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12-3 トモミクの咆哮

三月、関ヶ原・桑名・長島――三枚の盾と一振りの刀が、同時に動き出す。

時間との戦いの中、北条早雲は桑名を死守し、赤井・トモミクは長島城に挑む。

陽動作戦は成るか――二人の女将の咆哮が、城を裂き、時代を動かす。

■頼朝軍全軍出撃


天正十一年(1583年)三月上旬。


長島城攻略作戦は、直ちに実行に移された。


関ヶ原。

頼朝隊がいち早く布陣を完了し、太田道灌隊も間もなく合流した。幸いにも、近江方面から織田軍による、まとまった規模の攻撃はなかった。

越前方面へ派遣している織田の主力を、近江方面に退かせる猶予は無かったようであった。


桑名。

常に神速をもって、先手を打ってきた織田軍であったが、此度は大垣城から全力で南下した北条早雲隊が、先に桑名にて布陣を完了することができた。


これにより、トモミク隊と赤井隊が対応すべき敵は、孤立した長島城守備隊と、那古野城から織田の救援の部隊のみとなった。近江、伊勢方面からの波状攻撃を受けなければ、長島城攻略は当初の計画通りに進められる。



だが、桑名の早雲隊の前に、伊勢の海沿いの平野を隙間なく埋め尽くさんばかりの、織田の大軍勢が刻一刻と迫りつつあった。


早雲「いやはや、――

織田軍とは、地の底から次から次へと、際限なく兵が湧いて参る。あれほど叩きのめされ、他の方面にも大軍を割いておるはずなのじゃが……。

まことに、恐ろしいことよ」


早雲は、馬上から、地平線を埋め尽くす敵軍を見渡し、感嘆とも呆れともつかぬ声を漏らした。


早雲「桜殿」


早雲は、隣に控える桜に、口の端を上げながら言った。


早雲「怖くはないか? 此度の戦は、挟撃も、伏兵も、小細工は一切無い。真正面からのぶつかり合いぞ。襲いかかってくる、雲霞のごとき大軍を、力で斬り払う覚悟がいる」


桜「早雲様!」


桜は、きっぱりとした表情で答えた。


桜「わたくしとて、源頼朝の娘! これしきのことで、怯んだりは決していたしませぬ!」


早雲「そうであったな! いや、これは失礼、すまなんだ、すまなんだ!」


早雲は、快活に笑った。


挿絵(By みてみん)


早雲「そうこなくては! では……共に参ろうぞ、桜殿!


谷殿!」


早雲は、副将の谷衛友に檄を飛ばす。


早雲「敵の数が多い故、狙いなどつけずとも、槍を振り回しておれば、勝手に敵兵にあたるわ!

思う存分に、貴殿の槍を、振り回してきてくだされ!」


衛友「ははっ! お任せを、早雲殿!」


谷衛友が、力強く応える。そして源桜にも目線を向けて口を開いた。


衛友「桜殿! この谷衛友の戦いぶり、よう目に焼き付けてくだされ!

では、参る!」


谷衛友は、鬨の声を上げると、麾下の騎馬隊と切り込み隊を率い、眼前に迫る織田の大軍へと、猛然と突進していった。



■長島城進軍:赤井輝子、トモミク


一方、長島城へと向かう赤井輝子隊とトモミク隊からも、桑名方面へ向け、怒涛のように押し寄せる織田の大軍の姿が見えていた。


輝子「空から来た姫よ……!」


輝子が、隣を行くトモミクに声をかける。


輝子「見えるかい!あれほどの数の織田軍!

いくらあの早雲殿とはいえ、たった一部隊で、本当に太刀打ちできるのかい!?」


トモミク「……輝子様」


トモミクは、静かに答えた。


トモミク「今のままでは、桑名は厳しい戦いとなりましょう。

……長島城は、わたくしが、何とかいたします。輝子様は、先に早雲殿の救援へと向かわれるのが、よろしいかと存じますが……」


輝子「そうだな! あんたなら、空から来た不思議な力で、長島城くらい落とせる!」


まさにその時であった。

桑名の早雲隊から、一騎の早馬が、土煙を上げて駆けつけてきた。


輝子「どうした! 早雲殿の身に、何かあったか!」


輝子は、血相を変えて馬を止め、使者から書状を受け取ると、急ぎ目を通した。

だが、輝子は次の瞬間、腹を抱えて大笑いし始めた。


トモミク「て、輝子様?いったい、どうなさいました?」


訝しむトモミクに、輝子は、涙を浮かべながら言った。


輝子「はっはっは! あの爺様、こんな伝言を寄越しやがったよ!


『……わしの楽しみの邪魔をするでない。そなたたちは、そなたたちの仕事を、早う済ませい!』


……だってさ! あははは!


早雲殿は、あたしたちが心配して、援軍を送ろうとすることなんざ、とっくにお見通しだったんだよ! 『このわしを見損なうな』、って言いたいんだろうねぇ、まったく!


分かったよ、早雲殿! あんたがそう言うなら、こっちも、さっさと仕上げてやるさ!」


挿絵(By みてみん)


トモミク「…そうでございましたか」


トモミクも、ふっと笑みを漏らした。


トモミク「早雲様が、そのように仰せなのであれば、きっと大丈夫なのでしょう。……輝子様、私たちも、急ぎましょう!」



■長島城攻略


長島城の守将は、かつて何度も刃を交えた、あの滝川一益であった。那古野城からは、加藤清正率いる部隊が援軍として駆けつけ、六千余あまりで籠城していた。

野戦であれば蹴散らせても、籠城戦で力攻めを行うには、少々面倒な兵数であった。しかし、北条早雲隊が桑名で織田の大軍を食い止めている状況下では、一刻の猶予も無かった。


輝子「殿と、早雲殿が織田を抑えてくれたら、長島と那古野の軍勢なんてどうってことないと思ってたけどさ……

福島正則も、加藤清正も、野戦でさんざんこっちの鉄砲にやられたから、早々に籠城しちゃったのかね」


トモミク「うちの”土竜もぐら隊”にがんばってもらいますね」


トモミク隊には、築城の専門部隊だけでなく、攻城戦において、地下から城内へと侵入するための坑道を短時間で掘り進めることができる、「土竜もぐら」と呼ばれる特殊な工兵部隊が属していた。


輝子「彼らを連れてきたのかい……!

なら、うちの部隊は正面から大筒を打ち込んで織田の気を引くから、なんとか頼んだよ」


トモミク「はい!急いで侵入するところを探します!」



トモミク隊は日が暮れるのを待ち、城内に侵入する場所を探した。


トモミク「ここから、三の丸に侵入しましょう……!」


土竜部隊が、暗闇の中で土を掘り進め、湿った地肌をこじ開けていく。早くも城壁の一角に坑道を掘り進め、進入路を確保した。


挿絵(By みてみん)



次の朝、長島城の正面に布陣した赤井隊から大筒が轟音とともに火を吹いた。砲声が空を裂き、城壁を揺るがす。


挿絵(By みてみん)


城兵が赤井輝子隊から放たれる大砲に気を取られている間、トモミク隊の兵士たちが、次々と三の丸内に殺到した。


トモミク隊の突然の城内侵入に、守備側の織田軍は、色めき立った。


一益「突然敵が現われるとは、どうなっているのだ!敵の数もわからぬではないか!ひとまず二の丸に退け!」


滝川隊と加藤隊は慌てて二の丸内に兵を引き、城門を固く閉ざした。


トモミク「城門、城壁かまわず、どんどん撃ってください!」


トモミクは隊列を整え、城門に断続的に大量の斉射を加え、二の丸内からの反撃をこころみる織田軍の兵達を確実に倒していった。織田の兵は身をかがめて大量の鉄砲の餌食にならないように必死となっていた。


トモミク「今です、撞木どうぼくで城門を破壊してください」


織田の兵からの反撃が極端に少なくなったところで、トモミク隊は破城槌はじょうづちを打ち付け、二の丸城門を突破。二の丸城門の内側で守備にあたっていた滝川隊を撃破した。


残るは、加藤清正の部隊のみとなった。清正隊には、池田せん(池田恒興の娘)、佐々成政さっさなりまさが率いる鉄砲に優れる部隊と、加藤清正自身が率いる槍隊が配属されていた。福島隊を突破したトモミク隊を待ち受け、必死の抵抗を見せる。特に加藤清正自らが率いる槍隊の突撃によって、一時はトモミク隊の指揮系統が大きく乱れる場面もあった。


しかし、数で圧倒的に勝るトモミク隊は、構わず力押しで清正隊へと部隊をぶつけて、至近距離から鉄砲を断続的に撃ちこむ。火縄の硝煙が喉を刺し、視界が白くかすむ

トモミクは胸いっぱいに息を吸い込み――砲声すら掻き消す咆哮を轟かせた。


トモミク「私だってやれるんです!」


挿絵(By みてみん)


トモミクの不思議な掛け声が長島城内で響いていた。



そこへ、赤井隊が、別方面から二の丸の城門を破壊し、加藤清正隊の背後へと回り込んだ。前後から挟撃される形となり、ついに加藤清正隊も殲滅された。


輝子「空から来た姫! 無事か!」


赤井輝子が駆け寄る。


トモミク「はい、問題ありません、輝子様! あとは、本丸の天守を落とすだけですね! 急ぎましょう!」


すでにまとまった守備兵は長島城に残されておらず、赤井隊とトモミク隊は損害を受けることなく、本丸天守を制圧した。



トモミク「輝子様! 急ぎ、桑名の街道へ出ましょう!」


輝子「おう! 早雲殿は、大丈夫だろうか……いや、あの爺様のことだ、きっと大丈夫に決まってる!」


二人の女将は、互いに頷き合うと、すぐさま兵をまとめ、桑名方面へと急行した。長島から桑名までおよそ三里(約12km)、半刻で駆けつけられる距離だ。

女たちの奮戦が、長島城を切り裂いた。

しかし、まだ戦は終わらない。

次なる標的――織田の主力が迫る中、桑名の運命は、再び刃の交差する地となる。

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