44 響は急いで帰らないといけない
響と花菜が通う学校周辺は住宅街から少し離れており、飲食店などの店舗も散見される。
そんな中を、響は珍しく少し駆け足で帰路に就いていた。
(こんな日に限ってクラス委員の仕事があるとか……)
クラス委員の仕事は様々で行事などによっては纏まった量を担うこともある。
今日などは担任から任されたクラス関連の雑用であった。
そういったわけで今現在響は花菜を待たせるといけないという思いと、あまりに全力疾走してしまうと優等生の芳川さんらしくないかもしれないというせめぎ合い……両方面で必死である。
それ加え、無性に花菜に会いたい思いが急がせているのかもしれない。
大通りを渡り住宅街が近くなっていくと、こじんまりとした児童公園が見受けられる。
その隣を抜けていくと、見知った後姿を捉えることができた。
(花菜!)
歩いている花菜の後ろ姿を見かけると、勢いそのまま横に並んだ。
「相原さん」
「芳川さん……?」
少し息を弾ませながら優等生の響が声を掛けると、花菜は少し困惑したように声を返した。
「よかったです、お待たせすることがなかったようで」
「走ってきた……? 早すぎるよ? もう少しゆっくりでも大丈夫だったよ?」
「そんな、相原さんをお待たせすることなんてできませんよ」
「私は放課後適当に友達とお話して時間潰してから、メッセージ貰ったあと学校出ただけだから……」
花菜が響の部屋に来るようになってから、こういった形で響の方が遅れるのは実際には初めてである。
直ぐにテスト期間に入ってのこともあったが。
花菜が買い出しを行うことが多く、響の方が家に着くのが早いことが多い。
これは目利きの問題であるのだが、花菜は買ってきた食材で一応響に対してどういった物を買うべきか伝えてくれてはいる。
ちなみに食費に関しては折半している。
教えてくれているし、作ってくれているのだからと響が多く払うと言っているのだが、花菜は譲ってくれない。
「一緒に行きましょう」
「えっ……うん……」
響が笑顔で提案すると、花菜は逡巡したが頷きを返す。
この逡巡は芳川響が相原花菜と一緒に帰ってる姿など目撃されてもいいものかという考えが花菜の脳裏を過ったものなのだが、浮かれている響はそんな簡単なことに気付いていない。
「相原さんは、今日は学校はどうでしたか?」
「あっ、今日は芳川さんに教えてもらったところが凄く役に立って。友達にも教えてあげられたんだぁ」
学校で眺めていた光景のことを話しているのだろうことが響には直ぐに分かった。
「そうですか、それならよかったです」
そういった他愛ない会話をしながら二人帰路に就く。
今の響にとって、それすらも幸せに感じられた。
花菜は誰かに現状を見られたときの言い訳に関しては響に丸投げしようという算段を心に決め込んでいたのだが、肝心の本人はそんなことを微塵も気付いてはいなかった。




