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迷走  作者: まほろば
22才9月
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29/29

再会4



車に戻って中嶋くんに話した。

「中嶋くんは会社を規模で比べているの?」

「それが普通だろ」

不貞腐れている中嶋くんにゆっくり話した。

「今の担当の人、誰だか分かる?頻繁にメディアで見るはずだけど」

「テレビで?」

中嶋くんは考えるように宙を見ていた。

分からないらしいから教えた。

「え?今のおっさんが?嘘だろ、え…」

中嶋くんの顔が動揺に歪んだ。

「肩書きは工場長だけど、社長さんだよ」

「え?…」

中嶋くんの動揺した目線が今出てきたビルに向いた。

「課長がどう言ってこの会社を中嶋くんに任せたのか想像できるけど、自分の顧客の意識があれば会社を調べるよね」

何も言わない中嶋くんに続けた。

「どんな会社か経営状態は?長く付き合うなら普通知りたいと思うよね。知っていくうちに良い所も悪い所も見えてきてそれが信頼を深めるか浅くするかじゃないの?」

言い返してこない中嶋くんにそれ以上言うのは嫌だったけど言う。

「あなたは顧客を知ろうともしなかった。社会的な位置なら特許の宝庫のあの会社がうちより何倍も何十倍も上だよ」

沈黙してる中嶋くんに構わず車を回して次に回った。

これで1週間足を運んでるけど受付の対応は変わらなかった。

もう1社も門は固く閉まってる。

時間の許す限り訪ねると決めているからがっかりもしない。 



「みずき」

運転してるから止まるのを待ってるんだと思ったら違った。

「返事位しろよ」

「運転中」

答えながら無性に笑いたくなった。

ホント身勝手。

「プレゼンだけど俺にさせてくれ」

「!」

思わずブレーキを踏みそうになった。

道路脇に車を止める。

「俺に任せて欲しい」

「決めるのは主任だよ」

この話を営業でしたら、中嶋くんは何処か閑職に飛ばされるのが目に見えていた。

「俺には成功させる自信がある」

「成功の実績の無い中嶋くんに任せる危険を会社は選択しないよ」

「みずきには実績があるんだろ。だから今日来たんだろ?そのみずきが俺を押してくれれば絶対通る」

子供の我儘と同じ理屈に笑うしかなかった。

「みずきっ」

「プレゼン何てした事無いよ」

「じゃあなんで今日来たんだよ」

「お願いとプレゼンは違うじゃん」

分かってくれないだろう諦めに声も低い。

同じ話を何度ループしても中嶋くんの気持ちは変わらないようだった。

「分かった。俺から直に部長に話す。部長がOKしたら良いんだな」

「したらね」

気持ちが疲れてて投げやりに答えて車を出した。



中嶋くんは何か書きながらぶつぶつ口の中で繰り返していた。

何かを書き留めてまた真剣な顔で前を向いて口の中で繰り返す。

横で見ていたら、学生の弁論大会を思い出した。

真剣なこの横顔を何処かでも見たような…考えても思い出せなくて。

何処だっただろうと考えていたら…書いた物を確認してる中嶋くんの横顔に黒板が重なった。

ああそうか、あの日の横顔に見えたんだ。

思い出したら泣きたくなった。

花火のポスターに怒ってた顔、みゆきの話にしかめてた顔、懐かしい思いがいくつも甦る。

あの頃の中嶋くんは…凄く好きだった。

真面目で何にでも真摯に向き合っていて、憧れてた。

ドクン、と鼓動が鳴った。

頭の中を『好き』の単語がぐるぐる回った。

そうか…そうなのかも…。

もしかしたら…あの頃の私は一方的に中嶋くんに片思いしていたのかも知れない。

彼女の居る中嶋くんに…。

私…、恋…したかったんだ…片思いの恋を。

叶うかも知れない恋は怖かったから…身勝手な絶対実らない恋がしたかった。

広太の事を話さなきゃいけない恋は出来ないししたくなかったから。

…自分の疑似恋愛に気付いたのに、何でこんなに遠く感じるんだろう。

自分で自分の気持ちが良く分からなかった。



中嶋くんは営業に戻ると直ぐ部長の所へ行ってプレゼンの話をした。

大半は帰社していたから中嶋くんの話を聞いていて、途中1人2人とその場を離れていった。

最後まで聞いていた主任2人が冷淡に言った。

「原価もコストも無い運搬があるか」

「…え?」

「買い付けに掛かる費用、売るために掛かる費用は無しか。売れるまでの保管場所の費用も含まれていない」

「あ…」

「お前倉庫から見て来いよ。それでも同じことが言えるならプレゼンやらせてやる」

主任の声は低くて怒りを堪えているのか私にも分かった。

「みずきが掴んできたチャンスを潰したいのか」

「生かしたいから俺にさせて貰いたいんですっ」

「それで?もし落としたらお前責任取るの?取れるのか?」

「それは、でも全力を尽くしますっ!」

中嶋くんの宣言に四方から笑いが起こった。

「子供はお家に帰れ」

中嶋くんが言った主任を睨み付けた。

「元の責任はお前何だぞ。まだ分からないのかっ!お前がキチンと顧客管理していればこんな騒ぎにならなかったんだっ!!」

中嶋くんが目を見開いて言った主任を見た。

「それを大学の同期だからってみずきが庇ってプレゼンの参加をもぎ取ってきたんだぞ!お前本当に何も分からないんだな」

「何時まで学生気分で居れば気が済むんだ?ここは会社なんだ。大人が仕事に来る場なんだ。仕事はな試験みたいに落ちたら受け直す何て訳にはいかないんだよ」

別の主任が言った。

中嶋くんは床に崩れ落ちて動かなかった。

主任たちの顔に『立ち上がってくればまた1から教える』と書かれているのを中嶋くんは何時知るんだろう。



結果として、プレゼンは辛くもうちに決まった。

中嶋くんは…札幌の更に端の支社に転勤になった。

社員8名の支社で勉強させて合格点が取れたら本社に呼び戻す予定だと同期から教えられた。

「あちこち動くだろうけどそれも勉強だから。学歴があるから戻して仕事させないと給料泥棒の赤字社員になるから人事も難しいんだよ」

転勤になったのは営業の課長もで縁故雇用だったから辞めさせる訳にもいかず暖かい土地の孫会社に出向の形。

私は何とか海外事業部に戻って初の契約を結ぶ事が出来ました。

気になっていた2社はやはり他社に持って行かれた。

それを2年後に中嶋くんの同期が取り返したのは縁があったからかも。

中嶋くんが遠くになって、やっと分かった気がする。

大学の時憧れていた中嶋くん像が、事がある度に欠けていって、あの時完全に砕けてしまったんだと思う。

裏切られたみたいな失恋みたいな仏雑な気持ちになるのは疑似恋愛の終わりだからだと思いたい。



ゆうこちゃんに終わってから報告した、怒られたけど気持ちの区切りは付いたから『良かったね』って言ってくれた。

そして、ゆうこちゃんからの爆弾報告は賢也と『結婚する』宣言。

「お正月に親になるのよ~」

営業の顧客経由でゆうこちゃんの先輩のお店が倒産したのを知っていたから主婦になると聞いてホッとしていた。

無口な賢也からは報告無いけどきっと子供が産まれたら…。

ゆうこちゃんがついでに中学の同窓会の話をしたけど断った。

今更広太に会っても気持ちは動かないけど暴力で来られるのはやはり怖かった。

そして…ゆうこちゃん経由であやみの話も聞こえてきた。

中嶋くんとあやみは別れたそうです。

遠距離になったのか原因みたい。

気になるのは…営業の社員が奪略で『あやみ』って彼女と結婚する話が聞こえてきてる事。

中嶋くんが大人にならないと彼女になる人が苦労するから直ぐには応援できないけど、何時かは幸せになって欲しいと思う。



私の事で特別書ける事は無いのが寂しいけど平穏かな。

ゆうこちゃんが幸せでそれを見てたら…子供が欲しいと思うかも。

そうしたら…養子を貰います。

本当は、かなり真面目に考えてる。

両親を見て育ったから自分が家庭を作れるイメージが湧かないから。

でもきっと寂しくなると思う。

だから、一緒に生活してくれる女の子を。

休日には買い物して映画見て、ずっとしてみたかった暮らしを2人で送って。

そして…その子が育って独立したら私は終の住処へ。

そんな話を長時間の飛行機の中で主任に言ったら笑い飛ばされて、『みずきなら茶飲み話も退屈しないな』とか言われた。

いや、絶対嫌ですから。

定年になっても一緒とか勘弁してください。




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