22-2 壊滅
「赤井隊壊滅」――信じがたい報告が義経のもとに届こうとしていた。
安土城の堅城を背に、島左近と剣聖宗章が牙を剥いた時、頼朝軍最強の狙撃隊は地獄を見た。
■頼朝軍最強の狙撃隊、赤井輝子隊
少し時は遡り、赤井輝子とその部隊は百々橋口から安土城に攻め込んでいた。
大筒で三の丸の城門を粉砕し、破竹の勢いで二の丸の城門へと攻めかかっていた。
だが、その背後に突如現れたのは、筒井家の先鋒・島左近隊。
安土城下の地理に通じていたのか、それとも信長の仕掛けか――予期せぬ場所からの奇襲は、赤井隊の背後を一気に脅かした。
(忌々しい! 来るとわかっていながら、敵の奇襲を許すとは!)
輝子は、己の油断を呪った。
輝子「怯むな、敵は寡兵! 反転し、後方の敵に一斉射撃!」
副将の大祝鶴も即座に鉄砲隊を再編した。だが島左近隊の突撃はそれを上回り、赤井隊は二の丸城門と敵軍に挟み込まれ、自由を奪われる。
敵味方が入り乱れる泥沼の白兵戦。
戦術も陣形も崩れ、赤井輝子も鶴も奥歯を噛みしめ、ただ刀を振るうしかなかった。
■剣聖の牙
戦況をさらに一変させたのは、島左近の副将――柳生宗章の登場であった。
後に“柳生剣聖”と称される男。
宗章「敵の太刀裁きは赤子同然! 五人以上斬れぬものは破門とする! かかれ!」
宗章の冷酷な檄に、一瞬兵の顔が青ざめた。だが門下の剣士たちはためらいなく突撃する。
その太刀は稲妻のごとく槍を弾き、返す刃で火花と血飛沫を散らす。
密集する赤井隊の陣中を、剣聖の一団は舞うように駆け巡り、次々と兵を斬り伏せた。
「隊長……!」「このままでは……!」
悲鳴が城門下に響く。輝子は胸が裂ける思いで耳を塞ぎたくなった。
(ちくしょう! なんという無力……!)
■輝子の悔恨
なぜ敵が接近するまで気づけなかったのか。
なぜ槍隊を増やし、接近戦を想定しておかなかったのか。
かつて小牧山では剣豪・北畠具教に翻弄され、安土城下では加藤清正に苦戦した。
それでもなお、狙撃隊の弱点を補うことを怠っていた――その過ちが、いま目の前で部下たちの命を奪っている。
視界の端では、銃を手にした若い兵が、斬り伏せられながら血を吐いて倒れていく。
別の兵は必死に火縄を灯そうとした瞬間、柳生の刃に肩口から斬り裂かれた。
硝煙と血飛沫と悲鳴……その地獄絵図が、まるで水底の泡のように広がっていく。
輝子「おのれ……!」
輝子は必死に太刀を振るい、近衛兵たちも盾となって彼女を守ったが、剣聖の刃に次々と倒れていった。
ついに、柳生隊の刃が、赤井輝子自身にも迫る。
(もはやこれまでか――頼朝様、お許しを……!)
赤井輝子は、これまで背負ってきた誇りも無念もすべて呑み込み、死を覚悟した。視界が赤く染まり、耳鳴りの中で兵の悲鳴が遠のいていった。
■太田牛一、決死の救出
ついに柳生隊の刃が輝子に迫ったその時。
副将・太田牛一がわずかな騎馬隊を率いて駆けつけた。
牛一「赤井殿! こちらへ!」
馬上から牛一は輝子の腕を掴み、自らの馬に引き乗せる。大祝鶴もまた、別の騎馬武者に保護されていた。
牛一「全騎、続け! 敵陣を突破する!」
それは勝つための突破ではない。
主君を逃がすためだけの、捨て身の突撃だった。
多くの犠牲を払いながらも、牛一の冷静な采配により、彼らは島左近隊の包囲を辛うじて突破した。
輝子「まだ、多くの兵があの場に……! あたしは戻る!」
牛一「何を申されます! 振り向いた途端に討ち取られますぞ!」
逃げ延びることが裏切りのように感じ、輝子の胸は業火に焼かれていた。
牛一「……輝子様! 無事に生き延びられれば、その無念も怒りも、この牛一がすべて背負いましょう! 今はおつかまりを!」
牛一は馬の手綱を握りしめ、城門へと駆けた。
■義経隊
その頃、義経のもとには――「赤井隊壊滅」の報が届けられようとしていた。
しかし義経の目に映るのは、二の丸の城門から立ち上る硝煙。
それは赤井輝子隊が順調に進軍している証にしか見えなかった。
(輝子殿ならば、もう二の丸に取り掛かっておろう……)
義経は一片の疑いも抱かず、まだ勝利を信じていた。
だがその背後で――赤井隊はすでに地獄の只中に沈みつつあった。
お読みいただきありがとうございました!
信長が最悪の事態を想定していないはずはなかった。
次回、赤井輝子は窮地を脱することができるのか。
頼朝軍は安土城を攻略できるのか。
お楽しみに!




