15-1 軍団の再編成
長島、清洲、大垣の三城を落とし、伊勢と信濃の戦いに勝利した頼朝軍は、ようやく一息つくことを許された。
だが、戦の合間にこそ、次なる嵐への備えは始まっている。
茶の湯に癒やされる一方、頼朝・義経・秀長らは、軍団の再編と人事に向き合う――。
新たに名乗りを上げるのは、信頼の厚い家族たち、そして次代を担う若き将たちであった。
■新しい領国、軍団
織田家の重要拠点であった清洲城、大垣城、長島城を立て続けに攻略し、さらに伊勢国境まで進撃してきた織田本軍を撃破――頼朝軍は、目覚ましい戦果を挙げていた。また越前においても、上杉軍は織田軍に勝利、大聖寺城は上杉領となった。
これだけの敗戦と損耗を被った織田軍は、さすがに新たな軍事行動を起こす余力を失い、しばし戦線を沈静化させるほかなかった。
頼朝軍にとって、一時の、しかし貴重な猶予となった。
だが、次なる戦を見据え、いま成すべき課題は山積していた。
■茶室での一時
那加城の茶室――。
羽柴秀長は、頼朝、義経と向き合い、今後の軍団運営について話し合っていた。
静かな空間に、湯の音が響く。
いつも茶を点てるのは、出雲阿国。
その流れるような所作と香ばしい茶の香りが、戦の緊張をほんの束の間、忘れさせてくれる。
頼朝「……こうして、阿国殿の点てた茶を落ち着いて味わえるとは、ありがたきことよ」
湯気の立つ茶碗を手にしながら、頼朝はしみじみと語る。
頼朝「このまま、織田も徳川も沈黙を保ち、武田、上杉、北条といった盟友たちも、争うことなく――
そんな都合のよいことが、続けば良いのだが」
ふっとため息を洩らす。
頼朝「だが、織田が次に動く時は、必ずや、これまで以上の猛攻となろう。今こそ備えを固めねばならぬ」
義経「兄上のご決断、早雲殿の先見の明。長島城攻略のための秀長殿の思い切った布陣、赤井殿の戦ぶり――
こうして穏やかに一服できるのは、我が軍団の皆々の非凡なるお力のおかげでござるな」
義経は笑みを浮かべながら、阿国にも目を向ける。
義経「それに、阿国殿の狙撃隊指揮と、この茶の妙技。まこと、恐れ入る!」
阿国「まあ……義経様ったら。そう仰っていただけると一層、励みになります」
軽やかに答える阿国。ふと、話題を転じる。
阿国「そういえば、トモミク様のご活躍、目覚ましいものであったと聞いております。
あの赤井輝子様も、舌を巻いておられたそうですよ」
義経「ははは! あのふたりの猛攻を受ける織田の兵に同情を禁じ得ぬ!」
■領国管理・軍備
羽柴秀長は話が一段落するところを待っていたかのように、姿勢を正し、口を開いた。
秀長「それでは、僭越ながら拙者より、いくつかご相談を申し上げたく存じます。
まずは、清洲城・大垣城・長島城の三拠点について。
これら新たな城の修復、ならびに城下町の整備は、喫緊の課題にございます。
幸い、大垣には早雲殿、清洲には赤井輝子殿が城代として入られ、民も集まり、復興は驚くべき速さで進んでおります」
頼朝はゆっくり頷く。
秀長「ただ――問題は、長島城にございます。
この地には、先に大草城の発展に貢献された飯坂猫殿をはじめ、熟練の内政官たちを、再び派遣いたしたく考えております」
頼朝「うむ、あの者たちの手腕には、わしも常々、舌を巻いておる。
本来ならば、大草へ立ち寄り、労をねぎらいたいところだが……また苦労をかけてしまうな」
そう言って、頼朝は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
秀長は話を続ける。
秀長「次に、兵力の再編について申し上げます」
清洲城周辺はもともと人口も多く、この後さらに民が集まるでしょう。新兵も飛躍的に伸びるものと存じます。
また岐阜城は、トモミク様の部隊が守っておりますが、さらなる増強が必要です。
そこで、清洲城と岐阜城の双方に、新たな狙撃隊を配備することを、拙者は提案いたしたく――」
ここで、頼朝が視線を隣の阿国へと向ける。
頼朝「ちょうどよい。阿国殿、新部隊の訓練に余念がないと聞いておるが……
適任の者は、すでに見つけておるのか?」
阿国は優雅に一礼し、柔らかく微笑む。
阿国「はい、頼朝様。まさにふさわしいお二人を、見出すことができました。
よろしければ、この場でご裁可を賜れますよう、お願い申し上げます」
頼朝「うむ。申してみよ」
阿国「まず一人目は……義経様の奥方・武田梓様にございます」
その名が出ると、義経は思わず身を乗り出した。
義経「な、なに? 梓が、指揮官に……!?」
阿国は、微笑を浮かべたまま、穏やかに説明を始める。
阿国「梓様が義経様をお支えする姿は、常々目にしてまいりました。
ですが――あの方の軍略眼と冷静な判断力は、それだけにとどまりませぬ。
一軍を率いても、決して遜色はないはず。わたくしが見るに、輝子様やトモミク様と肩を並べられる、数少ない将の器と存じます。
清洲城の新狙撃隊は、ぜひ梓様に率いていただきたく――義経様、お寂しくございますか?」
阿国は、悪戯っぽく笑いかける。
阿国「……あるいは、義経様。副将がこの阿国では、物足りないとお感じで?」
義経「いやいやっ! そんなことは決して!」
義経はすぐに顔を改め、厳かに続ける。
義経「梓の才は、拙者はよく知っておる。彼女にとっても、この任は誇るべき機会となろう。
わが部隊のことは、これまで通り、阿国殿に託す。よろしく頼む」
義経の言葉を耳にして、阿国は深く頭を下げる。
阿国「畏まりました。お任せあれ」
阿国は話を続けた。
阿国「そしてもうお一方――いずれ岐阜に配備いたします狙撃隊については、
頼朝様の副将・里見伏様にお任せするのがよろしいかと考えております。
伏様と縁の深い“犬”の方々――彼らが一つにまとまり、伏様と共に動くことで、常人の理解を超えた不思議な力を発揮されます。その戦力は岐阜城の守りをより強固なものとするでしょう」
*出雲阿国(中)は新たな鉄砲隊を率いる部隊長として、義経の副将で妻の武田梓(左)、頼朝隊の副将の里見伏(右)、を推挙した。
阿国は、間を置かず提案を続ける。
阿国「また、伏様が那加城を離れるとなれば、頼朝様の副将の座が空きます。
そこには、秀長様の御息女・篠様を任じてはいかがでしょうか」
一同、軽くどよめく。
阿国「篠様の射撃の正確さ、冷静な戦況判断――いずれも先の戦において証明済みにございます。
頼朝様をお支えする新たな副将として、これ以上の適任はおられませぬ」
頼朝はしばし静かに阿国の言葉を噛みしめた後、口を開いた。
頼朝「……阿国殿の目に狂いはあるまい。その案、承知した」
そして、秀長に視線を向ける。
頼朝「秀長よ、そなたは、どう思う」
秀長「はっ……新たな隊長任命の件については、事前に伺っておりましたが……
娘の名が出るとは、今この場で初めて知り、いささか、面喰っておりまする。
果たして、あの娘に副将という大役が務まりますかどうか……」
阿国はにっこりとしながら秀長に口を開いた。
阿国「秀長様ご自身が、あれほどまでに厳しく鍛えられたのでは?
篠様は、軍略も戦場における采配も、見事な働きぶりでございました。
この阿国、太鼓判を押させていただきます」
義経「拙者も、篠殿の戦場での姿はこの目で見ておりました。
兄上の副将として、申し分ござらぬ」
頼朝は皆の意見を聞き、穏やかに微笑んだ。
頼朝「そうか……ならば、決まりだな」
頼朝は改めて秀長に向き直り、ゆっくりと頷いた。
頼朝「秀長よ。これからは、そなたと、娘・篠とで、この至らぬ頼朝を支えてくれ」
秀長「はっ! 親子共々、身命を賭して、お仕えいたします!」
秀長は深く頭を下げた。
平穏は長くは続かない。だからこそ、今できる備えに、皆が心を尽くす。
阿国が見抜いた才、梓の誇り、篠の覚悟――それはただの人事ではなく、絆の証でもあった。
次章、戦の勝利の先にある、国を治めるという新たな戦場が、今、始まる。




