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ネノンの童話  作者: 鈴代なずな
だけどネノンは、今は一緒に遊べる気分じゃなかった。
20/40

ネノン張り切った

■3

 エインを助けたあの日から、ネノンは困っている人を見つけるとつい助けたくなってしまう。

 困った顔が笑顔に変わるのが嬉しくて、その人からお礼を言われるとまた嬉しかった。

 だから今日も今日とて人助け。小さなものから大きなものまで人助け。

 不思議な景色の見える窓を一所懸命に拭いたり、図書館へ本を借りに行ったり、反対に本を寄贈しに行ったり。

 なんとか語の翻訳ができる人を探している、と言われた時は、流石にネノンにはできなかったけれど、その人を探す手伝いくらいはできた。

 そうやって、今までは街に下りる方が珍しかったのに、今では街に下りない日の方が珍しいくらいになっていた。雨の日も風の日も、ネノンは気にせず街へ行く。

 時々、雨が強すぎて前がちっとも見えなかったり、風が強すぎてどんなに丘を下っても押し戻されたりして、行けない日もあったけど。そんな時は雨や風や、窓がバンバンと叩かれる音を聞きながら、ぽんぽんたちと人助けの練習をしていた。

 この日は雲がないくらいの快晴で、風もなくて、冬なのに少し暖かいくらいだったから、ネノンは元気に外へ飛び出した。ぽんぽんたちに「行ってきます」と言って、家の上にある翼を開きかけた姿の鳥の像にも見送られながら、転がるように丘を駆け下りて街へ行く。

 古書や骨董、鉱物などと書かれた看板のお店の群れは、相変わらずネノンには半分くらいわからなかったけど、それでも見慣れた風景にはなっていた。

 大きな通りを一本伸ばしながら、いくつも枝分かれする道を作るように建てられた家や店。その建物たちの姿も色々で、丸っこい三角形の屋根をした家もあれば、豪邸みたいな店もある。ボロボロになって潰れているのかな? と思う古い建物でも、中にはしっかり人がいるみたいで、時々は真っ暗な窓からいくつもの目や動く影が見えていた。

 ネノンはそんな風景を横目に、いつもは真っ直ぐ噴水の方へ向かってしまうけど、この日は最初の角を曲がってみることにした。

 町は、町の人に言わせればそんなに大きくないらしい。だけどネノンの小さな身体には十分なくらい大きくて、ほとんど毎日歩き回っていても、まだまだ知らないところがたくさんある。

 だから角を曲がった先も、やっぱり知らない場所だった。

 ただ、風景はそんなに大きく変わったりしない。いつもの自分に優しい町。少し違いがあるとすれば、そこにはいくつか教会みたいな小さな集会場があって、変なメロディの笛の音や太鼓の音、よくわからない歌のような声が聞こえていた。ひょっとしたら何かのお祭りなのかもしれないけど。そこに混ざるのはまだちょっと難しいから、気にしないことにして歩いていく。

「キミ、どうしたの? 何かあったなら話を聞くよ」

 と。そんな中に耳慣れた声が聞こえてきた。

 だけどネノンに向かってじゃない。ネノンが歩いていたのは比較的大きな、整備された道だったけど、声はその脇にある細道の方だと気付いて駆け寄っていく。

 人がふたりくらいは歩ける程度の脇道を、ひょこっと覗き込むと、そこにはやっぱり見たことのある人がいた。ハスラットだ。

 その隣には、ネノンと同じくらいの小さな女の子がいて、慌てた様子で話している。

「えっと、えっと、大変なの! 風船を持ってたら、猫がいて、鳥がびゅーんってきて、あと魚がいて、それで風船が引っかかっちゃって!」

「風船を取りたいってことかな?」

「あとあと、風船がにょろにょろってして、魚がぶじゅぶじゅってしたら、鳥がまたびゅーんってなったの!」

「うーん。とりあえず、そこに行ってみようか。風船が引っかかったのはどこ?」

「こっち!」

 女の子はよっぽど慌てていたみたいで、話はほとんどわからなかった。けれど困っていることは確かだったし、ハスラットがそれを助けようとしているのも間違いなかった。

 彼は女の子に案内されて、一緒に走り去っていく。

(わたしも頑張ろう!)

 忙しそうだったから話しかけるのはやめておいて、ネノンは意気込んだ。ハスラットたちが角を曲がるのをこっそり見送ってから、また通りに戻って人を探す。

 人通りはそんなに多くなかった。道端で話し込む主婦っぽい人たちが何人かと、小さなスキップみたいにひょこひょこ歩く人くらいだ。歩いている人の方は顔色も悪くて、足を怪我してるのかなと思ったけど、何人か同じような人がいたから、きっと流行っているだけだろう。

 ネノンはなんとなくその歩き方を真似しながら、困った人はいないかなと辺りを見回す。

 ちなみに今までは道の端っこに隠れながらだったけど、今では大人の人たちに混じって、そんなに端っこでもないくらいの端っこを歩けるようになっていた。それがまた大人っぽくて、格好良いと思えてくる。歩き方を変える余裕だってあるくらいだ。

「あれ?」

 ともかく、そうしてネノンが見回していると、道の先にふと、あんまり見かけない格好をした男の人が立っているのを発見した。

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