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迷走  作者: まほろば
21歳12月
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23/29

異動



その後の試験は2回続けて落ちた。

自分でもダメージを引き摺っていたからそれも仕方無いと思えた。

あの後仲居さんたちに助けられて警察も来て、会社側としては警察の介入は予測外で睨んでくる部長の視線が恐ろしかった。

事件になった事で会社の顧問弁護士が間に入った。

示談が決まるまでの間ねちねちと弁護士に言われ続け、申し訳なさで胃に穴が開いて会社から救急車で病院に運ばれた事もあった。

「社の外聞を考えなかったんですか」

「警察ではなくまず私を呼ぶべきだったんですよ」

「弁護費用は社にではなく君に請求させて貰う」

「不用意に事件にした事で君が襲われた事が衆知の事実になってしまったんですよ」

「出社しているそうですね恥ずかしくは無いんですか」

まるで警察沙汰になったのは私の落ち度みたいな言い方に、かなり傷付いた。

営業のメンバーも私が辞めると思ったらしくて上が2社を切ろうとしていた話をこっそり社内のパソコンフリーメールで教えてくれる人もいた。

そのお陰で自分が利用されたんだと気が付いた。



気が付いても何も出来なかったけどどうすれば良かったのか分からなくて、自分でも都合が良いと分かってるけど佑にラインした。

佑はまる2年の空白を咎めないで教えてくれた。

弁護士費用は基本加害者に請求されると聞かされて驚いた。

私の場合有責の向こうの担当が負担するそうだ。

『会社側はみずきを辞めさせたいんだろう。だから弁護士が圧力を掛けてくる。スキャンダルは株価に影響するからな』

おちゃらかキャラだった佑の真面目な文章に、あやみからどう聞かされているのか不安になった。

確かめたいけど私から話を振れるはずもなくて、モヤモヤした物が胸に残る。

『次回からは弁護士との会話を録音した方が良いよ。脅迫の証拠になるから』

「うん」

スマホで録音する方法を帰りにショップへ寄って教えて貰った。

会社は示談の前に私を辞めさせたかったんだと思う。

弁護士が私との話し合いを再開する前にスマホをテーブルに出して、録音する旨を話した。

「拒否したら?」

弁護士の表情が固くなった。

「拒否られるのでしたらこちらも弁護士を立ててからの話し合いにしましょう」

探るように私を見てくる弁護士に『友人の父親が民事専門の弁護士をしてるので相談した』と佑に教えられた通りに伝えた。

そこから弁護士の態度は逆転した。

私に法律の知識が無いと思って強引に出ていた言動がピタリと止んでどんな知恵を付けられてきたのか言葉の端で探ってくる。

スマホで会話を録音しているのも効果があったんだと思う。

毎回毎回録音を聞き直して気になる所は控え挙げ足を取られないよう対応に必死だった。

相手有責で慰謝料を受け取って示談になった事が営業の中で流れて、私に向く目が少し変わった。

ただの田舎者から身内にやり手の弁護士が居る、に変わった感じ。



冷静になって気持ちを沈めてから改めて社内講習を申し込んだ。

そんな時に主任から『TOEIC』の話が出た。

「今年は受けたのか?」

「いえ。講習と重なるので受けていません」

主任の言いたい事が分からなかった。

「毎年とは言わないが2年に1度は受けるように。資格は古くなれば持ち腐れになる」

「…はい」

TOEICだけじゃなく、他も資格も受け続けろと主任は言いたいんだ、と気が付いた。

社内で通用する資格と併用して外で通用する資格も受けるのは無謀だ。

それを平然と要求してくる主任が鬼に見えた。

免許ももうすぐ『仮免』でまだまだ取れるまで時間も労力も掛かる。

それなのにもっと何て…。

坂から転がされたようにどうしても気持ちは下へ下へと落ち込んでいって季節も暑い夏から一足飛びに冬の初めになっていた。

追い討ちを掛けてくるように賢也からラインが来た。

ゆうこちゃんのコンペは失敗だったって。

2月にもう1度リベンジする話も同時に来た。

『夏の飲み会の時かなり追い込まれていた。みずきに八つ当たりする形になったが許してやれよ。本人も気にしている、仲直りに近々飲もう』

デジャブなラインに怒りと諦めと拒絶が混ざり合ってスマホを壁に投げそうだった。

八つ当たり。

9月のコンペに向けて煮詰まっていた、って言われたら『やはり』って思えた。

思えるくらいゆうこちゃんは攻撃的だったから。

だからって言い訳にするのは違うと思った。

私も八つ当たりで自分だけじゃなく他人を傷付けて今は後悔してる。

冷静に話せるようになるまで、ゆうこちゃんに会いたくなかった。

それに…賢也があやみを庇う中嶋くんとだぶってしまって両方に会いたくなかった。



12月になる直前にまた異例の異動の話があった。

12月1日付けで今度は海外事業部。

そんなに私は会社のお荷物なのかと本気で『退職』を考えた。

異動の公示には主任も外国事業部に異動になっていた。

営業の中で主任が私を海外事業部に引き抜いた話が流れた。

否定する前に『お詫び』で連れていくんだろう、って流れた。

噂って当人が知るのが1番最後のはずなのに、流れ始めと同時にみんなが私に教えてくれた。

遠回しに『自惚れるな』って事らしい。

会社としては国内にも力を入れているけどメインは海外らしい。

本社の営業の人数が少ないのも、国内は支店に任せているからみたい。

同期から『そんな事は入社前に調べておけ』って嫌味を言われた。

「何でみずきなんだよ」

「俺だって実績上げてるのによ」

主任の異動の飲み会で酔った数人が絡んできた。

「お前、主任に体を差し出したのか?」

周りの視線が敵意を隠して私に向いた。

「お前言い過ぎだぞ」

止める振りをして見てくる目には『嫉妬』が見えていた。

「おいっ!」

主任が怒った声を出した。

言い返してくれる、と思った期待は裏切られた。

「俺がみずきに何だ。俺の女を見る目は節穴か」

会場が爆笑した。

どれだけ私が傷付いたか、誰も気にもしてない。



会社の苦い洗礼を浴びた後ゆうこちゃんからラインが来た。

会って話したいとあって、『忙しいからラインで』と逃げた。

『この前はごめん。みずきも一杯一杯だったんだよね』

ゆうこちゃんからのラインは謝罪とあれからの事が色々書かれてた。

返事は返さないけど既読になってるはずだから読んでるのは分かるはず。

そして、『本題なんだけど』と改まった書き方に変わった。

『1つ目はスーツの入れ換えをさせて欲しい。2つ目は1度断ったけど再度あやみと中嶋くんからスーツの以来が来てる』

読み流すつもりが手が止まってしまった。

『みずきと同じく友達価格でお願い、って着たけど断って良いかな。聞かなくても断るつもりだけど、高校や大学の同窓会とかで聞いて驚く前に私から知らせようと思って』

「断って」と短く返した。

あんな別れ方をしたのにゆうこちゃんに頼んでくる気持ちが分からなかった。

内定貰ってから1年近くあったはずなのに、何故今頃?

思っても私に知る術は無かった。

『了解』

考えてたらラインが来た。

あやみも中嶋くんも卒業までもう半年もない。

自分の入社前を思い出して少しだけ2人が心配になった。

異動の引き継ぎに追われている中ゆうこちゃんからまたラインが来た。

あやみから、10月の終わりに突然内定を取り消されて不利な就活をしているから『どうしてもゆうこちゃんに作って欲しい』と聞かないらしい。

『ゆうこちゃんのスーツでみずきは受かった』

あやみはそこに固執してるとゆうこちゃんはラインに書いてきた。

ゆうこちゃんのスーツだってあやみに話した事は無い。

疑問に思ってたら中嶋くんが浮かんだ。

考えられる可能性は中嶋くんしか居なかった。

『根負けして2着だけ作る約束をしたけど価格が折り合わない』

あやみは私より安い値段を提示しているそうだ。

『既製品じゃないんだから、そんな金額じゃ原価でも無理』

あやみは私を交えて話したい、と言っているらしい。

『謝ってみずきに私を説得して貰いたいんじゃないかな』

そうとは思えないけどこれ以上ゆうこちゃんに迷惑を掛ける訳にもいかず、金曜の夜に3人で会う約束をするしかなかった。





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