7-5 駆ける旗印、逆転の刻(とき)
犬山城の空を、笹竜胆の御旗が駆ける。背後より迫る滝川を斬り裂いたのは北条早雲の騎馬隊。そして、ついに頼朝軍本隊が姿を現す。決戦の刻、迫る。
■決死の北条早雲騎馬隊
岐阜城から、嵐のように駆け抜けてきた北条早雲隊は驚異的な速度で進軍し、犬山城下に差し掛かる滝川一益隊を背後から捕捉した。
滝川一益は突如として背後に現れた、濛々たる土煙を巻き上げ突進してくる騎馬の大集団に、度肝を抜かれた。
一益「な、何やつ!? ええい、 反転して迎え撃て!」
滝川一益は、義経隊への挟撃どころではなくなった。
凄まじい地響きと共に迫りくる騎馬武者の勢いは、尋常ではない。土煙とともに迫る塊が、どれほどの規模の軍勢なのか、滝川隊の誰もが、正確に把握することすらできない。
早雲「者ども! 我らが武威、見せるは今ぞ! この一駆けに、我が隊の全ての力を懸ける! かかれぇぇーーーっ!!」
北条早雲は、騎馬に追いつくことができなかった槍部隊(歩兵)には構わず、騎馬隊のみを率い、その勢いのまま、滝川隊へと、猛然と突撃していったのである。
犠牲を顧みず突進する早雲の騎馬隊。初戦では、滝川隊の槍隊により避けがたい損害を被った。それでも断続的に自軍の屍を乗り越えて突進してくる騎馬の波状攻撃に、間もなく滝川隊は分断されていった。
一益「立て直せ!槍隊を前に出せ!」
そこに源桜率いる分隊が、滝川一益本陣に突撃をかけてきた。
桜「本陣を崩せば、敵など烏合の衆!うおおおおお!」
幼い桜は勝負所とみるや、突撃を指示し、自らも気迫で敵陣に突っ込んでいった。
それを見ていた谷衛友があわてて桜の後ろを伴走する。
(いやはや、中々の気概ではあるが、この猪突から御身をお守りするのは骨が折れる……!)
北条早雲から源桜の護衛を秘密裏に頼まれていた谷衛友とその一団も必死であった。
それでも、北条早雲から桜の分隊には選抜された精鋭が配属されていた。滝川一益の本陣の近衛兵たちは、その騎馬隊の激しい勢いを止める事ができず、ついに、滝川一益自ら戦線を離脱した。
桜「みなさま、残る兵は烏合の集です!一斉に突撃を!」
源桜が、あらん限りの声を張り上げ、とどめの突撃をかけようとしたその時であった。
早雲「おおっ! あの笹竜胆紋の御旗は、源氏の旗! 頼朝様じゃ!」
早雲隊の兵士の一人が、前方に現れた新たな軍勢を指差し、歓声を上げた。
桜も、兵たちが歓声を上げる方向を目にした。
桜「父上……!」
桜もまた、その旗を目にし、声を詰まらせた。
■頼朝軍本隊到着
頼朝隊、赤井隊を先頭とする、東美濃攻略からの帰還した本隊が、ようやく犬山城下へと差し掛かろうとしていたのだ。
犬山城が、変わらずに堂々と、源氏の旗を掲げている姿が見える。
頼朝「犬山は無事であったか……! 間に合った!」
頼朝は、思わず歓喜の声を上げずにはいられなかった。
その頼朝の目に、北条早雲隊の突撃によって中央を突破され、散り散りとなって敗走している織田軍・滝川隊の姿が飛び込んできた。
頼朝「…なぜ、犬山城下に、織田の軍勢が? しかも、敗走……?」
秀長「頼朝様! 織田軍の後方に見えるは、北条早雲様の騎馬隊にございます! どうやら、早雲殿が、この敵部隊を撃ち破られた模様!」
秀長が状況を即座に判断し、報告する。
頼朝「…事情は分からぬが、我が領内にいる織田軍を、殲滅する! 全軍、攻撃用意!」
急ぎの行軍で縦に長く伸びきっていた頼朝隊であったが、隊列が十分に整わぬまま、敗走中の滝川隊に対し、鉄砲の射撃を加えた。
もはや組織的な抵抗力を失っていた滝川隊を壊滅させるには、それで十分であった。義経隊の背後を突くべく回り込んできた滝川一益隊であったが、頼朝軍の領内深くで挟撃される形となり、文字通り四散し、壊滅的敗走を遂げた。
頼朝「秀長、急ぎ、状況を確認させよ」
(犬山城が無事ということは、義経がまだ踏みとどまってくれておる……!
だが、犬山城に守備隊がいないということは、全ての兵を率いて、小牧山で防戦しているのであろう……)
そこにさらに新たな報せが。
伝令「犬坂毛野より知らせ! 北条氏政殿、対信長包囲同盟に加わることを承知したとのこと!」
頼朝「それは祝着至極! 我らにとっても、そして武田にとっても、何よりの朗報!」
頼朝は思わず口に出すが、依然として義経隊の状況は不明だ。
(一刻も早く部隊を再編し、義経を救わねば……。間に合うか?)
頼朝軍は安堵よりも危機感を抱きながら、犬山周辺に布陣を固めつつ、義経隊との合流を目指す。犬山の先にはまだ織田本軍が残り、戦いの行方は決して楽観視できなかった。
桜の突撃、早雲の猛進、頼朝の帰還――義経を包囲せんとした滝川隊は潰走する。だが、小牧山では今も義経が立ち尽くす。助けは間に合うのか。勝敗は、まだ宙にある。




