重するのに私の気持ちは尊重してくれないの?」

あやみの返事は無かった。

いい加減嫌になってあやみに言った。

「切るね」

「待ってっ、隣に中君居るの。今代わるから」

言っても駄目なんだ…。

諦めに似た気持ちが沸いてきてため息が出る。

暫く小声で言い合う声がして、ガサガサと雑音がして男の人の声がした。

「もしもし」

「もしもし」

電話じゃ中嶋くんの声とは聞き分けられなかった。

「長谷川と話をした」

次の言葉を待って黙ってたら違う言葉が来た。

「悪かった、返事をしてくれ」

「聞いてるから先を話して」

始めはしらばっくれてたらしいけど、中嶋くんがしつこく聞いたら話したそうだ。

「長谷川と学食で昼を食ってる時、俺がみずきを指して『彼氏と別れてしょんぼりしてる』と言ったのが始まりらしい」

中嶋くんは悪気は無かった、と続けた。

「別れたばかりの女なら寂しいから簡単にやらせると思ったと言っていた。大人しそうだから強く出たら言いなりになると思ったらしい」

「何その言い種」

呆れて、思った事がそのまま声になった。

広太もそう思ってたんだ、と聞いていて気が付いた。

「長谷川は殴った」

中嶋くんの『制裁した』みたいな言い方に苛立ちしかなくて、つい言ってしまう。

「殴っても何も終わらないよ」

「それは、そうだが」

予想してない返事だったのか中嶋くんが口ごもる。

「中君?」

横からあやみの困ってる声がして、それが私の神経をもっと逆撫でした。

「長谷川くんの言い分は聞いても私の言い分は聞かなかったよね。もうこれ以上私に関わらないで。番号は消してください。ラインも承認しません」

一方的に言いたい事を言って電話を切った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ