第十話「あれ? もしかして……」
クリスマスイブですね。
……そうそう、今月の二十八日には【セブンス】の一巻が発売なんです。
まぁ、関係ないんですけどね。
『ではレオ君に質問だ』
宝玉内の円卓の間。
そこでライエルは椅子に座っているレオに対して、歩き回りながら質問を投げかける。円状の室内をゆっくりと歩いており、レオはライエルを視線で追っていた。
『今回の三次試験……目的はなんだ?』
「三次試験ですか? 勝つ事ですかね。勝たないと実質的にハンターになれませんし」
『はい失格』
ライエルはレオの答えをバッサリと否定する。
そして、ライエルは自身の考えを披露するのだった。
『結果として勝てば合格する確率が高いというだけだ。この場合、三次試験の目的はレオがハンターになる事だ。勝敗も重要だが、そこを見誤ってはいけない』
レオはジト目で歩き回るライエルを見ていた。
「失格になりそうなら脅しですか? それは流石に……」
ライエルは笑顔でレオに言うのだ。
『綺麗事は嫌いじゃないけど、現実を見ようか。単独で合格できた可能性が限りなく低いレオ君』
「……はい」
ライエルに言われるまでもなく、レオは自身の実力不足を嘆いていた。ただ、これまで生活の方が大変だったのだ。
劣悪な環境に加えて、人間関係も上手くいっていたなどとは言えない。そうした外的要因にも原因はある。しかし、それを言い訳にしてもハンターにはなれないのだ。
『最終的にハンターになる。ハンターの素養があると認めて貰う必要がある。そうなると、ギルドマスターが強者をレオにぶつけてくるのは好機でもある。相手が強いと分かっていれば、善戦しても可能性はあるからな』
負けても合格できればいいのだ。しかし、それをギルドマスターが認めるのだろうか?
「ナナヤさんに頼むとか言うんですか?」
ライエルは立ち止まって首を横に振るのだった。
『止めておけ。あいつら、自分の欲望に忠実だからな。お前が失格になって落ち込んだら、世話をしようとか考える可能性が高い』
「……なんか怖いですね」
『実際に怖いよ。だから政治から――帝都から遠ざけた訳だし。帝都にいても城には入れなかったはずだよ』
かつてライエルのために働いたオートマトンたち。しかし、聞く限りでは駄目人間製造機のようだった。
そんな彼女たちが今でも稼働していて、レオを狙っているのだ。レオにしてみれば軽くホラーだった。
『そう言えば、魔法の方はどうよ?』
ライエルが話を変えると、レオは喜んで席を立った。
「三回まではなんとか撃てるようになりました! 前より結構早く出せるんですよ」
自信満々のレオを見て、ライエルは「俺に撃ってみな」そう言う。レオは躊躇いながらも、この世界では怪我がすぐに治ると思って放ってみた。
「ファイヤーバレット!」
レオの右手から火球が飛び出すと、ライエルはそれを左腕で払ってかき消した。笑顔でレオに向かって言う。
『発動までの時間がかかりすぎ。しかも狙っている場所が丸分かり。ついでに速度もなければ威力もないね』
席に座って膝を抱えるレオ。ただ、ライエルはこれで終わらない。
『ただし、その成長速度はたいしたものだ。このままいけば、試合には間に合わないけど魔法も使えるレベルになる』
「試合……あの、もう明日なんですけど、何か秘策とかないんでしょうか?」
不安そうなレオに対して、腕を組んだライエルは少し考え込んだ。
『ないな。こういうのは単純に積み上げてきたものが結果として出る。相手の状態や、自分の状態も影響するけどね。レオの場合は……色々始めたけど一ヶ月前だろ? スキルを三つも扱えるだけでも十分な秘策だよ』
「でも、あのスキルは正直……」
確かに頼りになる。しかし、派手ではなかった。一発逆転が可能かと言われると、不可能に思えた。
ライエルは、そんなレオを見て笑顔を作る。
『まぁ、俺とモニカに出来る事はやっているから心配するな。明日のために今日はもう寝ろ』
「大丈夫なのかな……」
不安そうなレオを見ながら、ライエルは過去の自分を思い出していた。
(こういう気持ちで見ていたのかな? まさか、自分がこちら側に来るなんて思わなかったけど。しかも一人だけ)
頼りない自分を、かつての歴代当主たちがどう見ていたのか。
ライエルは少しだけ気持ちが理解できたのだった。
レダントコロニー。
番号の振られていない比較的新しいコロニーのギルドでは、ギルドマスターが葉巻を加えていた。執務室には煙が漂っており、部屋に部下が入ると顔をしかめた。
部下――ダリオンS級ハンターである【フランディア・バークレス】だ。ベイム地方をまとめるダリオンのS級ハンターは、スーツの上にコートを羽織っていた。癖のある髪をポニーテールにした背の高い女性だ。
「まったく、体に悪いから止めろと言ったはずだが?」
まるでマフィアのボスであるようなスーツ姿のギルドマスター……【ドニ・バークレス】は、入ってきた娘の言葉に苦笑いをする。葉巻を灰皿の上に置いた。
「本部のS級ハンター様がなんの用だ? 愛しいパパに会いに来たのか?」
冗談を言うドニに対して、フランディアは「そうだ。会いに来てやったぞ」そう言っていた。すると、ドニが少しだけ嬉しそうにする。
ベイム地方にあるコロニーは三つ。レダント、十三番、十四番の三つのコロニーだ。中でも最新の設備を持つレダントは、人口が百万人前後ながらも他よりも豊かだった。
フランディアは書類の束をドニの机に置く。
「例の件だ。ナナヤから報告があった。黒で確定らしい」
ドニは真剣な顔をして書類を手に取った。
「そうかい。まったく、余計な事をしてくれたもんだ。普通なら支部の問題だと突っぱねてもいいが……」
報告書はナナヤのものだった。それがドニの興味をそそる。
それは、フランディアも同じであった。
「今年はバウマン家のウルハルトが出るらしい。私も興味がある。次期S級ハンターにもっとも近いからな」
ドニはバウマンと聞いて目頭を指で揉んだ。
「バウマンか。悪い奴でもない。頼りになるし、個人的には仲良くしたい相手だ。相手だが……毎年の贈り物がタンクトップって」
フランディアは不敵に笑う。
「それよりも運動不足で出て来た腹をどうにかしたらどうだい、元S級ハンターさん。まぁ、私は結構気に入っているよ。肌触りもいいし」
「え、そうなの?」
娘がタンクトップに奪われたような複雑な気持ちを抱きながら、ドニは書類に視線を戻した。
「俺は離れられん。お前は好きにしていいぞ」
すると、許可が出たのでフランディアは言う。
「なら、十三番コロニーに向かうよ。そうだ。例のお嬢様も連れて行っていいかい?」
ドニが手を振って許可を出す。
「ノックスのお嬢様だろ? 好きにしていいぞ」
恰幅のいい額の広がりが気になりだしたドニ。スーツは派手な色をしており、まるでマフィアのようだった。
そんなドニの娘であるフランディアは、笑顔でギルドマスターの執務室を出て行く。
「流石は親父だ。話が早い。なら、すぐに出発する」
そんな事を言う男らしい娘の背中を見ながら、ドニは呟く。
「パパ、って呼んで欲しいんだけどなぁ……」
三次試験。
試合当日。
レオはモニカが用意してくれたプロテクターを手足に取り付けていた。
わざわざ用意してくれたこのプロテクター……実は、襲撃してきたハンターたちから奪った物で仕立てられている。
出所さえ気にしなければ、レオにはありがたい装備だった。
体を動かしながら、会場で行われる試合を見ていた。試験会場は四つに区切られ、それぞれが試合を行っていた。
体育館のような試合会場。その二階から見下ろす形で、レオとモニカは試合を見ていた。宝玉内からはライエルの声も聞こえるのだが……。
『酷いな』
「まぁ、ハンターの卵たちの試合ですので」
目の前で繰り広げられているのは、まるで子供の喧嘩だった。殴り合っているだけで、お互いに血だらけだ。しかし、真剣だった。
違う場所では、実力差がありすぎて一瞬で試合が終わってしまっている。
『今の子は良い動きだったな』
感心するライエルだが、モニカが説明を加えた。
「魔具で肉体強化をしていますし、当然の結果ですね。どうやら、今の子はコロニー内で名門と言われる一族の子供のようです」
それを聞いて、ライエルは笑っていた。
『それであの動き? そうなると微妙かな。素の状態であれだけの動きをして欲しいよね』
外の世界で魔物を倒して生活していたライエルの世代と、コロニー内で魔物の脅威を感じない生活をしていたレオの世代。
価値観が違いすぎていた。
レオは、二人の会話を聞きながら緊張していた。
「あ、あの……トイレに行って来ます」
緊張しているレオを、宝玉内のライエルは微笑ましそうに見ていた。
『今からそんなに緊張しても疲れるぞ。楽しめばいいのに』
(楽しめるか!)
ライエルの図太さを見習いたいと思いながら、レオはトイレへと向かった。すると、一人の少女とすれ違う。
ファーのついた白いジャンパーは、コートのようだった。フードをかぶっているが、コートの前は開けてあり青く長い髪が見えている。金色の瞳がレオを見た。
普通に挨拶をするレオ。
「こ、こんにちは。あの、試合に出るの?」
すると、歩き去ろうとした少女が足を止めた。振り返った少女。コートの下は動きやすそうな肌にフィットするスパッツなどを着用している。上着と中身がアンバランスだった。
「……出ないわ。見学に来ているだけ。貴方は出場するの?」
「う、うん」
ライエルは少女を見ながら、なにやら考え込んでいた。
『う~ん、まぁ似ているような……似ていないような』
すると、ライエルが声を発したのを聞いたのか、少女の視線が宝玉へと向かった。レオはビクリと反応する。
ライエルは面白そうだった。
『あれ? もしかして……』
だが、声は聞こえていないようだ。少女はレオを見ながら、宝玉を指差した。
「珍しい物を持っているわね。それ、結構古いものでしょ」
「え? うん。父さんの形見だよ」
「大事にするのね」
そう言って少女は歩き去って行く。
試合会場。
ハルバはスーツ姿の女性たち。
フランディアとナナヤに挟まれる形で立っていた。両手に花だが、少しも嬉しそうではない。
何しろ、両者共にギルド本部からやってきた厄介ものだ。ハルバが支部長なのに対して、二人は本部勤務の偉い人間だ。
そんな人間が二人も来ており、ハルバは異常に汗をかいていた。
「ハハハ、それにしても、本部のS級ハンターと職員が見に来るというのは、なれないものですね」
今までこうした事はなかった。ハンター試験とは言っても、所詮は末端を集めているようなものだ。ここからスカウト組みは別として、一人か二人――A級に上がることが出来れば、大収穫と言える。
ナナヤも少し不満そうだった。
「フランディアさんが来るまでもありませんでしたね」
フランディアは笑っていた。
「そう言うな。お前が気になる相手を見ておくのも悪くない。それに、後進の育成も我々の課題だよ。そのための計画もあって――おっと、来たか」
そんな三人の下に、階段を上がって登場する少女がいた。フードを外すと、青く長い髪が見えた。
フランディアは少女に手を振る。
「【エレノア・ノックス】ここだ」
ハルバが少女を見て首を傾げた。
「誰です?」
ナナヤが視線は試合に向けながら、エレノアのことを説明する。
「お隣のコロニー連合。そこの名家の少女です。こちらにはベイムとの交流のために派遣されてきました」
エレノアが挨拶をする。
「ルソワースコロニーから来ました。エレノア・ノックスです。よろしくお願いします」
礼儀正しいが、どこか冷たい印象のある少女だった。フランディアの隣に立つと、試合が行われている会場を見下ろした。
フランディアがたずねる。
「どうだい、ベイムの実力は」
意地の悪い質問だ。見ているのは末端のハンターを集めるような試験。本当の実力者が出ても、試合ではその実力の何割を見せているか分からない。
それに、連合も末端は同じようなものだった。
「ルソワースコロニーとは形式が違うので、少し新鮮に感じますね。ただ、実力に関してはなんとも」
笑うフランディア。
「だろうね。末端の連中――しかも、合格すらしていない連中だ。私だって正直に言えば見るに耐えん」
(なら来るなよ)
ハルバがそう思っても仕方がなかった。そうして次々に試合が消化されていくと、最後の試合が始まろうとしていた。
最後と言う事で会場を丸ごと使うようだ。周りもざわつき始めている。
エレノアがその雰囲気を察して、フランディアにたずねた。
「雰囲気が変わりましたね」
フランディアも楽しそうだ。
「今年の大型ルーキー確定の登場だ。まぁ、みんな気になっているんだよ。私も気になっている。あんたと同じだ」
エレノアは呟いた。
「名門……バウマン家ですか」
会場に黒いタンクトップを着用した少年が登場すると、周りが一気に興奮したように騒ぎ始めた。十三番コロニーの名門バウマン家。その跡取りの登場に、周りも興味があるのだ。
そして、四人がいる場所に、スーツ姿のベイラルが登場する。
「おや、お揃いでしたか」
フランディアは手を振ってベイラルに応えた。
「あんたの息子を見に来た。仕上がりを聞いてもいいかい?」
ベイラルは胸を張って言う。
「まだ完全ではありませんし、拙いところも多い。ですが、自慢の息子ですよ」
それを聞いて、フランディアは試合会場で相手を待つウルハルトを見た。
「それは良かった。戦力は少しでも多い方がいいからね」
五人が、対戦相手の登場を待つ。
そして、オレンジ色の髪をした少年が登場した。
ライエル(・ω・` )「青い髪。いや、水色とも言えるし……エリザ? でも、金色の瞳はシャノンだし……こう、来るものはあるけど、どっちかまでは分からないなぁ。でもルソワースなら可能性はなきにしもあらずで……両方?」
レオ(;゜д゜)「あの、もうちょっとだけ俺の心配もして欲しいです。もう試合なんですけど!」
ライエル(`・ω・´)「馬鹿野郎! こっちも真剣なんだ! 相手は俺の血を引いているかも知れないんだぞ!」
モニカ( ゜∀゜)「安心してください。該当者は万単位で存在しています!」