10-1 激戦前夜、大垣奪取へ
内政官たちの奮闘で潤う軍資金──だが、織田の影は濃い。
北条早雲が示す打開策は“馬都”大垣の確保。
疲弊を抱えたままでも、守りを固めるためには攻めねばならない。
頼朝軍六万、決断の進軍が始まる。
■頼朝軍団を支える内政官
大垣城への出陣の準備のための備え、急な募兵、軍備や兵糧の調達、兵站の整備等、戦略・戦術以外に必要なことは山ほどあった。
特に鉄砲隊を多く率いる頼朝軍は、武器弾薬の調達と整備に莫大な金銭が必要であった。秀長は常に軍団の収支と予算配分に頭を悩ませながら、ここまでの戦いの下支えをしてくれていた。
頼朝は秀長より軍団の収支の詳細の報告を受けていた。
大草城を中心とした商業都市の急成長、そして東美濃と清州城という要衝の獲得により、頼朝軍の財政はかつてない安定を見せ始めていた。莫大な軍事費と政策経費を賄ったうえで、なお余剰を確保できるまでに至った。これはこの軍団の内政官たちの尽力の賜物であった。
この短期間に領国を立て直し、経済基盤を築き上げた飯坂猫をはじめとする才女たちの働きがなければ、頼朝軍は幾度もの激戦をくぐり抜けることなど叶わなかったであろう。
常設の軍を維持するために断行された兵農分離と刀狩り。それを可能とした楽市楽座の導入、交易と娯楽の都市開発。そして、民に慕われる善政によって、敵国からすら民を呼び寄せる吸引力。織田・徳川といった大国すら凌ぐ、発展の速度とその勢い。
どれか一つが欠けていれば、この小さな国はとうに滅んでいた。
(猫殿は、まことに風変わりな女子ではあったが……あの手腕と才覚は、まさしく軍団の柱である)
頼朝は、静かに思いを巡らせる。
(次なる戦、大垣城を攻略し、我が軍の防衛線が整った暁には……大草へ出向き、猫殿をはじめ、すべての内政官たちの労を労わねばなるまい)
そう心に誓いながら、頼朝は再び戦の地図へと目を落とした。大垣――信長の西からの脅威を封じる拠点を、いよいよ落とす時が来たのだ。
■大垣城攻略:軍議
頼朝軍の出撃の態勢が整ったところで、あらためて部隊長が集められ、軍議が開かれた。
頼朝「秀長。此度の戦、我らが動員できそうな兵力は、いかほどか」
評定の席で、頼朝は尋ねた。
先の南信濃遠征と、それに続く織田軍との激戦。その傷は、まだ癒えていない。それでも敢えて、大垣城攻略へと踏み切るのは、織田軍もまた、甚大な損害を被り、すぐには回復できぬはず、という見立てがあってのこと。
しかし、相手はあの織田信長。可能な限りの兵力は、動員したいところであった。
秀長は、手元の資料に目を落とし、厳しい表情で報告した。
秀長「はっ。まず犬山城からは、太田道灌隊が、ほぼ動員可能な全兵力、およそ一万四千、
この那加城からは、義経様の守備隊を残し、頼朝様直属の部隊として、およそ二万三千、
岐阜城からは、トモミク隊が、こちらもほぼ全軍を率い、およそ二万七千、
総勢、六万四千あまりとなります。
一気呵成に、短期決戦で大垣城を攻略できる事を期待しており、これほどの兵力は必ずしも必要ないかと存じます。しかし、もし織田軍が我らの予想よりも早く対応し、大規模な迎撃に出てきた場合、苦戦も想定しておかねばなりませぬ」
秀長の声に、憂慮の色が滲む。
秀長「そして、頼朝様……最も懸念すべきは、我が軍団に残されている騎馬突撃部隊が、もはや、この太田道灌殿の率いる一万四千騎のみ、ということでございます。もし、この太田隊に万一のことがあれば……」
頼朝「……秀長、大儀であった」
頼朝は、重々しく頷いた。
頼朝「我らが戦い方は、どうしても騎馬隊に大きな負担をかける。先の戦でも、彼らの犠牲は大きかった……。
いずれにせよ、今われらが動かせる全ての戦力で撃って出るしかあるまい」
頼朝は、集まった将たちの顔を見渡した。
頼朝「此度の戦、負け戦となったり、あるいは、再び大きな犠牲を出すようなことになれば……大垣城を落とすどころか、早雲殿が語っておった、その先の長島城攻略など、夢のまた夢となろう」
秀長「はっ……。何としても、ここで大垣城を落とし、織田の西方からの侵攻を抑えている間に、領内を安定させ、国力を回復させねば……」
秀長も、その覚悟を口にする。
頼朝「しかし、もう後には引けぬな。秀長、それで良いのだな」
頼朝は、念を押すように尋ねた。羽柴秀長は、北条早雲が提案した大垣城攻略の重要性は認めつつも、本来であれば、もう少し領国の安定と国力の回復を待ってから、次の軍事作戦へと移行したい、と考えていた節があった。
秀長「はい、頼朝様」
秀長は、迷いのない目で答えた。
秀長「信長様の、広大な領土と国力を背景とした軍事力は、常に我らにとって脅威でございます。早雲殿が仰せの通り、大垣城の攻略は、防衛的な観点からも極めて重要です。加えて、先の戦で消耗しきった騎馬隊の補充と再建も、今後必須となります。早雲殿のご慧眼には、この秀長、ただただ恐れ入るばかり」
頼朝「…成り立ちも定まらぬ小さき我らような国が、織田のような巨大な敵に対し、ここまで踏みとどまってこられた。ひとえに、そなたたちのような、優れた家臣たちのおかげよ」
頼朝は、しみじみと言った。
頼朝「利家殿が申しておったが、兄の秀吉殿も、そなたという片腕を失い、苦労しておられるそうじゃな」
秀長「はっ……。何とも、申し上げようもございません……」
秀長は、複雑な表情で俯いた。
■大垣城攻略:出陣前夜
天正十年(1582年)五月。
頼朝が諸将を前に告げる。
頼朝「東からは我が隊と太田隊、北からはトモミク隊――互いに挟撃の形で進む。その間、義経隊は那加城に残って守備を堅めてくれ……」
犬山城より、太田道灌率いる第三突撃隊。
那加城より、源頼朝率いる第一狙撃隊。
岐阜城より、トモミク率いる第二狙撃隊。
現有の兵力をほぼ総動員した、総勢六万を超える頼朝軍が、大垣城を目指し出陣した。
織田軍が大垣城へ到着する前に、頼朝軍が大垣城を完全に包囲することができれば、この戦の幸先は良いと言えるだろう。
*犬山城より太田道灌率いる第三突撃隊(右)、那加城より源頼朝率いる第一狙撃隊(中)、岐阜城よりトモミク率いる第二狙撃隊(左上)。
*北からトモミク隊が別動隊としてまわりこみ、正面からは頼朝隊と太田道灌隊が攻め込む。
しかし……
常に頼朝軍の先手、先手を打ってくる、恐るべき織田信長軍団――。
一万四千の騎馬隊に託された希望。
頼朝、秀長、道灌、そして猫――それぞれの覚悟が、いま一つに結実する。
次章、大垣の城壁を砲火が穿つ。
信長の反撃はあるのか。戦局の主導権を賭けた戦いが始まる。




