難(サイナン)
更新が大変遅れてしまいまして、申し訳ありません。
私生活と言いますか、仕事の方が研修や資格試験などで大童で、落ち着くまでにずいぶんと時間がかかってしまいました。
まだ以前ほどの更新はできないかもしれませんが、火が空いても少しずつ物語を進めてまいりたいと思います。
まだまだうだうだしている主人公ですが、周囲には少し変化があるようです。
新キャラどどんと登場? 次回こうご期待の7話目、始まります。
13.05.09 誤字等修正、大筋に変化なし
「いやさー、普通さー、英雄色を好むってーのー?」
「………」
「この程度で顔色変えちゃってまー、先が思いやられるってーのー?」
「………」
「顔隠して目え隠して何かー? 初心なんですかー、お子ちゃまなんですかー?」
「………」
「そこんとこどーよー、えー? 勇者さんよー、ついでの男2人もよー」
「「「………」」」
やめて、ホントやめて、オレがいたたまれないのお願いやめて!
背筋も正して裾も正して、折り目正しく座り直したオレを囲んで、シュイさんたちがさっきと同じ位置に腰を下ろした。
座ってからずっとにやにやとおやじ笑いのメグさんが男性陣をつついているせいで、えも言われぬ空気漂うこの状況。一番辛いのはきっとオレだと思う。
客観的に見れば甘酸っぱい、オレ視点で見ればしょっぱい、そんな状態がしばらく続いた頃、女将さんの咳ばらいと紅茶の差し入れでようやく場が落ち着いてきた。
オレ含む5人の頬の赤味を名残に、先ほどと同じ位置に全員腰かけてシュイさんたちの話し合いの結論を聞かせてもらう。メグさんは笑いすぎだと思います。
一先ずの結論、オレはしばらくの間このオルサン村でしばらく過ごすことになった。
彼ら曰く、本当ならばすぐにでも王都ののある大陸へ渡った方がらしいのだけど、オレ1人を黄昏越えさせるために村人を動かすのは難しく、だからと言って1人で行かせるのはもっての外。よって勇者パーティが用事を済ませるまで、常識を学ぶことも含めてお世話になっていなさいと。
そう、「常識を学ぶ」。
聞き取り調査?の結果、オレはどうもひっじょーに世の中を知らない人物であると、オブラートに包みようもない世間知らずであると判断されてしまったらしい。………ちょっと不満なんですけど。
まあ確かに、オレはVOの住人ではないし、ゲームじゃないVOの常識なんて知っているはずがないし、言い訳くさいけれどそう判断されてしまっても仕方ないことなんだよ。………なんてちょっとへこんだオレは内心でぼやいてみたり。
だって必要なアイテムはショップかプレイヤー商店で買えた。
食べ物や服はバフ効果と装備でしかなかった。
掃除や洗濯なんてスキルはないし操作もない。
セーフティエリアの村や街を歩いていて、八百屋も肉屋も服屋も本屋もありはしない。
通貨だって、画面に表示される数字の羅列だけで実際の貨幣を見たことがない。
全部、全部、知らないんだもの。
分からなくたって仕方ないじゃないか。
どうしようもないんだから。
…オレが、悪いの?
迷惑かけてる自覚ならある。
この宿の宿泊代、ご飯代、服だって借りてる。
設定でしか知らないけど、番兵のいる村や街では門でお金だっているんだ。
それらすべてを、シュイさんの名前で見逃してもらったり肩代わりしてもらったりしている。
現実ではそれなりに苦労を重ねているのに、まるでダメなやつだと言われるのが苦しい。
オレの、今までをみんな否定されている気になる。
「カリンちゃん」
「っ!」
不意に熱が右手を包んで、オレは「今」に気がついた。
「ぁ……」
「………」
優しげな笑顔でオレを覗きこむマリーの手の平は、春姫にふさわしい芽吹く季節の陽だまりの暖かさ。
「オイ」
「へぶっ!?」
頭をわしづかみにオレの顔を上げさせたメグさんは、不機嫌そうな表情をしていながらも心配の色を浮かべている。
向かいに座る3人もじっと俺を見つめていた。様子を窺っていてくれたのだろう、きっと、始めから。
「………」
「カリン」
メグさんの力技により真正面のシュイさんと目が合ってしまってオレは、息がつまりそうだった。
「……不安に決まってるよね? ごめん」
マリーちゃんの両手は温めるように右手を包んだまま膝の上にある。
「オレたちは確かにたくさんの人たちに頼りにされている勇者だけど、昨日今日出会ったばかりの人だ、他人には変わりない」
ダンさんのいつも悠々としていた瞳が細まって下を向く。
「力があったって、名声があったって、それが君の信用になる訳じゃない。結局は知らない人なんだ。」
らしくない、割れ物に触れるような手つきでメグさんがオレの髪をすいて撫でる。
「ごめんね、オレたちはとても頼りない。女の子1人安心させてあげられない。信じさせてあげられない」
口元で作る笑みはクロウさんに似つかわしい、けれど寂しい皮肉。
「本当を言うと、今この瞬間にでもカリンの不安がなくなってオレたちを頼りにして任せてもらえたら嬉しいんだけど、でもそんな上手く行きっこないから、だから変わりに、オレたちを使うつもりでね?」
勇者の、誰かのために見せる笑顔は、シュイさんらしさに満ちていて、優しくて、そして悲しい。
「オレたちを利用して、カリン。君が元いた所に帰るために、勇者を利用して」
心が感情で溢れすぎて言葉にならず、オレは黙ったままうなづくことしかできなかった。
オレは、ただ、帰りたいだけなのに。
オレの行く末相談が終わると、シュイさんたちは女将さんにオレをよろしくと頭を下げて散り散りに出かけて行った。
何でも遺跡調査に向かうらしく、装備や探索用アイテムの準備でいろいろと忙しいんだそうだ。
そんな中でも拾ったオレを気にかけてわざわざ時間をとっていたのだと、女将さんは改めて感心のため息をついていた。
「あんたも、勇者様のお気づかいに感謝してしっかり勉強おしよ? 宿代は取らないけど、勉強ついでに手伝い位はしてもらうからね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「うん。素直に頭が下げられる子でよかったよかった。今日はひとまず村の様子を見て回って、ついでに気になる店があれば見学でもしといで。村の皆に話はつけておくから。名前はカリンでよかったかい?」
「はい」
「そうかい、それじゃあカリン、しばらくよろしくね」
「お世話になります」
日本人の習性でついつい挨拶の度に頭を下げてしまうオレだったけれど、それがむしろ好印象だったのか、にこにこ顔の女将さんはオレの肩を軽くたたいてカウンター奥の部屋へ戻って行く。
取り残されたように気持ちで立ちすくみ、さてどうするかと頭を悩ませていると、戻って行ったはずの女将さんがトートバッグ位の大きさの荷物を抱えてカウンターから出て来た。
「そうそう、これを賢者様からカリンに渡して欲しいって預かっててね。ほら、自由に使っていいそうだ。それから、夕方までには戻ってくる予定になってるから、あの子らが帰り次第あんたを紹介する。暗くなる前に宿に帰って来るんだよ」
「ありがとうございます。それと、紹介というのは誰のことでしょうか?」
「あんたにとっちゃここは不慣れな所だろう? 外には危険な魔物もうようよいる。万が一、まあよっぽど大丈夫だろうけどねえ、何かあっちゃあことだってんであんたにお守りをつけようって話になったのさ」
「おも……」
麻に似た素材で作られたリュック状の袋を受け取る時、微かな金属音が聞こえた。きっといくらかのお金も入っているのだろう、重ね重ね申し訳ないです。
感謝を示しつつ女将さんの言う人物について尋ねると、先ほどへこんだ心がさらに落ち込むセリフをいただいてしまった。オレ、いくつの子供に見えてるの…?
「ええと、オレはそんなに危なっかしいでしょうか?」
「んーそうだねえ、浮ついてる…ってわけじゃないけど、目が離せないって感じかね。ついついかまってやりたくなるのさ、悪い意味じゃない。気にすることでもないだろう、好意には甘えておきなさい」
「…あー、はい、ありがとうございます」
「うんうん、いい子いい子。あの子らもきっと気に入る。安心をし、口調は荒いが根はいい子たちだ。きっと仲良くできるさ」
「はい、楽しみにしています」
好意と言われてしまえば断れるはずもなく、苦笑いで頭を下げた。
女将さんが言う「あの子ら」の話を聞いているて、オレはふと、嫌な予感が頭をよぎった。
まさかとは思いたいけれど、だろうなという気は非常にしている。
きっと、多分、確実に、常識が同じならば。
「………あの、つかぬ事を窺いますが、その子たちって…女の子ですか?」
「うん? 当たり前だろう! あんたみたいな若い娘に、男のお守りなんてつけられるもんか! 田舎の男どもなんざろくな働きもせず威張り散らして、そのくせそっちの欲ばっか深い、獣さ獣! ああいや、勇者様方は違うがね。あの方々はそりゃあ品行方正で優雅で、気品に満ちた御方さ。お比べするのもバカな話だ。勇者様方の爪でも髪でも煎じて飲ませりゃ、ちったああいつらもマシになってくれるのかねえ」
「……………ですよねー」
別に、誰もかれもがそんな人ではないですよと言いたい。でも言えない。言いだせる自信がない。
尻に敷くタイプと言う存在をオレに教えてくれた女将さんは、それからこ1時間ほど「村の男ども」への愚痴と何故だか始まったオレへのダメ出しで語り尽くしてくれたのだった。
「顔は悪いもんじゃない、胸と尻はもうちょっと欲しい所だ…まあその分肌や体型はきれいなもんか。髪艶もいい。なのに何で「オレ」なんて言い方をしてるんだか……男兄弟だったのかい? 振る舞いも荒れちゃいないが淑やかさが足りないねえ。女らしく、わかるかい? あたしゃ今でこそこんな成りとふるまいだがね、花の盛りにゃそれはそれは…」
こ1時間じゃなくて、その2倍はあったかもしれない。
女将さんの半世紀語りを聞き終えて、おしまいのほんの数行分だけ「お守り」の人たちについて教えてもらうと、オレは這う這うの体で宿を離れオルサンの村を散策していた。
あまり見たことはないけれど、ファンタジー系の実写映画があればこんな感じだろうかと思わされる、馴染みと不思議が入り混じった世界がそこに広がっていた。
建物は地球の砂漠地帯や乾燥地帯に見られる、石や土、レンガを主とした素材が多い。そこに、可動式の台を並べて売り物を陳列して、店主は道行く人々に口上や文句を叫んでいる。市場やマーケットによく似ていると思う。
1つずつの物を見れば地球とそれほど違わないのに、何もかもを塗りつぶしてそこにある相違点。
「人々」がすべて「人々」ではない。
オレと同じ人間、VOで言う人族の姿も確かにある。けれどそれ以上に、人間の形をした「人間ではない」人の方が断然に多かった。
CGやイラストで見たことがある、ドワーフ。人族よりも小柄で、もっさりというか、体毛が濃いのかな。背負ったリュックいっぱいに石や木材が詰まっているようだ。村のどこかに工房でも開いているのか、それとも仕入れの旅にでも来ているのか。
頭に猫や犬の耳を乗せ、腰のあたりから様々な形のしっぽを伸ばす、獣人族。ぱっと見渡した限りでは犬と猫の形が多い気がする。まれに…何だろう、牛? 馬? 見たいなのもいた。VOの獣人族は多すぎて、全部は把握していないから判断がつかない。砂漠だから…ラクダとか?
飛び交う言葉はどういう理屈かすべて日本語に聞こえているけれど、VOの設定だと種族によって違う言語も使っていたはずだ。公用語なのかな。何にせよ、通じることは幸いだと思う。
「っと、何…!?」
現実とVOを頭の中で比べながらぼんやりと歩いていると、突然腕に抵抗を感じ、驚いて振り向いた。後ろ隣りに雑誌のモデルにいそうな女性が立っていて、オレの二の腕をつかんで笑っている。
一瞬の硬直が命取りだったんだと思う。女性はにんまりと掴んだ腕を引き寄せて焦るオレに顔を近づけた。
「ねえお嬢さん? 喉は渇かない? 瑞々しくて甘―い果物、あるわよ? 特速交易船で大陸から運んで来たの、滅多にないのよ? どう?」
「、え。あ、えっと、すみません。今は特にはっ、」
「そーんなこと言わないで、ね?」
日に焼けたのか元からなのか小麦色の肌を晒し、必要最低限をぎりぎり守る程度の布面積で包まれた胸と下半身、たわわと言うか豊かと言うか、表現するのをためらう女性的な体系に視線が泳いで落ち着かない。どこを見ても失礼な気がするんだけどどうしようっ!?
同性であるがための遠慮のなさでオレをとらえた彼女は、日本人の習性(2回目)ではっきりNOと言えないオレに狙いをつけたらしく、これでもかと腕をからめ肩を抱いて商品のアピールを始めた。
「お嬢さんお肌きれいでしょ? だったらこれとか興味あるんじゃないかなーって。ほらこれ、鮮やかな赤色してるでしょ? お肌のハリとうるおいに最高なの! すこーし酸味は強いけど、それが甘みを引き立てて、口に美味しい体に美味しい、素敵な果物なのよ?」
「あ、あ、あの、」
「あら、お肌じゃなかった? だったらこっち! 上る太陽みたいにつやっつやのオレンジ色、一皮むけばとーろとろの果汁が滴るお月様の黄金の実、そのほっそりした足や腰をキープしたいなら、これを食べなくちゃ! 毎日続けて食べれば食べるほど、効果が高いのよ?」
「ひわっ、うええっと、オレは、あの、特には、」
「えっ! 「オレ」!? やっだーかわいー!! 自分のことオレって言ってるの? おねーさんあなたみたいにつっぱっちゃう女の子だーい好きっ! もー特別に、本当は売るつもりなかったんだけど…特別なの、おまけしちゃおっかな? かなー?」
「っ、っ、っ!! あのっ、」
密着されすぎて吹き飛んだ頭の中、放してと逃がしての間に助けてがミルフィーユの、もはや日本語が逃走中で日本語が来い!状態のオレがオレを見失っていた時。
「幼気な少女捕まえて何しくさってるの? 突き出されたいわけ?」
「エミーに関係ないと思うんですけどー。この子は私のお・きゃ・くなんだから、ねー?」
「ぇえ、でも、オレ、」
半泣きの自覚もなく見上げた先に、勧められた果物のように鮮やかな赤い髪の少女が立っていた。
きりりとした眉をひそめてオレと女性を窺うと、少女は後方に何かの合図を飛ばし、きつと女性を睨み据えながらオレの左手を取った。
「その子を放しなさい、ご自慢の髪を短くしたくなければね。そしたら見逃してあげるわ」
「えー、いや…っ!」
ヒユン
「二言はないと思え」
ごねろうとした瞬間何かに気づいた様子で女性はオレの体を放し30cm程飛び退る。その影を裂くように銀色の一閃が短く走った。
やっとの解放感に息を吐きつつ後ろを見れば、銃剣を走らせた形で止まる青い髪の少女と、戦杖?を構える金髪の女性、にっこりと笑う菫色の髪の少女が立っていた。
意識が現状に追い付けずただ呆然と立ち尽くすオレを引き寄せると、赤い髪の少女は呆れた顔になって女性に話しかけた。
「いい加減、その変な商売方法を改めたら? そのうち本気で突き出されるわよ?」
「実益を兼ね備えた趣味なの。これでもちゃあんと売れてるんだからいーじゃない」
「逆でしょ…普通」
頭を押さえてため息を一つ、少女は言い含めるように女性を注意して店を離れて行った。
「次、お客になってないお客を捕まえてたら、サリーが無料の散髪をしてくれるわ、楽しみにしてて」
「お任せください、ね」
「あーあー、結構本気で気に入ってたのに。ざーんねん、またね、お嬢さん!」
離れて行くのはいいんだけど、オレの左手が依然掴まれたままっていうのは一体全体…。とりあえず、あのの女性から逃がしてもらえたのは助かった、よね。……助けられたんだよね?
「あの、ありがとうございました…?」
「何で語尾が疑問形なのよ」
「すみません、状況に追い付けなくて」
「それは…、仕方ないわね。いいけど、今度からあの店っていうか、あの女には気をつけなさいよ?」
「はい、ありがとうございます」
「おそらく、今後は私たちもおりますから、よほどでない限り難に会うことはないと思いますよ」
「はい、ありがとうございま………うん?」
「エミー、サリー、挨拶もなしでは、結局状況を理解できぬままだと思うが?」
実に身に染みる忠告をもらって頭を下げる。けれど、続く青い髪の少女の発言に違和感を感じて顔を上げれば、金髪の女性が2人の少女に何やら指摘している。
えっと、もしかして。これは。
「ああ、そっか。そういえばすっかり忘れてた」
「あら、失礼いたしました、カリンさん。ご挨拶させていただきますね?」
「もしかしてですが、宿の女将さんに聞いた…」
「ええそう、私たちのこと」
人通りから離れて落ち着ける所まで来ると、4人の少女たちはオレを囲むように立ち並んで順番に自己紹介を始めた。
それは、女将さんから聞いた数行を色濃く映す、4人の戦女神。
すべての出会いが、オレに意味をもたらすのなら。
ご指摘、ご感想、お待ちしております。
一つアンケートを取りたいと思います。
基本、全ての話は主人公視点で送るつもりなのですが、他者視点による番外を書こうか書くまいか少し悩んでおります。
1.番外よりも本編優先!
2.本編もいいけど番外気になる!
3.その他意見がありましたら。
:例:本編で他者視点入れれば?
ご意見いただけましたら幸いです。