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番外編 はいから若奥様は和菓子も作る

 美琴が伯爵位を持つ薬研(やげん)家から皇族である赤院宮(せきいんのみや)家に嫁いで数ヶ月が経過した。


「美琴さん、相変わらず君が作るお菓子は美味しい。今回のワッフルも最高だ」

 美琴が作ったワッフルを口にした伊吹は、満足そうな表情である。

「ありがとうございます、伊吹様」

 夫となった伊吹にそう言われ、美琴は嬉しくなった。


 この日も伊吹は桜舞(おうぶ)帝国を脅かす妖魔を討伐しに行くのだ。

 桜舞帝国の皇族、華族、士族の者達は異能を持っている。

 伊吹は攻撃系異能を持つので、妖魔討伐の最前線に向かう。

 そして美琴は補助異能で伊吹の異能を強化する。

 しかし美琴と伊吹は他の異能者達と体質が違った。

 伊吹は通常の方法では補助異能を跳ね返してしまう。

 美琴と通常の方法では他者に補助異能を注げない。

 美琴は自身が作るお菓子を通して伊吹に補助異能を注ぎ込めるのだ。


 この日も伊吹は美琴が作ったワッフルを食べることにより、補助異能を吸収する。


「美琴さん、では行って来る」

「ご武運を」

 美琴は伊吹を送り出した。


(結婚して以降、色々と変化したけれど……伊吹様との今の生活は心地が良いわ。ずっとこの生活が続くことを願っているけれど……このまま変わらずにいて良いのか少し不安になるわ)

 美琴の榛色の目は少し影を帯びる。

(私も変わったのね。薬研家にいた頃は、新しくて素敵なものは取り入れつつも変わらない生活を望んでいたのに)

 自身の変化に驚きつつも、悪くはないと感じている美琴である。

(とりあえず、私も出来ることから始めてみましょう)

 美琴は口角を上げた。

 そして紙に何かを書き、赤院宮家の使用人を呼ぶ。

「若奥様、いかがなさいました?」

「これに書いてあるものを取り寄せてもらいたいの」

「こちらをでございますか」

 使用人は意外そうに目を丸くした。

「ええ、そうよ」

「承知いたしました。若奥様ははいから若奥様と我々使用人の間でも話題に上がりますが、このようなものをお求めになるとは珍しいですね」

「たまにはね」

 美琴はクスッと笑った。

「早急に取り寄せて参ります」

 使用人は美琴に頭を下げ、部屋を後にするのであった。



 数日後。

 美琴は色素薄めな茶色のふわふわとした長い髪を後ろで束ねる。髪を結うのに使用した向日葵色のリボンは伊吹からの贈り物だ。

 菫色のワンピースに身を包んでいる美琴はその上からレースのエプロンを身に着ける。

 美琴は赤院宮邸の厨房に向かうのだ。


 厨房には、この前美琴が取り寄せるように頼んだ品が用意されていた。

 甘酒と小豆である。

 小豆はあらかじめ数時間程度水に浸していた。

 美琴は赤院宮邸の厨房にあった小麦粉と砂糖と重曹に取り寄せた甘酒を混ぜて手際良く練る。その後、小豆の渋抜きをし、柔らかく煮込む。小豆が入った鍋に砂糖を加え、練って仕上げたら餡の完成だ。

 餡を作っている間に小麦粉、砂糖、重曹、甘酒を混ぜた生地が発酵したので、生地に餡を詰める美琴。その手際も非常に良かった。

 その後、生地に餡を詰めたものを蒸せば、饅頭の完成である。

(今日も伊吹様は妖魔討伐があるわ。間に合って良かった)

 完成した饅頭を見て、美琴はふうっと一息ついた。

 饅頭を一口食べると、優しい甘さが口の中に広がる。

(伊吹様に召し上がっていただいても問題ないわね)

 饅頭の出来に、美琴は口角を上げた。



「伊吹様、こちらをどうぞ」

 伊吹が妖魔討伐に向かう前、美琴は作った饅頭を差し出す。

「おお、今日は饅頭か。珍しいな」

 いつも美琴が作った洋菓子を妖魔討伐前に食べていた伊吹は意外そうに漆黒の目を丸くした。

「たまには和菓子を作ってみようと思いましたの。伊吹様のお口に合えば嬉しいのですが」

「どれ、いただこう」

 伊吹は美琴が作った饅頭を一口食べた。

「やはり美味しいな。美琴さんが作ったお菓子を食べると力が湧く」

 伊吹は表情を綻ばせた。

「ありがとうございます、伊吹様」

 伊吹の言葉に嬉しくなり花のような笑みを浮かべる美琴だ。

「お礼を言うのは私の方だ。美琴さん、いつも感謝している」

 伊吹の漆黒の目は、真っ直ぐ美琴を見つめていた。

 思わず頬を赤くする美琴である。

「洋菓子も良いけれど、和菓子も良いものだな」

「左様でございますわね」

「また和菓子も作ってくれるか?」

「もちろんでございますわ、伊吹様。洋菓子作りも楽しいですが、和菓子作りも楽しいと思いましたの」

 美琴は饅頭を作っていた時のことを思い出し、榛色の目を輝かせた。

「それは良かった。私は西洋の新しいものも、良いものならば積極的に取り入れたい。だが桜舞帝国の伝統的なものも、良いものならば大切にして後世に残していきたいんだ。この和菓子のように」

「左様でございますわね」

 美琴は深く頷いた。

 新しく素敵なものも好きだが、古くからあるものの魅力にも改めて気づく美琴である。

「美琴さん、では行って来る」

「ご武運をお祈りしております、伊吹様」

 この日も美琴は妖魔討伐に向かう伊吹を見送った。

 そして美琴が饅頭に込めた補助異能により伊吹の異能は強化され、いつものように圧倒的な力で妖魔を倒し美琴の元へ帰って来る伊吹であった。

読んでくださりありがとうございます!

久々に番外編を追加しました!

少しでも「面白い!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

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