18-2 『守る軍団』の新たな使命 ~惣無事令の発布~
岐阜城下の屋敷にて耳にした、衝撃の話の数々。
未来から来た”主”が託した、命をつなぐ希望。
頼朝は、軍団の“力”の意味を問い直し、あらたな決意を迫られる――。
■頼朝の決意
頼朝の娘・里の紹介と対面がひと段落し、頼朝はあらためて集まった家臣たちに話を切り出した。
頼朝「さて、皆に話しておきたい儀があり、こうして集まってもらった。
知っての通り、わしはかつて鎌倉において、『力』によって、武家による日ノ本の一統を成し遂げようと、そう志しておった。だが、この時代へ参り、皆と共に戦い、そして過ごすうちに……正直に申せば、『天下』など、もはやどうでも良い。
それは、トモミクや阿国殿が、常々、『この軍団は守るためのもの』と繰り返していたからだけではない。このわし自身の中に、本当に『守りたきもの』が、はっきりと出来たからに他ならぬ。
鎌倉にて真に守りたかったのは日ノ本ではなく、己自身だったのやもしれぬ……」
頼朝の言葉に力は無かった。しかし、眼差しには決意がこめられていた。
頼朝「我が軍団は強い。
信濃を守り、大垣城、そして長島城までも落とし、こうして平穏に過ごすことができておる。
だが……織田信長が、このまま黙しているとは思えぬ。
さらに力をつけ、我らに牙を剥いてくるであろう。
あるいは、西国の友軍、一色家、本願寺家、鈴木家といった者たちが、標的とされるやもしれぬ。
今の我らには、東の友軍(武田、上杉、北条)を守ることは出来ても、西の友軍を助ける手立てはない。
その、東の北条、武田、上杉にしても、我らを中心にかろうじて手を携えてはおるが……時と共に再び争いとなるやもしれぬ。
であるならば、どうすべきであろうか。いや――いったい、我らは何ができるであろうか」
頼朝は、一息つき、集まったみなを見回した。
頼朝「……我らは……所詮は武家。使命がある武家は、力でしかその使命を成し遂げられぬ。
力をつけ、京の都に上り……全ての武家同士の私的な争いを一切禁じる号令……すなわち、『惣無事令』を、天下に発布したい。わしは、そう考えるに至った。
無論、惣無事令を発布したからとて、全ての争いが止むことは無い。だが……」
頼朝の声に、力がこもる。
頼朝「我らは、今よりも強き力を備え、その力を行使する。しかし、それは、
他国を『滅ぼす』ためではなく、
覇権への野心を『挫く』ため。
そして、守るべき武家たちを『守る』ため。
それこそが、今の我らにできる、最善の道ではないだろうか。
……だが、かつてのように、源氏による幕府、あるいは、わし自身の征夷大将軍など必要ない。
以上が、わしの考えじゃ。
皆の率直な考えを、聞かせてはくれまいか」
■家族、家臣の心
頼朝が言い終えるのと、ほぼ同時に、義経が立ち上がった。
義経「兄上! よくぞ、ご決断くださいました! その、兄上のお考えに、この軍団の家臣の中で、異を唱える者など、ただの一人もおりませぬぞ! 皆、命を懸けて、兄上と共に、京へ上りましょうぞ!」
阿国も静かに、しかし迷いなき言葉を投げかけた。
阿国「頼朝様。その尊きご決断、この阿国も、心より嬉しく思いまする」
阿国も、深く頷いた。
夢の後遺症、というわけではないが、頼朝はすぐに反応しない秀長が気になった。
頼朝「…秀長は、どうじゃ。そなたの考えを聞かせよ」
秀長「はっ!」
秀長は、顔を上げ、決然とした表情で答えた。
秀長「まずは、近江の長浜城、安土城を攻略し、京への道を切り開きましょう。
しかる後に、都に上り、天下に惣無事令を発布する、それこそが我らが進むべき道かと存じまする!
この秀長も、頼朝様と共に、戦い抜く所存にございます!」
秀長の反応が遅かったのは、話を聞きながらすでに計画を練っていたからであった。
武田梓も、妻の篠も皆と合わせるように笑顔で頷いていた。
頼朝「…皆、かたじけない」
迷いあぐねた末の決断に対する、最も信を置く家臣たちの力強い後押しは、何よりもありがたかった。
頼朝「だが、信長が支配する領国の奥深くへと、乗り込んでゆかねばならぬ。これまで以上に、大きな犠牲を伴う、厳しい戦となろう。改めて、皆の力が頼りぞ。
まずは手始めに、後顧の憂いを断つため、尾張の那古野城を攻め落とす」
頼朝は、梓へと視線を向けた。
頼朝「梓、これからは一軍の将として戦ってもらう事となる。
早速、新たに編成される清州城の部隊を率い、那古野城攻略にあたってもらいたい」
梓「はい! お任せください!」
梓は、緊張の中にも、誇らしげな表情を浮かべた。
梓「武田の軍略、頼朝様にも、お目にかけとうございます!」
頼朝「それは楽しみじゃ。存分に手柄を立てて、戻って来るが良い。
那古野城を落とした後、来る十一月には、全軍、近江へ向け、出陣する!
秀長。上杉景勝殿に早馬を走らせ、我らが近江へ出兵する際、時を同じくして越前方面へ兵を出していただくよう、内々に連絡を。上杉の兵を犠牲にすることなく、織田の軍勢を、少しでも越前方面への分散をお願いしたい、と申し伝えよ。
……北条の姫を迎え入れる時に、かたじけない。お願いできるか」
秀長「はっ! 承知いたしました! すぐに手配いたします!」
秀長は、力強く応えた。
過去の“覇権を目指す頼朝”との決別を果たし、家族、家臣、民のために力を尽くすことを誓った頼朝であったが、“主”が軍団を設立した真の理由を知ることで、さらなる決断を迫られていた。
頼朝は、岐阜城の天守にて、かつてトモミクが語っていた言葉を思い出した。
『伊勢の長島、そして近江の道を、私たちが抑え、織田軍の侵入を完全に防ぐことができましたら……
そうなれば頼朝様も、この時代での暮らしを、少しはお楽に過ごしていただけるのではないかと……トモミクは、そう考えております!』
(――この嘘つきめ……。楽に過ごしていては、“主”の使命など、果たせぬではないか……)
あのとき、事情を知らぬ己に向けて、言葉を慎重に選びながら話していたトモミク。
(……だが、もしも、ほんの少しでも、その言葉にすがっていた自分がいたとしたら――
それは、それだけ、そなたの言葉が、温かかったということなのかもしれぬな)
けれども、あの優しい言葉に、どこか“甘え”たくなった自分自身を振り返り、頼朝は、自嘲気味に、そっとその言葉を反芻していた。
『頼朝様も、この時代での暮らしを、少しはお楽に過ごしていただけるのではないかと』
読んでくださり、ありがとうございました!
次回、北条家の若き姫を迎えます!
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