25 改めて手を繋ぐ
雨の多い時節ではあったが、その日は晴れ間がのぞいていた。
初夏とはいえ、既に都会では照り返しの暑さを感じさせる。
傾き切らない太陽が炎天下とまではいかないが、アスファルトへ熱を貯えさせている。
緑は少なく、住宅街の通りに植樹された樹木がぽつぽつと伺える。
そこから見えるのは濃い緑色。
新緑の頃は過ぎたかもしれないが、青々と茂っていた。
「暑くなったね、しかし」
響は思わずといった風にそう零す。
「そうだねー」
「こっちの夏は、蒸す……。夏は嫌いじゃないんだけど、ちょっと苦手ではあるかも」
「確かに、田舎の方の夏とはちょっと違うかもねぇ」
都会の夏ならではの暑さに対して響の口から苦言が零れる。
「そうも言ってられないし、行こうか」
響が花菜に手を差し出してくる。
花菜はそれに対して察してしまったのか、おずおずと左手を差し出そうとはするのだが……。
「手、繋ぐの?」
改めて確認してしまう。
「? 繋ぐよ?」
さも当たり前といった風に回答が返ってきた。
「あ、暑いよ?」
周囲の熱気と緊張で手汗もかいてしまいそうだ。
「それでも、ほら」
響は譲らないといった風に、更に手を伸ばしてくる。
「う、うん……」
花菜は根負けして、響へと手を伸ばし返した。
自分が響と手を繋ぐなんていう甘美な誘惑に、勝算など始めから無かったのかもしれない。
指を絡めるように手を取られると、ギュッと手を握られてしまった。
俗に言う恋人繋ぎ。
密着することで、手の平だけではなく露出した腕まで密着する。
「⁉」
思わず声をあげそうになってしまう。緊張が響に伝わってしまってはいないだろうか。
「どうしたの、花菜? 手なら前、繋いだでしょ」
バッチリと伝わっているようだった。
「この前とは、ちっ……違くて……。こんなにギュって繋いでなくて……。近ぁいぃよぉ……?」
響の顔が直ぐ近くにあって、声が近い。
響の方が身長が高いため、耳の直ぐ上から声が振ってくる。
大好きな人の大好きな声。
最近聞きなれたとはいえ、急に耳元で聞こえると心臓に悪い。
「そんなこと言ってないで。行くよ」
響は花菜の手をギュッと握ったまま、優しく引き寄せるとそのまま歩き出す。
「ううっ……」
花菜はされるがままといった風に、響に追従するしかなかった。
顔も、握った手も熱い。
恥ずかしさを伴ったものであったが、それは確かに幸せだった。
この距離なら、響のサングラスに隠れた目が伺えた。
嬉しそうな瞳が、花菜のことを見詰めている。
「花菜は、私のこと好き過ぎでしょ」
「それは、もう……」
優しい声音であったが、揶揄うような響の言葉。
言い返すことなどできはしない。
まったくもって、その通りなのだから。
「私は今が、幸せ過ぎるぐらい……幸せだから……」
今起きていることだって、叶わないと思っていた夢の一欠けら。
「花菜は大げさだよ」
「そんなことないよ……」
普通の恋人だったのなら、なんでもない買い出しに行くであろう道すがら。
花菜にとっては夢の中。
その一歩一歩が幸せの中だった。




