14-4 伊勢路に燃ゆる刃
伊勢の野に、烈火の如く突き進む女武将――赤井輝子。
南信濃の激戦を制した頼朝軍は、なおも伊勢の織田軍を追撃し続ける。
だが、執念の追撃の果てに待つものは、さらなる戦か、それとも破滅か。
未来人・トモミク、頼光四天王の一人・渡辺綱、そして伊勢の刃・赤井輝子。
三つの魂が、戦場で交差する。
――そして、明智光秀の桔梗紋が、迫りくる。
■再び伊勢:深追い~赤井輝子
南信濃で激戦が繰り広げられていた頃、伊勢の野を、逃げ惑う織田軍を追って、赤井輝子隊が疾駆していた。
後方では、トモミク隊と渡辺綱隊が間を置かず追随してゆく。
輝子「間もなく、収穫の季節じゃないか!
これでもう兵糧の心配はない!者ども、思う存分蹴散らしてやりな!」
そう叫ぶ輝子の眼光は、まさに獣。
その気迫に応じるように、赤井隊の将兵もまた、命を惜しまぬ猛進を続けていた。
退却する織田軍は、殿部隊を次々と差し向け、捨て身の抵抗を試みる。
だが、赤井隊はその殿部隊を押しのけ、次なる獲物へと矢のように突き進む。
後方からその様子を見ていたトモミクは、思わず眉をひそめた。
トモミク「輝子様の部隊、消耗しております!一旦後退して、ほぼ無傷なわたくしの隊が代わります。
輝子様へ伝令を!」
だが、輝子は、その伝令を一喝した。
輝子「何を言ってるんだい、空から来た姫に伝えな!
目の前の、あの逃げ腰の織田軍なんぞ、このあたしの隊だけで、十分。
あたしたちの隊に、万が一のことがあった時には、屍を乗り越えて、姫が前へ進むんだ!
そう伝えておくれ!」
輝子は、振り返り、トモミクのいるであろう後方へ鋭い視線を向けた。
輝子「あの織田軍に、思い知らせてやるのさ!
この伊勢の地に、一歩でも近づいたら、この赤井輝子が、決して承知しないってことをね!」
赤井輝子隊は、トモミクからの伝令など、まるで意に介さぬかのように、織田軍殿部隊からの必死の反撃をその身に受けながらも、進軍の速度を緩めようとはしなかった。
■トモミクの実力
その様子を目にしていたトモミクは、呆れを通り過ぎ、少し怪訝な表情を浮かべた。
トモミク「もう……輝子様ったら……!」
すぐさま副将・犬山道節に命を下す。
トモミク「道節様! 前方の敵が射程に入ったら、構わず撃ってください!
輝子様にばかり任せてはおけません。我らの隊だってやれると、見せて差し上げましょう!」
道節「はっ! かしこまりました、トモミク様!」
トモミク隊の射撃が始まった。
その砲声は、赤井隊すら飲み込まんとする勢いで、前線に向かって轟く。
トモミク「私だって、やれるんですっ!!」
少女のような叫びが、銃声に紛れて空へと飛んでいった。
輝子もまた、トモミク隊の強引な戦線参加で、目の前の織田軍が次々と倒されているところを目にして、驚き混じりに笑った。
輝子「ほう、空から来た姫も、やるじゃないか!
でも……!負けてられないね!
撃て!撃てぇっ!弾が尽きるまで、全部撃ち尽くせ!」
赤井隊の射撃も重なり、戦線はまさに火の海。
■守護神 渡辺綱
渡辺綱率いる騎馬隊が戦場を見渡しながら迫ってきた。
綱「いやはや……あの女子ふたりで織田軍を壊滅させてしまいそうじゃ。
久々に存分に暴れてやろうと思ったが……出番があるかどうか怪しいな」
槍を構えながら、綱は冷静に周囲を観察する。
綱「ただ――、待ち望んだ収穫があったが、腰兵糧の問題が出てくる。
この深追い……限界は近い」
そして、彼の懸念は現実となる。
前方、安濃津城下が見えたその時――
斥候が知らせてきた。
斥候「織田軍の増援、進軍中にございます! 桔梗紋の旗印――明智光秀隊!」
場が一気に緊張を帯びる。
輝子の部隊は将兵の高い士気に反して、目に見えて損耗は激しい。すぐに兵站を敵地の奥深くまで整えられるわけも無く、腰兵糧も限界。冷静な渡辺綱の眼差しは、この後の本格的な援軍との戦に警鐘を鳴らしていた。
輝子「ふん、明智か。あたしたちと遊び足りないってわけだね。望むところさ」
即座に安濃津城下に布陣し、迎撃の構えを取る。
だが――赤井隊の目の前に現れたのは、敵軍では無く、渡辺綱の騎馬隊だった。
綱「赤井殿! もはや、そこまで――引き際でござる!」
輝子「通してもらおうか、渡辺殿!今ここで引いたら、織田はまた戻ってくるんだよ!」
綱「それでもよい。戻ってくるなら、また叩けばよいだけのこと。
だが今は、貴殿の隊も、我らの兵糧も、限界!
この綱を討ってから進むというなら、――それもよかろう!」
地を震わすような綱の言葉に、赤井輝子はしばし沈黙した。
そして――静かに、鶴姫に振り返る。
輝子「…鶴姫。なかなか気骨のある男もいるもんだねぇ」
鶴「はい。さすがは頼光様の四天王にございます」
大祝鶴は微笑を浮かべていた。
輝子は苦笑し、綱に向き直る。
輝子「分かったよ、綱殿。今回は、あんたに免じて退いてやるよ!
明智光秀!命拾いしたね!」
そう告げる赤井輝子の声が、伊勢の空に轟いた。
輝子「者ども! 全軍、清州へ帰還するぞ!」
その背中に、なおも火のような気迫が灯っていた。
天正十一年(1583年)十月――。
頼朝軍は、伊勢と南信濃、二正面の激戦を制し、ようやく各拠点へと凱旋した。
兵糧は乏しい中の侵攻という逆境にあったが、戦線を安定させ、ようやく秋の収穫を迎えることができた。
しばしの平穏とともに――
源頼朝の胸には、また新たなる覚悟が、静かに芽吹こうとしていた。
それが、どのような運命を呼び起こすのか――
いまは、まだ誰も知る由もなかった。
退くもまた、勝ちの一手――。
燃え尽きるまで進もうとした赤井輝子を止めたのは、仲間の声と、守るべき“今”だった。
彼女の背を追うように、トモミクの銃火が伊勢を焦がし、渡辺綱の理が戦を制した。
頼朝軍は再び無数の犠牲の果てに勝利を手にし、短き収穫の季を迎える。
だが――美濃と尾張の周辺には、次なる戦の煙が、かすかに漂いはじめていた。




