おまけはこれはストリーキングじゃないといいたい
宿の女湯にて別れたはずの顔見知りと再会。
そして相手は私に好意を持っている人だと思っていたが、挨拶も無く私がグレン達に騙されていると伝えてきた。純粋な私が馬鹿過ぎるって感じで。
でも、鬼族は番じゃないと鬼同士は子供ができないから人間の女を騙すって情報は、今夜が不安な私の精神状態をさらに削る。
「あたしは心配だよ。逃げたいなら手を貸すよ」
「逃げてどうなりますか?」
「仕事を紹介するって言っただろ。それにさ、もうあんたを紹介するって言ってあるから、あっちはあんたを待ってる状態。こんなご褒美くれるぐらいあんたを気に入ってるんだってさ」
カフィは私に宝石の嵌った指輪を見せた。
私はその指輪が彼女の客の彼女への好意で贈られたものと思ってたけど、違った。私を紹介するその前金か褒賞で手に入れたものだったのだ。そして、こんな高価な指輪が貰えるよって私を彼女の仕事に勧誘するためのアイテムでもあった。
グレンやガイは、カフィのことをちゃんとわかっていたんだ。
自分の利益のために、仲良くなった相手を勝手に売ってしまう人だって。
「そんなこと頼んでない」
「あたしは心配して動いてやったっていうのに。でも考えな。鬼の愛人やって子供産んでもね、鬼が番を見つければ子供共々おん出されるんだよ。そんな人生だったら自分で自分の面倒見たら良いじゃないか」
「詳しいんですね」
カフィはアハハと乾いた笑い声を立て、私の手を掴むと自分の頭に触れさせた。
手の平にはカフィの豊かで癖の強い髪の感触しか感じない。
「あの」
「角が無いだろ。鬼の血を引いてても、角が無けりゃ人族の子扱いだ。人族の子は人族の世界に戻れとあたしは母さんと一緒に鬼族の村を追い出されたよ」
「角があれば」
「角があれば鬼族だ。力も強いし魔力もある。だが、角が無い奴には角がある奴みたいな能力はない。人族と同じだ。魔力もない分、人族でも最下層だ。それで角無しを産んだ時点でその女はお払い箱だ。いいや。角有りを産んだって番ができれば、そこでお終いなんだよ」
ざばっと水音立ててカフィは勢いよく湯から立ち上がる。
彼女の体を見上げて、うわあ、と声をあげそうになった。
ふっくらした頬や二の腕の膨らみからぽっちゃり系だと思い込んでいたけれど、パワー系の女子プロレスラーのような肉体なのだ。
私なんて簡単に摘まみ上げられて放り投げられるだろう。
「カフィさん」
「あいつらは鬼族どころか人族の女達にだって垂涎の的さ。そんな男達に目をかけて貰えてるって状況でいい気になるのはわかるよ。けどね、だからこそ今はあんたに価値が出てんだよ」
「え?」
彼女の肉体に驚き見惚れたせいで、私は頭を動かすことを忘れていた。
彼女は私がちらっと想像したことを実践してきたのだ。
私の腕を掴んで無理矢理に湯から引き揚げて、そして、広い洗い場に放り投げた。
「うきゃ」
裸で石床にビタンと叩きつけられるのはとても痛い。
それでも意識なんて失っちゃいけない。
意識なんて失いたくても失えなかったけど。
「痛い!!」
カフィに後頭部の髪の毛を鷲掴みされて持ち上げられたのだ。
彼女は指輪を貰った男に私を引き渡すつもりだ。
逃げなきゃ、なのに、こんな状態では「認識阻害?」スキルは使えない。
私が使える他のスキルは、ええと、テーピング呼び出すだけで、で?
介護用体拭きも出せた。
ならば。
私は今の自分なら呼び出せるものを思い浮かべ。
それを手で掴むとカフィに向けた。
打撲瞬間冷却スプレー、目や粘膜などに噴射してはいけません。
「噴射!」
「ぎゃあ!」
ぱっと手放され、私は今だと自分に消えろと念じる。
消えて無くてもとにかく逃げなきゃ。音が立とうが勢いよく駆け出した。
でも、もうすぐ脱衣所ってところで、私は叫びそうになる口元を押えた。
浴室と脱衣所を分ける衝立の影から男二人が出てきたのだ。
「なんだあ」
「おい、カフィ? 何をふざけて」
いかにもゴロツキみたいな男が二人。
二人のうち一人は毛布みたいに丸めた布を抱えていて、恐らくも何もあれは袋で、私をあの袋に入れて持ち運ぶつもりだろう。
「ガキが逃げた! そっちに行ったはずだ!」
私の後ろでカフィががなる。
酒焼けしたハスキーな声による台詞はまんま悪人で、私はよくも彼女を無防備に信じていたものだ。
「こっちには来てねえぞ!」
「裸だ。俺達がいるってんで急いで隠れたんだろ」
「違いねえな」
男達は目の前にいるはずの私が見えていないようだ。私はさっと横に避ける。男達は浴室を見回しながら奥へと入って行く。
私は急いで衝立を回って脱衣所の中に飛びこむ。あとは自分の荷物を入れてあった棚へと一直線だ。荷物を引き出し、下着だけ身に着けるとグレンが作った鞄を抱えて再び走りだす。
「どこ行きやがった!!」
ひいい。
あとは、一直線に部屋に向かって走った。
お尻まである生成りの半袖シャツに片脇にて結ぶタイプのパンツ、という半裸で、恐怖ばっかりで走り抜けたのである。
だから、勢いよく部屋に飛び込んで、奥のベッドに腰掛ける大きな背中が見えた時は、膝から力が抜けて崩れ落ちた。
安心して、へなへなって。
「サエ! どうした!!」
「あ――」
一難去ってまた一難?
私の部屋に知らない大男がいる。




