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三嶋与夢のメモ帳  作者: 三嶋 与夢
せぶんす・あふたー
20/63

第八話「俺は滅多に嘘を吐かない男だよ」

 無事に十三番コロニーに戻ってきたレオとモニカの二人。


 ゴールした順位は意外にも上位であった。三日目に到着したので、百位以内に入っているか不安だった。しかし、順位で言えば二十位台。


 コロニーの入口で順位を告げられ、そのままギルドに戻ると部屋が用意された。そこで第三次試験の内容を聞くはずだったのだが――。


「失格? どういう事ですか!」


 部屋をたずねてきた職員に言われたのは、レオが不正を行ったので二次試験の突破が取り消されるという事実だった。


 職員はモニカを見る。


「流石に助っ人を使われてもね」


 モニカはわざとらしく片言で返事をする。


「ワタシオートマトンデス」


「いや、普通に会話をしているのも見ているから。ただ、こちらも試験官が許可を出したという話もあるし、話し合いはしたんだけどね。ギルドマスターが強固に反対してね」


 結果として、モニカという高性能なオートマトンを持っているのがおかしい。魔具ではないので、レオは違反者として不合格と言われたのだ。


 もっとも、モニカはオートマトン。広義の意味では魔具だ。だが、不正かと問われるとグレーゾーンである。何しろ、流石に不正と思われてもおかしくない性能を持っている。


 ただ、その事実をレオは知らない。可愛いメイド型のお姉さんで、少し強いと思っているだけだった。


「そんな。で、でも――」


 ハンターに襲撃された事実を言おうとしたが、ここで動いたのはライエルだった。


『お困りかな、レオ君。まぁ、任せなさい。このライエル・ウォルト……こういった時の対処も考えている。相手がお前を失格にしたいのなら、話し合って解決だ。なに、心配するな……一言一句、俺の言葉を相手に伝えればいい。そうだな、まずは……彼らのボスと話をしようか』


 ライエルが腹黒そうな笑みを浮かべながら、レオに相手に伝えて欲しい事を口にする。それは、ギルドマスターと話をしたいというものだ。ついでに、モニカもディスクを用意した。


「あの、でしたらギルドマスターに直接話をさせてください!」


 職員はレオの申し出に渋る。


「ギルドマスターも忙しいんだ。悪いが、ここで失格だよ。次はちゃんと試験を受けてくれ」


「お待ちください。でしたら、こちらをお渡し頂けますか。ギルドマスターにお届けして貰えればそれで構いません。それと、私たちはしばらくギルドのロビーにいますので、呼び出すときはそちらに」


 職員は渋々ディスクを受け取った。中身が気になるようだが、渡せばレオたちが引き下がると言うので。


「分かった。報告ついでに渡しておくよ」


 モニカは笑顔で言うのだ。


「予備もあるので、もしなくしたら声をかけてください。あ、予備があるのはギルドマスターにお伝え頂ければ、安心されると思いますよ」


 職員がディスクを持って立ち去ると、レオはモニカの方を見た。不安なのか宝玉を握りしめている。


「大丈夫かな。それに、あのディスクを渡してくれるかどうか」


 モニカはニヤリと笑って言うのだ。


「えぇ、大丈夫です。まぁ、あの職員が握りつぶしたとしても、近い内にギルドのロビーで映像披露を行うので心配ありませんよ」


 ライエルも乗り気だった。


『そうだよ。別にここだけが世界じゃないからな。余所でハンターになってもいいし、置き土産は派手に披露する。まぁ、その前に受付経由でまた被害に遭ったと報告してもいいし、駄目ならナナヤ――七十八号に頼ればいい』


 モニカは複雑そうな表情をするのだった。


「なんという駄目な発言。しかし、頼るのがあいつらですか……私、今は嫌われているんですけどね」


 ライエルは笑いながら言うのだ。


『前から嫌われていたじゃないか。それとも、何かしたのか?』


 モニカは少し考え込みながら、首を横に振る。金色のツインテールが揺れると、部屋の中の荷物をまとめだした。


「まぁ、色々です。私は裏切り者――影のある美少女メイド、モニカですので」






 レオとモニカがギルドのロビーで時間を潰して待っていると、しばらくして先程の職員が慌てて二人のところにやってきた。


「すまない。すぐに来てくれ。ギルドマスターが話を聞くそうだ」


 二人が案内されて職員にギルドマスターの部屋まで案内された。執務室らしいその部屋に通されると、七三分けでチョビ髭をした男性が部屋にいた。体は平均的。痩せてもいなければ太ってもいない。


 背丈も普通な男性で、ギルドマスターというイメージではなかった。


 レオとモニカが部屋に入ると、職員が退室する。


 そして、職員がいなくなると、ギルドマスター……ハルバ・アーネットが、二人を前にして憤慨していた。


「あの映像をどうやって押さえた。あそこにはカメラなど設置していない。しかも鮮明に……お前たちは何者だ」


 ハルバ曰く、下層ギリギリの中層で、ハンターたちがレオを襲撃した映像が残っているのがおかしいという事だった。しかも映像は鮮明で、ハンターの顔もしっかり確認できていた。


 貧乏人であるお前たちが、そんな事が出来る訳ない。だから、裏に誰かいるのではないか? そう判断したのである。


 すると、宝玉内のライエルがレオに指示を出した。レオは、一言一句間違えないように、ハルバに言うのだ。


「それを教えたとして何か意味でも? 俺たちが望むのは、失格の取り消しです。俺は不正を働いていません」


 ハルバは苦虫を噛み潰したような顔をして、舌打ちをする。


「私に逆らっておいてよくも……だが、お前らは試験会場に配置したハンターを襲撃したな? アレも立派な不正行為だ」


 レオが反応しそうになると、ライエルが嬉しそうな声を宝玉から出す。


『反応するな。どうせ証拠があっても意味なんかない。こいつがその件でレオを失格にさせなかった事から、自分も後ろ暗い事をやっていると理解しているはずだ。レオ――いいか、こう言え』


 レオがライエルの言葉に続けた。


「証拠でもあるんですか? でしたら、是非とも出して頂きたいですね。公正な場で判断して貰う事が必要では? それとも……できないんじゃないですか?」


「う、うぐ。ガキがぁ!」


 腹立たしいレオの態度に、ハルバが机に拳を振り下ろした。だが、たいした音はしないし、痛そうにしていた。


 レオは、ハルバに言うのだ。モニカはエプロンからディスクを三枚取り出す。


「ギルドに提出した証拠は、コピーも含めてここに三枚あります。他にはありません。俺はハンターになりたいんです。邪魔をしないで貰えますね?」


 ハルバはレオを睨み付けているが、振り下ろした拳を反対の手でさすっていた。赤くなっている。


「し、信じられるか! まだ他にもあって、私を脅すつもりだろう!」


 ライエルは、楽しそうにしている。


『酷いな。小物と一緒にしないで欲しい。俺は滅多に嘘は吐かない男だよ。レオ、言ってやれ』


「では、ギルドへ俺が出した被害届を取り下げます。アレは俺の間違いだった、という事にしましょう」


 それを聞いて、ハルバは笑みを浮かべた。


「いいだろう。失格は取り消してやる。だが、そこにあるディスクは私に渡せ。そして、あの件はお前の勘違いだという念書も書いて貰う」


 言われた通りにレオはディスクを渡して念書も書いた。そして、ハルバはその見返りとして失格を取り消すと職員に知らせると、書いた念書をレオがハルバに渡す。


 ライエルは、楽しそうだ。そう、まるでかつての歴代当主たちのように。


『あぁ、これでレオの家を襲撃した時の件はチャラだ。良かったな、ハルバ君。でも、アーネット……まさかな』


「これで終わりだ。とっとと出て行け」


 執務室から追い出されるレオとモニカ。






 ハルバは、二人を追い出すと念書を机にしまい込んでディスクを破壊した。


「この私を脅しおって。くくく、だが……確かに私は失格を取り消したと言った。言ったが、お前を合格させてやるつもりなどない! 丁度いい。あのタンクトップ野郎の息子がいたな。アレを三次試験でぶつけてやる」


 ニヤニヤ笑っているハルバは、レオに三次試験で勝てない相手をぶつける事を決めた。


 バウマン家。十三番コロニーの名門バウマン家の次期当主。


 自由騎士エアハルトの子孫であり、ベイラルの息子。


 スカウトされ、ほぼハンターになる事が決まっている【ウルハルト・バウマン】を三次試験――試合でぶつける事にしたのだ。


 幼い頃から鍛えられたウルハルトだ。しかも父であるベイラルは十三番コロニーのS級ハンターである。


 負けるわけがない。そう思っていた。


「どうせあいつには接待で無難な相手をぶつける予定だったが……現役の下っ端共を倒す実力。少しは焦って貰おうか」


 レオが自分の私兵のようなハンターたちを倒したのを聞いて、多少の実力はあると思っていた。だが、B級と言っても様々だ。指揮が上手い者。戦闘に長けている者。数あわせで昇進した者。


 そんなB級のハンターたちよりも、名門バウマン家で鍛えられた少年――ウルハルトの方が強い。だからこその名門だった。


「タンクトップ野郎の息子が多少の怪我をすれば、面子にも傷がつく。どっちに転んでも私には美味しい。精々、私の手の平の上で踊るがいい」


 ハルバの思いつきにより、レオとウルハルトの戦いが決定した。






 上層にある広い屋敷の庭では、黒い大剣を持った少年が素振りをしていた。


 重そうな大剣は少年の背丈ほどあり、幅も広い。そんな大剣を両手でも、片手でも振り回す少年――ウルハルトは、汗を流していた。


 そんなウルハルトの下に、使用人を引き連れたベイラルが訪れる。


「父上!」


「励んでいるな、ウルハルト。さて、お前には面白くないだろうが、三次試験の突破者が出そろった。ゴールしたのは百三十名前後。五十名近くは救助されたが、残りは魔物共の餌だ。実に嘆かわしいことだ」


 元から危険すぎたのだ。そして、それを分かっていてやっている事を、ベイラルも理解していた。ハンターにもなれない。だが、力の有り余っている連中を適度に減らす。そういった目的もこの試験にはあったのだ。


 体の弱い者は送り返しているのも、極端に殺してはギルドが疑われるためだ。


 ただ、それをベイラルもなんとかしたいとは思っている。しかし、現状では難しかった。


 ウルハルトは、父親に対して姿勢を正して向いていた。


「三次試験は試合形式と聞いています。勝者がハンター試験の合格者になれると」


 ベイラルは顔をしかめる。


「違う。ハンターとして相応しい実力があるのか示すための試合形式だ。趣旨を間違えるな。自由騎士エアハルトの名に恥じぬ、立派な戦いを心がけなさい」


「申し訳ありませんでした!」


 頭を下げるウルハルトは、黒髪黒目の少年だった。髪型はツンツンしており、逆立っている部分もある。目付きは鋭く、そして顔立ちは整っていた。


 ベイラルは、真剣な息子を見て頷く。


「気を付けなさい。それと、勝負服を用意した」


 指を鳴らすベイラル。使用人が布をどかすと、胴体部分だけのマネキンが出て来た。着ているのは黒いタンクトップだ。


「職人に言って間に合わせた。これを着なさい」


「はい!」


 嬉しそうなウルハルトは、黒のタンクトップを見ていた。バウマン家は有り触れた光景だ。


 すると、新しいタンクトップを見ながら「黒いタンクトップ……少し、大人っぽいな」などと喜んでいるウルハルト。しかし、ベイラルの方を振り返った。


「あの、父上」


「どうした? ストライプの方が良かったか?」


 息子もタンクトップにこだわりが出て来たと、少し嬉しくなるベイラル。だが、ウルハルトは首を横に振る。


「いえ、この黒が気に入りました。デザインもいい。ただ、俺の対戦相手が気になりまして」


 ベイラルはアゴに手を当てる。


「事前の情報収集か? まぁ、当然ではある。しかし、私も聞いていない。それがルールだからな。心配か?」


「いえ。ただ、相手がスカウト組みか、試験突破組みであるのか気になりました。正直、試験突破組みですと……手加減をするのは苦手です」


 ウルハルトが慢心でそう言っているのではないのは、ベイラルも理解していた。試験突破組みとスカウト組みには、それだけの差があるのだ。


 魔具の適正があってギルドにスカウトされる。言い換えれば、適正がない者たちが、試験に望みをかけてハンターになるのだ。才能も違えば、スタートラインも違った。しかも、ウルハルトは名門の出だ。


 訓練してきた時間が違いすぎる。並のB級ハンターでは太刀打ちできない実力が既にあったのだ。


 しかし、ベイラルはウルハルトを叱りつけた。


「手加減など考えるな。相手は命懸けで試験に挑んだ者たちだ。手加減など失礼に当たる! ただ、お前の言いたい事も分かる。しかし、相手を侮ることだけはするな」


 ウルハルトはすぐにベイラルに頭を下げて謝罪をした。


 ベイラルは言う。


「試合は試験終了から――今日から一週間後だ。それまでにしっかり調整しておきなさい」


レオ( ・∀・)「滅多に、って事は嘘を吐くこともあるんですよね? どういう時に嘘を吐くんですか?」


ライエル(ヽ´ω`)「……嫁相手だね。俺……嫁には勝てなかったよ、歴代当主様たち」

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