↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/53

1.女神に恋した日

数ある作品の中からお越しいただきありがとうございます。最後まで楽しんでいただけたら幸いです。


ちょっと、変更させていただきました。

「神代翔也さん、長年本当にありがとうございました!」

その言葉と同時に、会場は盛大な拍手に包まれた。

俺は神代翔也。今年で六十五歳。今日、定年退職を迎えた。

四十年以上勤めた会社での最後の日。 周囲は笑顔で俺を送り出してくれる。


だが――胸の奥には、言葉にできない空白だけが残っていた


みんな俺のために退職式へ集まってくれた。長年の労をねぎらう感謝の言葉が贈られ、時には涙を流す者さえいる。


嬉しかった。


胸が熱くなるほど、嬉しかった。


それでも――胸の奥にぽっかりと空いた穴だけは、最後まで埋まることはなかった。


仕事に追われるうちに、気づけば六十五歳。


恋も、結婚も、自分の夢さえも、いつしか「家族のため」という言葉に置き換わっていた人生だった。


それでも、後悔がないと言えば嘘になる。


ドラマで見るような恋を、一度くらいはしてみたかった。

生涯を共に歩む妻と出会い、愛し合い、子どもの成長を見守りながら歳を重ねる――そんな、ごくありふれた幸せも味わってみたかった。


その願いだけは、叶わないまま人生を終えようとしていた。


それが、長年押し殺してきた感情が一気に溢れ出したからなのか。


突然、胸に激痛が走った。


「ぐっ……!」


息が詰まり、膝から力が抜ける。


周囲の声が遠ざかり、視界はゆっくりと暗闇に染まっていった。


――これで、終わりか。


そう思った、その瞬間だった。


ふわりと、どこか懐かしくも優しい香りが漂う。


花のようでいて、どこか陽だまりを思わせる不思議な香り。


消えかけていた意識は、その温もりに包まれるように静かに呼び戻されていった。


ゆっくりと目を開ける。


目の前には、どこまでも続く白い花畑が広がっていた。


一輪一輪が淡い光をまとい、風に揺れるたびに星屑を散りばめたように煌めいている。


幻想的な光景に、俺は思わず息を呑んだ。


ふと自分の手を見る。

皺だらけだったはずの手は若々しく、力強さを取り戻していた。頬へ触れると、肌も髪も、老人だった頃とはまるで違う。

「……若返ってる?」


その時――


さらり、と花を撫でる風に混じって衣擦れの音が聞こえる。


振り返ると、花畑の中央に、一人の女性が立っていた。

腰まで届く銀色の髪が風に揺れ、澄み切った蒼い瞳が静かにこちらを見つめている。

白い衣は花々の光を受けて淡く輝き、その姿は、人とは思えないほど神々しく、

――あまりにも、美しかった。


そして何より……まずい。


俺は今、とてつもなく焦っている。


家族や仕事で関わった女性ならともかく、それ以外の女性とはほとんど話したことがない。


ましてや、こんな息を呑むほど美しい女性など、生まれて初めてだ。



彼女はただ、優しく微笑んでいた。

その笑みだけで、不思議と胸が温かくなる。


「魂は、その方が最も輝いていた姿で現れます」


『魂』⋯つまり若返ったではなく、これが俺の魂の形なのか。


「ようこそ、神代翔也さん。」


澄み渡るようなその声は、不思議と心を落ち着かせる響きを持っていた。


その微笑みと声に触れた瞬間、不思議と胸の痛みも、不安も消えていった。


その声に思わず聞き入ったのも束の間。


「……えっ?」


俺は思わず目を見開く。


「どうして、俺の名前を……?」


女性は何も答えず、柔らかな微笑みを浮かべたまま、小さく首を傾げた。

その仕草さえ、どこか神秘的で目を奪われる。


この時の俺は、まだ知らなかった。

目の前の彼女が女神であることも。


そして、この出会いが、俺の運命を大きく変えることになることも。

この作品が私の第1作品となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。