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18-1 名乗り出た少女

頼朝は、悪夢の中で秀長に矢を射られる衝撃に目覚めた。焦燥と不安の中で迎える朝、彼を待っていたのは、阿国が連れてきた、桜の“妹”と名乗る若き女武者・里だった――。

■秀長の矢


見慣れたはずの岐阜城の一室、しかしいつもと気配が異なる。

羽柴秀長が、物々しく鎧を身に着け、弓を構えている。だが、その表情はいつもの温和な秀長とは、まるで異なっていた。苦悩と、決意と、殺意すら感じられる、複雑な色を浮かべている。

弓の矢じりが向けられているのは、トモミク、そして……卑弥呼か?いや、その顔は、紛れもなく出雲阿国であった。


秀長は阿国の姿をした卑弥呼へと矢を放った。

だが、矢が卑弥呼に届くと思われた瞬間、一人の武者が身を挺して卑弥呼を庇い、秀長の放った矢をその身に受け、どさりと音を立てて倒れた。


その武者は――頼朝自身であった。


胸を貫かれた衝撃とともに、視界がぐらりと揺れる。

秀長の慟哭か、トモミクの叫びか、それとも阿国の声か――


挿絵(By みてみん)


全てが遠のき、血の匂いだけが鼻を満たす……。



■那加城寝所:悪夢からの目覚め


頼朝「………はっ!」


目に入って来たのは、那加城の寝所の天井だった。


息が荒く、心臓の鼓動がまだ収まらない。

飛び起きた頼朝の額には、びっしりと汗が噴き出していた。寝室の蒸し暑さからだけではない、冷たい汗であった。


岐阜城下の屋敷にて、トモミクと阿国と話をして以来、軍団が進むべき道、自らの果たすべき役割について、ずっと考え、思い悩んでいた。それによって、このような悪夢を見たのだろうか。


篠「いかがなされましたか、殿。…うなされておいででしたが」


隣で寝ていた篠が、心配そうに声をかける。


頼朝「……秀長は、息災か。今、いかがしておる」


篠「まあ、殿。何を仰せられますか」


篠は、きょとんとした顔をした。


篠「父上でしたら、北条家からの姫君のお輿入れの件で、それはもう、気が気ではないご様子で、城中を走り回っておりますよ」


(そうか……やはり夢、であったか……)


挿絵(By みてみん)


愚問であると知りながらも、あまりにも生々しい夢の光景が脳裏に焼き付き、頼朝は、秀長の安否を確かめずにはいられなかった。

頼朝は気を取り直し、篠にあらためて声をかけた。


頼朝「……秀長、そして義経、阿国殿と話がしたい。評定の間に集まるよう、声をかけてはくれぬか。……そなたや、梓にも、同席してもらいたい」


篠「はい、かしこまりました」


篠は、心得たように頷き、すぐさま身支度を整え始めた。



■あらたな娘との出会い


那加城の評定の間に、頼朝が信頼を置く、主だった者たちが顔を揃えていた。

まず、出雲阿国が、頼朝の前に進み出た。


阿国「頼朝様。

本日は頼朝様からのお話をお聞かせいただけるとの事で集まったのは承知しておりますが、その前に一点私からお話をさせていただけないでしょうか。

義経様の隊のあらたな副将としたい、一人の女将を、お連れいたしました」


頼朝「ほう、阿国殿。早速に、有能な武人を見つけ出してくれたか」


阿国「はい。この場にて、頼朝様にご紹介いたしたく。……さと様、どうぞお入りくださいませ」


阿国に促され、まだ年の若い、しかし、きりりとした顔立ちの女武者が、評定の間へと入ってきた。


阿国「こちら、桜様の妹、里様にございます」


頼朝「……なに?」


頼朝は、耳を疑った。この時代に来て、桜と対面を果たしたが、もう一人己の娘がいたとは、全くの初耳であった。


阿国は、構わず話を続ける。


阿国「義経様の隊の新たな副将として、この里様を任命いたしたく存じます。鉄砲の扱いには長けており、その腕前は相当なものでございます」


挿絵(By みてみん)


頼朝「……義経。そなたは、知っておったのか」


頼朝は、隣の弟に問いかけた。


義経「は、はい……。実は、わたくしが、こちらへ参った時より、ずっとご一緒であった、兄上のお娘御にございます。が……阿国殿にお世話になっておりまして……その……」


義経は、何やら口ごもり、話しにくそうにしている。


頼朝「何を聞いても、驚かぬつもりではおったがな」


頼朝は、娘と名乗る少女に向き直った。


頼朝「…里、と申すか。事情の分からぬ、この至らぬ父を、許しておくれ。

だが……そう慌てて戦に出ることもなかろう。それは、里自身の望みなのか」


里「はい、父上!」


里と名乗る娘は、力強く答えた。


里「桜姉上も、そして、父上のお側におられる篠様も、さらには義経様の奥様である武田梓様も、皆さま若いうちから戦場で戦ってこられたと伺っております! わたくしも、一日も早く、強き武人となりたく存じます! 」


(ほう……)


頼朝は、改めて娘の顔を見た。どこか儚げで、頼りなげに感じられた桜。そして、聡明で、落ち着いた眼差しを向けていた篠。そのどちらとも違う。この里の表情には、すでに武人としての、強い気迫がみなぎっている。


頼朝「……そなたを、危なき目に遭わせたくはない。……だが、義経と、阿国殿が、傍についていてくれるのであれば、心配は無用か」


里「はい! ありがとうございます、父上!」


里は、嬉しそうに顔を輝かせた。


頼朝(……なぜ、義経も阿国殿も、里の存在を、今の今まで語らなかったのか?)


頼朝の心に、新たな疑問が生まれていた。

ご覧いただきありがとうございました!

本章では頼朝の内面に去来する不安と、もう一人の娘・里との邂逅を描きました。

次回、頼朝のあらたな決意が語られます。

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