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10/22:異世界の地下で

この主人公、いつも寝てますね。

「ん……あれ?」

 


 頭上から差し込む光で目が覚めると、カルマは頭を振りながら上半身を起こした。


 先ほど目覚めた洞窟と違い、カルマが現在いるのは縦横幅2メートルほどの細い通路らしき場所。

 頭上に小さく開いた穴から差し込む光で周りが見えているが、相変わらず白い鍾乳石に囲まれていて、迷宮内ほど整備されていないのか蜘蛛の巣が至る所に張り巡らされていた。


 周囲を見回した後、目を瞑って額に手を当てているカルマは少々混乱していたのだろう。


「えっと……俺は異世界に飛ばされて……巨大蛾に襲われて……あっ!」


 先ほどの悪夢を思い起こしたのか。

 勢いよく立ちあがろうとして、下半身に圧し掛かる重みに気がついた。


「かっ、樫咲!?」


 視線を下に向けると、そこにはカルマの上に突っ伏してブレザーを真っ赤に染めたこころがいる。

 幸いにも血は止まっているらしく、血塗れになりながらもスヤスヤと寝息を立てていた。

 外見からして出血量こそ多いものの、今すぐ処置しなければならない深刻な傷ではなさそうだ。

 

(えーと……巨大蛾に襲われたけど、樫咲が守ってくれて……そんでガラガラって音がしたと思ったらフワッって感覚がして……あぁ)


 岩盤が抜けて下層に落ちたのかと、光が差す眼前の穴を見上げながら何となく思う。

 実際、頭上は割れた鍾乳石が積み重なったようにデコボコだ。

 そう考えれば、鍾乳石に潰されなかっただけ運がいいと言える。


「だとしたら、こんなとこでチンタラしてられんな……」


 現在いる通路っぽい場所は狭いため、先ほどのような巨大生物に出会う危険性はないだろう。

 だが、小さくて危険な生物がいるかもしれないし、この通路自体が崩落してしまったら一巻の終わり。


 通路の前後どちらが出口に繋がるのか分からないし、そもそも両方とも行き止まりなのかもしれないが、とにかく行動してみなければ始まらない。

 じっとしていても埒が明かないので、カルマはこころを背中に乗せて歩き始めることにした。





 そのまま細い通路を歩き続けること5分。

 途中から崩落した範囲外になったのか、頭上のひび割れが消えて再び光るキノコで視界を確保しながら進む。

 一歩一歩踏みしめるようにして歩いていたカルマの足が急に止まった。


「……ドア?」


 カルマの目の前には、鍾乳洞にはありえない木の扉があった。

 一般家庭のドアのように綺麗な木目で装飾がなされ、金のドアノブまで付いている。

 今までのような自然の産物ではなく、明らかに人工物だった。


「……入ってみるか」


 巨大ダンゴムシや巨大蛾と違い、もし中にナニかがいても会話ができるかもしれない。

 一か八かの望みに掛けると、こころを地面へ寝かせてからドアを開ける。


 ギイイイィィ


 建てつけが悪いのか、盛大に軋む音を立てながら扉が開く。

 洞窟にあった光るキノコを一本むしり取って、内部を照らしだした。


 ボンヤリと見えるが、そこは木でできた部屋らしく、イメージとしてはログハウスの内部ような場所だった。

 入ってすぐ傍の棚にランタンとマッチを見つけたので、遠慮なく使わせてもらう。


「おぉ!」


 輝くランタンで照らされた室内は、思ったよりも豪華だった。

 十畳ほどの広さの室内には、虫食いの一つもない清潔なベットが設置され、隣には大きな木のテーブルと、異世界だからかガスコンロは無いものの綺麗なキッチンが見える。

 キッチンのカウンターには果物の入った籠まであるとなれば、これはもう誰かが住んでいるとしか思えない。


 だが、どこを見渡しても人の姿はない。

 住人が出かけているのかと思ったが、道中にある蜘蛛の巣の数からして長年使われてないのだろう。

 果物が腐っていないのが不思議だったが。


 ともかく不幸中の幸いと、彼は判断した。

 外に置いていたこころを中まで引きこんで、血にまみれたブレザーを脱がせてベッドへ寝かせる。

 スカートも埃と塵に塗れていたので、ホックを外し、視線を背けてからスカートを抜き取ると毛布を掛けた。

 巨大蛾と対峙した時以上の精神力を要求されたのは言うまでもない。


 何か使える物はないかと室内を見渡したところ、巨大な瓶に綺麗な水が入っていた。

 これも使わせてもらって、こころのブレザーとスカートの汚れを軽く落として床に広げておく。

 最後に彼女の顔についていた血を濡らしたハンカチで拭っていくと、美貌が少しずつ取り戻されていった。

 

「んにゃ……近衛、くん?」

「おう。おはよう」


 さすがに顔を拭かれては気がつくのか、ベッドの上で寝ぼけたような声を出すこころ。

 ふらつく頭を押さえながら上半身だけ起き上ると、彼女も室内を見渡した。


「ここは……?」


 彼女の隣まで椅子を引っ張ってきたカルマは今までの経緯を話す。

 不安げな表情を安心させるかのように優しい声音で。


「そう……ありがとう。わたしをここまで連れてきてくれて」

「いや。俺も、樫咲の魔法がなかったら巨大蛾に殺されていただろうから、こっちこそありがとな」

「ふふっ。お互い様だね」


 額の傷は痛々しかったが、彼女も大分回復したらしい。

 ランタンに揺れる柔らかな笑顔を見ていると、カルマも自然と笑みが漏れる。

 

「わたしはもう大丈夫だから、一緒に……っ!?」

 

 ベッドから降りようとしたこころが、ガバッと布団の中を覗き込む。

 

「こ、近衛、くん?」


 微妙に青筋を立てて、笑いながら能面のような顔をするという器用な表情でカルマを睨む。

 その顔には「いつ脱がせたの? 見た? ねぇ? ねぇ?」の文字がありありと書かれていた。


「いやいやいや。スカート穿いたままだったら布団が汚れるから脱がせただけだし、ちゃんと目は逸らしてたから」

「うぅぅ……見られた。絶対見られたよぉ……今日は勝負下着じゃないのに……」


 実際は見てないにもかかわらず、こころの中では見られたことになっているらしい。

 女性に何かすると大抵男が悪いことになる世の中の理不尽さを、異世界でもカルマは感じていた。


 こころの責めるような視線から目を逸らしたところ、たまたま机の上にある一枚の紙に目が行った。

 その紙は僅かだが白く発光しているように見える。

 

 テーブルの上まで近づくと、羊皮紙のようなものに黒い文字が浮かび上がった。



『この部屋は頑丈に作った。腐らない食料もある。風呂もある。好きに使うといい。  アネモス』



「つまり、ここって非難用の小屋みたいなところなのかな?」

「そう思っていいんじゃないか」


 ベッドまで羊皮紙を持ってくると、こころもそれを読んで同じ感想を抱く。

 その瞳はさっきよりも楽しげだ。

 他人の部屋を自由に漁って良いと言われると、俄然やってみたくなるのは分からないでもない。


「ちょっと、色々見てみよっか」

「ん。そうだな」


 わくわくした表情のこころが、カルマに手を伸ばす。


「?」


 よく分からず、お手をするように手を握る。

 その行動に、こころが頬を膨らませると一言。


「スカート持ってきて」

「……」

 

 床で干された衣類まで、カルマは無言で歩いて行った。






 先ほどは気付かなかった風呂のマークがある銀の扉を開け、ワーキャー騒ぐ女の子が一名。

 その声を聞きながら、カルマの方はキッチンを探っていた。

 水瓶と排水溝が並ぶシンクを一瞥し、カウンターの上にあった果物に目を向ける。

 

 それは一口サイズの皮なしメロンのようなもので、何気なしに彼は指を触れた。

 すると、指輪の効果があったのか、青いウィンドウが立ちあがった。



============================================


【レベルアップの実】

RARE:スーパーレア

大変美味な果実。食べると次レベルまでの経験値を得る。


============================================



「は?」


 アイテムの説明を読んだカルマは、少しの間茫然としていた。

 その後ろから、お風呂見学を終えたこころが近づいてくる。


「ねぇねぇ近衛君。ここのお風呂すっごいよ! 二人一緒に入れそうなくらい大きくて……ってわたしったら、なんて大胆なことを言って、あ、あわわわ! ……あれ? 近衛君どうしたの?」


 固まっていた彼が動き出すと、手招きをされたこころもアイテムウィンドウを覗きこむ。

 そして、同じように固まって苦笑いしている。


「いきなりレベルアップ系のアイテム手に入れちゃったね……」

「なんかこう……ラッキーって感情もあるけど……萎えるよな」


 見たところ、そのメロンは合計で6個。

 二人で分け合うとすれば、各々がレベル4まで戦うことなしに到達できることになる。

 しかも、カルマにいたっては、こころの256倍の経験値を無条件で入手できる。

 

 だが、それだけあれば、もしかするとここから脱出することもできるかもしれない。

 彼らの苦笑いは何とも言えない微妙な心中を表していた。


「あれ? こっちの果物はどうなの?」


 そう言ったこころが、メロンの隣にある果実を指さす。

 こちらはいちごのような外見をしていて、その表面は赤と言うよりも黒に近く、何とも毒々しい色をしていた。

 

 触ってもいいものなのだろうかとカルマは逡巡したが、覚悟を決めて苺に触れる。

 すると、予想に違わず青いアイテムウィンドウが表示された。



============================================


【スキルスロットの実】

RARE:ゴッドレア

泥のような味がする果実。食べるとスキルスロットが1つ増加する。


============================================



「「……」」


 二人とも、どう反応していいか分からないようだった。


「異世界に来てすぐに見つけたアイテムが、上から二番目のレア度ってどうなの……」

「ご都合主義ここに極まれりってやつだな」


 しかし、何だかんだ言っても、ありがたいものはありがたい。

 腹も減っていたので、二人で食べることにした。

 

 戸棚を漁って銀の皿とフォークを引っ張りだすと、各々の皿にメロン3つと苺2つを載せて木のテーブルにつく。

 食料を保存して少しずつ食べようとも思ったが、まずはレベルアップしてからということらしい。

 

 ステートのネックレスを使って、自身のステータス画面を表示させておくことも忘れない。


「「いただきます」」


 苺の方を最後に回すとやばそうなので、メロン、苺、メロン、苺、メロンの順番で食べることにした。

 まずは、一口メロンにフォークを刺して口に運ぶ。


「……おぉ」

「ふわぁぁ」


 メロンを噛んだ瞬間、口の中で濃厚な果汁が溢れだしてくる。

 常温で放置されていたはずなのにひんやりとした果肉が蕩け、牛乳をふんだんに使ったクリームのような甘みが喉を滑り降りていく。

 

 その果実が胃に到達した途端、甘さの余韻を払うかのように、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。

 ネックレスの効果か、彼らの眼前に2つのウィンドウが立ちあがる。



============================================


樫咲こころはレベル2になりました。

BONUS:体力+5、気力+5、腕力+3、脚力+3、知力+1

レベル3までの必要経験値は120です。


============================================


近衛駆真はレベル2になりました。

BONUS:体力+5、気力+5、腕力+3、脚力+3、知力+1

レベル3までの必要経験値は51200です。


============================================



「おい待てやコラああああああぁぁ!!」


 突然立ちあがって叫び出したカルマに、隣に座ったこころがビクンと反応する。


「こ、近衛君、落ちついて!」

「いやいやいや樫咲はレベルアップしても必要経験値が20しか増えなかったからいいけど俺なんて倍加してんだぞ!? しかもボーナスに全然変化ないし!」


 はぁはぁと息を荒げるカルマは椅子に座り直すと、乱暴に苺を取って口に含む。


「んぐっ!」


 途端、口の中からジャリッと音がして吐き出しそうになった。

 が、何とか吐き出さずに喉奥へ押し込むと、水瓶から水をすくって飲み込んだ。

 こころも同様にして苺を流し込む。


 すると、またファンファーレが鳴り響いた。



============================================


スキルスロットが1つ増加しました。


============================================



「まぁ……これで、何か一つはスキルが獲得できることになったか。できれば冗談スキル以外がいいけど……」

「さ、さすがに2つも外れを引き当てることはないんじゃないかな?」


 話している内容が完全にフラグであることに気づいているのか、こころは冷や汗を流してメロンを口に含む。



============================================


樫咲こころはレベル3になりました。

BONUS:体力+5、気力+5、腕力+3、脚力+3、知力+1

新スキル【女神の慈愛】を獲得しました。

レベル4までの必要経験値は150です。


============================================



「お?」

「あれ?」


 先ほどとは違う文面が一行ほど紛れ込んでいることに気付き、こころがその単語に触れる。



============================================


【女神の慈愛】

RARE:プリンセスレア

BONUS:知力+100

女神の如き分け隔てない慈愛を持つ者に与えられるスキル。単体治癒魔術使用時に周囲の者に対しても少量の効果を及ぼす。


============================================



「要するにヒーリングの効果範囲アップってことか」

「結構いいスキルを入手できたんじゃないかな」


 カルマのスイッチオンオフとは比べ物にならないほど役立つスキルだった。

 それを本人も分かってたので、彼は苛立ち紛れに新たなメロンを食べた。



============================================


近衛駆真はレベル3になりました。

BONUS:体力+5、気力+5、腕力+3、脚力+3、知力+1

新スキル【焔神威】を獲得しました。

レベル4までの必要経験値は102400です。


============================================


 

「知ってた」

「あ、あはは……」


 カルマの口からは白い魂のようなものが見えている。

 異世界に連れてきたあの変な声の通りなら、迷宮の雑魚を約三千四百体狩らないとレベルアップできないというのだ。

 あと一つレベルアップの実が残っているからいいが、そうすると今度は七千近くのの雑魚を倒す必要があるということになる。

 無双系ゲームでも骨が折れる仕事だった。


(もうレベルアップの実を食べないで後の為に残しておいた方がいいんじゃないかな……)


 エクトプラズムがはみ出している惨状を見かねたのか、こころが迅速にフォローへ入る。

 

「で、でも、近衛君も新スキル獲得できたじゃない!」

「多分これ技名だけカッコよくて、実は全然役に立たないってパターンですよね。【ザ・スキルセレクター】だってそうだったし。はははワロスワロス」

「正気に戻ってえええぇぇ!」


 魂を素手でつかんで押し込むと、カルマにも追加された一文に彼女の指が触れた。




============================================


焔神威ザ・ピュール

RARE:ファンタジーレア

BONUS:体力-9999999、気力+9999999、腕力-9999999、脚力-9999999、知力+9999999

決して消えぬ炎の如き意志を持つ者に与えられるスキル。

焔神えんしんになることができる。焔神状態では全ての炎熱魔法と焔神威固有魔法を使用できる。焔神状態では火炎および電撃および風力および土岩および光煌こうこうおよび闇極あんごくおよびその他物理攻撃と状態異常による体力減少を無効化する。焔神状態で水に濡れると体力が減少する。炎熱魔法を使用した際の気力消費量を9割軽減する。


============================================




「「えええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇッ!?」」


 最強にして最弱の人間が誕生した瞬間だった。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


近衛カルマ(17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:3

経験値:0/102400

体力:1/1

気力:9999999/9999999

腕力:1

脚力:1

知力:9999999

スキル:【ザ・スキルセレクター】・【焔神威】・空きスロット

所持金:0ELC


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


樫咲こころ(17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:4

経験値:0/190

体力:165/165

気力:320/395

腕力:69

脚力:79

知力:273

スキル:【初級水聖魔法師】・【初級風緑魔法師】・【初級治癒術師】・【オカン】・【女神の慈愛】・空きスロット・空きスロット・空きスロット

所持金:0ELC


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


とりあえずは、主人公が最強で最弱な理由が分かるとこまでを一気に投稿しました。

無理しないペースでやっていきます。

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