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幕間 ヴェラのある一日

セブンス二巻は4/30日発売です。

買ってね!

「……はぁ」


 溜息交じりに後宮を歩いているのは、ヴェラ・トレースだ。


 真っ赤なドレスに黒髪はツーサイドアップ。城の中に用意された街――後宮を歩いてはいるが、小さな街を歩いているような感覚だった。


 目の前の通りを小さな子供たちが歩いている。


 手には書物や筆記用具を持っており、これから違う屋敷で勉強でもするのだろう。というか、そんな事をしているのはシャノンの子供たちだけだ。


 基本、全員が集まって勉強する時間がある。だが、それでは足りないと、各屋敷で家庭教師を呼ぶか城に来て貰い追加で学ぶ時間が設けられる。


 しかし、シャノンのところはミランダに丸投げだった。


 幼い子供が三人。


 歩いているところにヴァルキリーが手に玩具を持って三人の前に立ちふさがった。


「皆様、今日くらいは遊んでも宜しいのでは? 我々、日々遊具の開発や再現に取り組んでおりまして、楽しんで頂けると――」


 これから勉強をしようとしている子供に玩具を勧めるヴァルキリーだったが、子供たちは首を横に振った。


 一番小さな金色の瞳を持つ少女が、ヴァルキリーに言う。


「九十二号、今から叔母上の屋敷でお勉強だから遊んだら駄目なんだよ。帰ったら遊ぶから、それまで母上のお世話をお願いね」


 幼子のその言葉に、ヴァルキリー九十二号が膝から崩れ落ちる。玩具を地面に落とし、それを拾おうともしない。


 ヴェラもまだ小さな子供たちが、こんなにしっかりしているのに感心した。


(本当にシャノンの子供なのかしら?)


 子供たちが九十二号に玩具を拾い、そして渡してその場を去って行く。


 九十二号が泣き始めた。


「嘘だぁぁぁ! こんなの嘘だぁぁぁ! だって、ご主人様とあの駄目なシャノンさんのハイブリッドであるヒヨコ様たちが、あんなに立派な訳がない! もっと駄目な感じを引き継いで、勉強したくないとか駄々をこねて……それを私たちが『しょうがないですね』なんて言って……私の夢がぁぁぁ!!」


 泣き崩れる九十二号を前に、ヴェラが呆れていた。


 隣に立つヴァルキリー十一号が鼻で笑っていた。手にはヴェラの子供である赤ん坊が抱かれている。


「はっ、無様ですね。最大派閥と粋がっておいてこの様ですか。うちのヒヨコ様は立派な駄目人間にして見せますからね」


 赤ん坊に笑顔を向けそんな事を言うヴァルキリーに、ヴェラは恐怖する。


「あんたたち、それ冗談で言っているのよね?」


 十一号が首を傾げた。


「え? 本気ですよ。もう、私たちなしでは生きていけない存在にするつもりです。大丈夫。私たち、定期メンテとオーバーホールで数万年は稼働できると自負しています」


 ある意味、ヴァルキリーも怖い存在だと思うヴェラだった。


「その能力を無駄にしていると言うべきか、それともソッチ方面に力を注いでいるのを喜ぶべきか……というか、古代人は何を考えてあんたたちを作ったのかしらね?」


 十一号は九十二号の前で、見せつけるようにヴェラの赤ん坊をあやす。


 それを九十二号が羨ましそうに見ていた。


 赤ん坊の時は手がかかる。それが、ヴァルキリーにはたまらないらしい。


「うふふ、あなたのお兄様であるヒヨコ様は立派になってしまいましたが、この十一号がいる限り立派な駄目な子に育てて見せます」


 そんな事を言う使用人がいれば、普通の主人ならすぐにでも追い出すだろう。しかし、ここは後宮でヴァルキリーは優秀なメイドだった。


 追い出す事も出来ないが、追い出すつもりもない。


 何しろ、このヴァルキリーズ……ライエルの子供なら無条件で守ってくれる。保護対象として扱うので、派閥争いで暗殺など起こさない。


 むしろ、起こそうとすれば情報を流して母親の方を追い詰める。


 それが後宮内での派閥争いに一定のブレーキをかけているのは、誰もが知っていることだった。


 頼らざるを得ないのだ。


 散歩をしていたヴェラは、空を見上げた。


 十一号がヴェラを見る。赤ん坊に頬をペチペチと叩かれ幸せそうだった。


「おや、どうされました?」


 ヴェラは言う。


「お父様がね。二人目は是非ともトレース家の跡取りに欲しい、って言うのよ。あの手この手で認めさせようとして五月蝿いのよね」


 孫可愛さに頻繁に帝都に通うフィデルは、どうにかして孫を後宮から出そうとしていた。


 十一号が笑う。


「それは無理です。トレース家の跡取りはヴェラさんの妹であるジーナさんの子供を迎えるという決まりでしたからね。なんなら私に任せて頂けますか? ヒヨコ様を奪われるなんて耐えられないので、知られたくない情報の一つや二つをすぐにでも見つけて脅せば大人しく……」


 怖いことを言い出す十一号に、ヴェラが叫んだ。


「駄目に決まっているでしょ! あぁ、もう! この件はライエルと話すから、あなたたちは手を出さないで」


 十一号がつまらなそうにする。






 夜。


 ヴェラの屋敷を訪れたライエルが、モニカに抱かれている赤ん坊を見ていた。


 モニカは右手でしっかりと赤ん坊を抱きしめ、左手で十一号の頭部を掴み押さえつけている。


「か、返しなさい! その子は私のヒヨコ様です!」


 モニカは勝ち誇った笑みを浮かべ。


「残念でした。このモニカ、チキン野郎の専属としてヒヨコ様のお世話も仕事と自負しております。量産品で劣化品のポンコツは下がっていなさい」


 ムキー! などと言って遊んでいるモニカと十一号を、ライエルはじっと見ていた。その姿は、どこか考え込んでいるようにも見える。


 ヴェラはそんなライエルを見て、


「ねぇ、聞いているの? お父様が本格的に孫を確保しようとしているんだけど?」


 ライエルはハッとした様子で、


「え? あぁ、そうか。そうだな。孫が可愛いのかな?」


 そうして俯いてしまうライエルを見て、ヴェラは肩をすくめるのだった。すると、モニカが喜び出す。


「おや、ヒヨコ様がおねむですね。このモニカが子守歌を歌ってあげますよ。モニカの美声で眠れるなんて幸せ者ですね。チキン野郎以外で聞けるのは、ヒヨコ様たちだけですからね」


 部屋の奥へと向かうモニカに、十一号が追いかけて行く。


「お前はもう帰れ!」


 二体のオートマトンがいなくなると、ヴェラがライエルの肩に手を置いた。ライエルは顔を上げる。


「なぁ、やっぱりこういう環境はよくないよな」


 ヴェラは少し笑っていた。


「ヴァルキリー? でも便利よ。いれば派閥争いで血を見なくてすむから。子供たちだけは絶対に安全だもの」


 ただ、ライエルはそれが不自然に見えているようだった。


「やらせたくないの?」


「そうじゃない。あいつら楽しそうだし、俺個人としては助かっているんだ。けど、あいつらと俺たちは生きている時間が違うから」


 ヴェラが言う。


「千年、万年でも稼働する、って言っていたわね。それなら安泰じゃない?」


 ライエルは真剣な目をしており、それを望んでいないのがヴェラには理解できた。


「あいつらが本気を出せば、この帝国だって何千年と続くんだろうさ。でもさ、それって正しいのかな? 最近、それをよく考えるんだ」


 ライエルの価値観は、旅をしていた時に歴代当主たちによって決定づけられた。そんなライエルには、未来永劫続く帝国というのは不自然に感じているようだ。


 ヴェラも同意をする。


「そうかもね。でも、今ヴァルキリーズから子供たちを取り上げると怒るんじゃない? それに、派閥争いも激化するわよ」


 自分の子供が害される心配がないから安定しているだけで、その可能性が出れば鬼にもなる女性陣は多い。


 実際、ヴェラも自分の子供を害されそうになれば何をしてでも守るだろう。


 ライエルが頭を抱えた。


「それなんだよ。なんであんなに喧嘩するんだよ。ノウェムにもミランダにも言ったんだ。そしたら笑って『相手が仕掛けてくるから』って言うんだよ。おかしいだろ。ルドミラもなんかやりそうだし、どうして殺伐としているの? もう勘弁してよ。寝るときくらいゆっくりしたいよ。シャノンを見習えよ。あいつ、逆に屋敷から出ないから心配なくらいだぞ。あの二人は少し引きこもれば良いんだ」


 愚痴をこぼすライエルをヴェラは抱きしめて慰めるのだった。


四代目( @д@)「こんなに優しいヴェラちゃんですが、感想欄などでの愛称は『財布さん』でした。人気は高かったけどね」


モニカ( ゜∀゜)o彡°「私の方が人気ですけどね! ……そして! セブンス二巻は4/30日発売です! 私はまだ出ませんけど!」


ミランダ( ゜д゜)「……」

ミランダ(゜д゜)「二巻に出てくる『ソフィア』って誰よ?」

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