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9-2 攻めの決断、守りの誓い ―大垣へ―

小牧山の凱旋の余韻も束の間、早雲が示す次なるしるべは“馬の都”大垣。疲弊を押して進軍を選ぶ頼朝軍に、新たな盟友・前田利家が加わる――。

■早雲の進言


早雲「頼朝様、よろしいでしょうか」


再び、北条早雲であった。


早雲「我らは今こそ大垣城を押さえるべきと考えておりまする」


凱旋したばかりで、兵の傷も癒えぬ頼朝軍。しかも秀長の報告で織田軍団の恐ろしさを痛感させられたばかりであった。


頼朝が訊ねる。


頼朝「大垣城――早雲殿のことじゃ、何か意図があろう。聞かせてくれ」


早雲「はっ!」


早雲は秀長が軍議の際に使用する地図で、大垣の位置を差しながら頼朝に答えた。


早雲「我が軍の基本戦法は、大量の鉄砲と騎馬突撃の連携。

だが、長期の戦いを強いられると、騎馬隊の消耗は激しく、また今の犬山城下、岐阜城下でまかなえる騎馬には限りがござる。

もし西と東から同時に侵攻されたら、多方面へ充分な突撃隊を派遣するのは難しい。


そこで大垣城が必要なのじゃ。

大垣城は古くから馬の産地に近く、放牧地にも恵まれ、騎馬隊の拠点にうってつけ。


騎馬の補給のみならず、戦略的にも意味がござる。


大垣を抑えられたならば、大垣と岐阜の二段構えで、関ヶ原から進む織田軍を食い止められる。同時に、織田が上杉に軍事行動を起こす際も近江へのけん制も可能となる。


さらに――、

将来、伊勢長島も我らが城とできたなら、尾張・美濃を鉄壁の要塞にできますぞ!」


挿絵(By みてみん)


壮大な構想に一同が感嘆するが、秀長は現実的な懸念を指摘する。


秀長「早雲殿、今は清州城すら兵力が十分でなく、内政官も不足。大垣を取っても、直ちに大規模な駐屯は厳しいでしょう。織田が反撃してきた場合は……」


早雲「心配ご無用!」


早雲は自信満々に笑う。


早雲「わし自らが大垣城代となり、渡辺綱殿や源頼光殿の部隊の派遣もお願いしたい。彼らの配下には文武両道の将が多い。この者たちであれば、大垣城を早く発展させ、織田の侵攻もおさえられよう!」


秀長「なるほど……」


秀長も苦笑まじりに頷いた。しばらく思案し、あらためて考えを諸将に投げた。


秀長「ならば突撃隊の副将人事を少々変更し、

現道灌殿の副将・世良田元信殿を頼光殿に転属し大垣城へ、

現頼光殿の副将・坂田金時殿を太田殿に転属し、そのまま犬山に残る、

――と組み替えましょう」


頼光と道灌は秀長の配置換えについて了承した。




■出陣決定


頼朝もしばらく目を閉じ、諸将の話に耳を傾けていた。

目を開けるとともに、口を開いた。


頼朝「……早雲殿の慧眼、そして秀長の機転、この頼朝、感服いたした」


少し間をおいて、頼朝は自らの考えを諸将に伝えはじめた。


頼朝「先の連戦で皆、疲弊しておる。新兵の徴兵も、思うように進むまい。

しかし、それは、敗北を喫した織田信長とて、同じ。


これまでの戦いにおいて、我が軍の強さには感心をしておる。それは大量の鉄砲隊の力が大きい。

同時に、騎馬隊が消耗した後の鉄砲隊のみでの苦しい戦いも目にしてきた。


早雲殿の 提案にわしは賛成じゃ。無理をしてでも、我ら自身が前に進まねば、織田・徳川には対抗できぬ」


頼朝は、諸将一人一人の顔を見渡した。


頼朝「織田軍が再び力を蓄え、我らに矛先を向ける前に、打って出るとしよう。

我が軍の、残存兵力の再編成が終わり次第、ただちに大垣城へ向け、出陣する!


那加城、岐阜城、そして犬山城には、最低限の守備隊を残す。

それ以外の、動かせる残存兵力を結集し、わし自ら、そしてトモミク隊、道灌隊と共に、大垣城へと急行する!


苗木城の池田輝政殿は、引き続き南信濃の武田軍と密に連携を取り、徳川軍の動向に、くれぐれも注意怠りなく!」


「「ははっ!!」」


諸将は、力強く応えた。




■前田利家


評定が終わり、諸将はそれぞれの持ち場にもどり、急ぎ準備をすべく退出した。


トモミクと秀長が頼朝を茶室へ誘った。そこには一人の武者が端座していた。


頼朝「おもてを上げよ。頼朝である」


うやうやしく顔を上げた男は、東美濃・岩村城で捕縛された織田家の勇将・前田利家だった。


利家「ははっ!」


利家は頼朝に促され、顔を上げた。


利家「まさかこのように、伝説の源氏の棟梁たる頼朝様にお目通り叶うとは……トモミク殿のお話も理解できず、信長様や秀吉様への義理を思うと迷いもありましたが……」


頼朝「利家殿の名声は、よく聞いておる」


利家は、苦笑しながら秀長を見やる。


利家「拙者は羽柴秀吉とは古くからの友人にて、秀長のことも良く知っております。その秀長がそこまで信じる頼朝様ならば、拙者も賭けてみたいと思うにいたりました。

しかし、秀長、そなたの兄者(秀吉)の最近の様子は……どうも精彩を欠いておる、はっは!」


秀長「利家殿……」


秀長は複雑そうな表情を浮かべる。


利家「頼朝様」


利家は、再び頼朝に向き直り、真剣な眼差しで言った。


利家「この前田利家、今よりは、秀長と共に、頼朝様へ、ご奉公申し上げる所存にございます!」


そう言って、利家は再び、深々と頭を下げた。


(トモミクや秀長はこの男に、いったいどのように説得をしたのであろうか……)


頼朝は、傍らで微笑むトモミクを一瞥した。


頼朝「利家殿、ともに戦えること、誠にありがたい。この頼朝心より感謝申し上げる」


頼朝もまた、深く頭を垂れた。

そして、あらためて利家に訊ねた。


頼朝「一つ、わしから聞きたい。

織田信長という男は、いったい何者なのか」


利家は唐突な質問に対して少し時間をおき、茶を一口含んでから答え始めた。


利家「信長様は、一挙手一投足、軍略も政略も、我々家臣にはまるで予測がつかぬお方。それでも、はるか先を見据えておられるのだけは確か……。

掲げられる“天下布武”こそ民と武家の泰平をもたらす大業、我々家臣はそう信じ、ついて参りました。


頼朝様が鎌倉の世にて目指された新たな武家の世と、信長様の大業は、同じではないでしょうか」


頼朝「……同じ、であったかもしれぬ」


頼朝は静かに頷く。

頼朝は、遠くに目を移した。


頼朝「確かに、鎌倉時代のわしは、天下と民のために武家による政権を打ち立てる事を目指した。


だが、今のわしは違う、利家殿。


わしが戦うのは、この軍団、そして盟友を守るため。大義より、まず己の家臣、盟友を優先する。

つまり我らは『守るための軍団』。


わしは……この軍団の誰一人として、失いたくはないのだ……。


……もし、そなたが失望し、信長殿のもとへ戻りたいというなら、止めはせぬぞ」


挿絵(By みてみん)


語っているうちに、かつて「天下静謐」という理想のために、もがき苦しんでいた己の姿が、頼朝の脳裏に浮かび、思わず苦笑せざるを得なかった。

利家は、頼朝の言葉を、静かに、しかし真剣な眼差しで聞いていた。やがて、彼は、はっきりとした口調で言った。


利家「いいえ、頼朝様。今の拙者は、かつて信長様と同じことを目指され、その上で新しき世界を見据えていらっしゃる頼朝様とともに歩んでみとうございます。


旧知の者を裏切る寂しさも、正直ございますが……

しかし、秀長と同様に頼朝様が求める世のために力となりたい気持ちもまた、本心。


それでも、誰かのために戦いたい――その思いは、信長様に仕えたときと、何一つ変わっておりませぬ」


利家は、改めて頼朝の前に平伏した。


利家「この前田利家、微力ながら、これよりは、頼朝様のおん為、力の限りを尽くしましょうぞ!」


頼朝「…感謝申し上げる、利家殿」


頼朝は利家の手をとり、固く握手する。

横で微笑むトモミクが、すべてを見通すような穏やかな眼差しを向ける。


トモミク「心強いですわね、頼朝様!」


頼朝「うむ! ……秀長、トモミク、ぐずぐずしてはおれぬ。大垣へ出陣の準備を急ぐ!」


頼朝の声には、新たな決意と力がみなぎっていた。



かつて信長と同じ大義を抱いた、そして今は軍団の仲間と盟友を守るために戦う頼朝。その新たな戦いは、いよいよ大垣へ――。

騎馬の補給地を求め、大垣へ向け動き出す頼朝軍。一方、信長は西・北陸を蹂躙し、影はさらに濃く――次章、激突の火蓋が切られる。

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