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17-1 若葉の旅路、真実の扉

景勝の遺した言葉――「滅ぼさぬための幕府」。

その余韻を胸に、頼朝は出雲阿国とともに岐阜へ向かう。

若葉が揺れる初夏の道中、阿国はひとことだけ告げた。

「頼朝様に真実の一端をお伝えすべき時が、参りました――」。

その静かな一言が、頼朝を再び“宿命の扉”へ導く。

そして岐阜の離れで対峙する“未来を知る者”トモミクが、ついに真実を語りはじめる――。

■出雲阿国との旅路 ~景勝の勧め、そして決意~


天正十二年(1584年)五月――。

織田信長という未曾有の脅威を前に、頼朝の心には、かねてより募らせていた疑念が、はっきりと姿を現し始めていた。


この軍団は何のために生まれたのか――

家臣たちの忠誠は、いったい何に根ざしているのか――

そして信長は、討たねばならぬ“敵”なのか……



出雲阿国が一つの提案を口にした。


阿国「もし真実を知りたいのであれば……トモミク様に、直接お尋ねになってはいかがでしょうか」


その一言が、頼朝の背を静かに押した。



頼朝一行は、岐阜城を目指し、若葉繁る山道を進んだ。

初夏の陽射しが新緑に反射し、阿国の袂に落ちた木漏れ日が、馬上の揺れにあわせてきらめく。


頼朝は、並んで進む阿国へと語りかけた。


挿絵(By みてみん)


頼朝「阿国殿……。わしがこの時代に来て道に迷うたび、そなたが導いてくれた。

『守るための軍団』『滅ぼさぬ力』『未来を知る者の葛藤』――それを教えてくれたのは、他でもない、そなたであった」


阿国は優しく微笑み、静かに答えた。


阿国「わたくしは、芸をもって生きてきた者。芸とは、まず人の心を知ることから始まります。人の哀歓を写し取り、自らと向き合い、より深き舞を舞うことができるのです。

それに頼朝様とトモミク様……お二人の深き葛藤を見過ごすわけにも参りませぬゆえ……」


頼朝「そのような者に、鉄砲を持たせて戦に駆り出しておるとは……つくづく、罪深いことをしておる」


阿国はかぶりを振った。


阿国「いいえ。私は、再び多くの人が笑い、舞を楽しめる世を夢見ております。そのためなら、武器も取りましょう。それが、頼朝様と共にあらば、叶うと信じているのです」


頼朝はふと、思いを口にする。


頼朝「……我が軍団は、領土を広げておる。それが必要と判断したゆえだが……戦が続く限り、命は失われていく。

景勝殿が語った、『滅ぼさぬ幕府』。阿国殿、それは、まことに難しき道であろう?」


阿国「はい……。ですが、困難であっても、目指すに値する理想ではございませんか?」


頼朝「阿国殿は、景勝殿の言葉から何を思い、そしてなぜ今、トモミクとの話を考えたのか」


阿国は、少し間を置き、静かに答えた。


阿国「これまで語れなかったことが、あまりに多く……それが、頼朝様のお苦しみを深いものにしていました。

それは、きっとトモミク様も、同じ思いに違いありませぬ。


頼朝様に真実の一端をお伝えすべき時が、参りました――」


頼朝「……そなたは多くのことを知っておるな」


阿国は静かに笑い、何も答えなかった。


進む先に目を向けると、岐阜城の天守が、初夏の山あいに立つ薄靄うすもやの中に、かすかに揺れて見えていた。



■岐阜の離れの屋敷


稲葉山の麓に佇む古びた屋敷は、時の流れに取り残されたかのように、ひっそりと静まり返っていた。


扉を開けると、頼朝の記憶を呼び覚ます独特の木の香りが微かに立ち込める。


頼朝(ここから始まった──桜を抱きしめた温もりも、確かにここにあった)


これまで、この屋敷で過ごしたひとときは、この時代にきてから忘れ得ぬ鮮明な記憶だった。頼朝は、静かに深く息を吐いた。


頼朝(此度も……心静かにとはいかぬであろう)



屋敷の部屋には、すでにトモミクが座し、頼朝たちの到着を待っていた。


トモミク「頼朝様、阿国様……おいでくださいまして、ありがとうございます」


変わらぬ柔和な笑顔。しかし、その微笑の奥には、何かを決意した気配が感じ取れた。


トモミク「お二方が揃って来られるとは……何か、大切なご相談でございましょうか?」


挿絵(By みてみん)


阿国「はい、トモミク様」


阿国が一歩前へ出て、静かに告げる。


阿国「先日、上杉景勝様が上杉弓様とともに那加城までお越しになりました。

頼朝様に征夷大将軍の座を勧められましたが、景勝様の望まれる幕府、『滅ぼすためでなく、護るための幕府』――その言葉に、私も考えさせられました。

それと……そろそろ、頼朝様に私たちが抱える事情を、お伝えすべき時期なのではないかとも感じたのです」


トモミクは、少し伏し目がちに黙し……そして、ふっと微笑んだ。


トモミク「……そうですね。私も、そろそろお話しなければと思っておりました」


阿国「本能寺の変が起こるとされる天正十年も過ぎ、時代は、すでに『元の歴史』とは異なる道を歩み始めております」


屋敷の外を見つめるトモミクの眼差しは、やがて頼朝へと向けられた。


トモミク「頼朝様、今まで何も申し上げず、大変なご無礼をお許しください。

それでも、ずっと信じてお導きくださったこと、心より感謝申し上げます。これより、私たちの本当の目的の一端を、お伝えさせていただきたく存じます」

「我らが生きているこの時代は、すでに“本来の歴史”とは異なる――」

阿国とトモミクが導く“過去と未来の狭間”で、

頼朝の胸に去来するのは、ただ一つ、

自らが歩むべき“今”の覚悟。

次章で語られる“真実”は、想像を超える覚悟を、頼朝に求めてくる――。

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