7-4 孤軍奮闘の義経 ―三軍動く―
織田の矢面に立つ義経――背後には滝川、目前には稲葉。砦を捨てた先の街道で、女将たちと策なき防衛戦へ挑む。遠く岐阜では北条早雲が馬を駆る。二つの矢が交差する刻、兄への誓いが試される。
■必死の陣立て
義経は意を決して、各部隊に指示を飛ばした。
義経「道灌殿、目前の稲葉隊を今しばらく足止め願いたい。鉄砲隊が隊列を整えるまでの僅かな刻、時間を稼いでいただきたい。距離を保っていただければ、必ずや鉄砲隊にて仕留めましょう!」
道灌「はっ、承知! この太田道灌、稲葉一鉄ごとき、蹴散らしてくれるわ!」
道灌は、力強く応じ、再び前面の敵に向かっていく。
義経「阿国殿、道灌殿が時を稼いでくださる間に、我が鉄砲隊を五段の構えに。わしの合図と共に、間断なき斉射を浴びせる! 」
阿国「お任せくださいませ、義経様」
義経「櫛橋殿、背後から迫る滝川隊への備えを、お任せしたい。犬山方面へ向け、鉄砲隊を集中配備し、滝川隊を食い止めよ。そなたの鉄壁の守りを、頼みにしておる!
…そして、篠殿のことは、くれぐれも……!」
光「はい、義経様!
前面の織田勢との戦に、どうぞご集中ください!滝川隊のことは、この光に、お任せください!
…ここまでの、篠殿の戦いぶりも、実に立派なものでございます。どうぞ、ご安心を!」
光は、頼もしく微笑んだ。
義経(我が隊の女将たちは、まこと……)
このような危機的状況にあっても、決して冷静さを失わず、それどころか笑顔さえ絶やさずに、迅速かつ適切な対応ができる――頭が下がる。
それ故に、自分自身の采配の誤りは、彼女たちの命を危うくする。義経は、一層、気を引き締めた。
梓「…これで、よろしいかと。今、我らに出来ることは、全てやったかと存じまする、義経様」
傍らの梓が、静かに言った。
最も頼りになるこの妻もまた、誰よりも今の危機的状況が見えているはず。それでも変わらぬ笑顔で、共に采配を振るってくれている。
■岐阜城の北条早雲、出撃
その頃、岐阜城の北条早雲は、近江方面から迫る織田軍の動きを警戒し、動けずにいた。
だが、義経隊の背後に、滝川隊が回り込もうとしている、との急報が、早雲のもとへも届いた。
早雲は、即座に副将の谷衛友と、頼朝の娘・桜を呼び寄せた。
早雲「聞いての通り!義経殿は小牧山にて、織田の大軍を相手に、孤軍奮闘しておる!さすがの義経殿も、背後から滝川隊に襲われれば、ひとたまりもあるまい!。
今の我が軍団には、この岐阜城の我ら以外、動かせる兵はどこにもおらぬ!…であるならば、答えは一つ!
我らが打って出て、全速力で滝川隊の背後を突く!」
衛友「早雲殿! それでは、この岐阜城が手薄に! この谷が、岐阜に残り、織田の備えといたします!」
早雲「谷殿、ありがたい申し出なれど、今は一刻を争う!
滝川隊が犬山城下に到達する前に、これを捕捉し、殲滅せねばならぬ!」
早雲は決断した。
早雲「岐阜の騎馬は全て出す!谷殿の腕前、今こそ借りるぞ!」
衛友「…はっ! かしこまりました! それでは、お供いたします!」
早雲「よし、決まった!急ぎ、出陣の準備をいたせ!
此度は、速さが命ぞ!力の限り馬に鞭を打ち、滝川隊を捉える!
鉄砲は足手まといじゃ、構うな、置いてゆく!
槍隊も間に合わなくば、構わず騎馬隊のみで突撃をかける!」
北条早雲率いる精鋭騎馬隊が、鬨の声を上げ、岐阜城を飛び出し、土煙を巻き上げつつ出陣。一路、犬山を目指し、滝川隊を追撃していった。
■東美濃の頼朝軍
その頃、東美濃を進む頼朝軍本隊は、必死の進撃を続けていた。
(義経……! 持ちこたえてくれ……!)
一刻も早く、眼前の東美濃の織田勢力を降伏させ、義経隊と合流したい。頼朝の焦りは、募るばかりであった。
トモミク隊と頼光隊は、岩村城まであと少しという地点で、再び立ちはだかった織田の前田利家隊と交戦していた。
頼光「トモミク殿! 前田隊を蹴散らした後、岩村城など素通りし、このまま一気に義経隊の救援へと向かわずとも、よろしいのか!?」
源頼光が、不安げにトモミクに問いかける。
トモミク「頼光様。ここで岩村城を素通りしてしまえば、織田本隊が大規模な軍事行動を起こしているという情報が、岩村城、そして鳥峰城にも伝わるかもしれません。そうなれば、彼らは勢いづき、我々の背後から襲いかかってくるかもしれません……」
トモミクは冷静に答えた。
トモミク「そうなれば、我らは西の織田本隊と、東の岩村・鳥峰の軍勢に挟まれる形となります。
さらに、南から徳川軍まで現れたら――目も当てられません。
今は、義経様、早雲様、道灌様を信じ、一刻も早く、この岩村城を落とすこと。それが、結果的に、義経様たちを助ける最も確実な道です。
ここは、我が軍団にとって、勝負所と言えましょう、頼光様!」
頼光「……むぅ、判断の難しいところじゃ……!しかし、トモミク殿の考えにのろう、委細承知! 目の前の敵を、少しでも早く蹴散らすことに専念しようぞ!」
頼光は、再び闘志を燃え上がらせた。最も消耗していたはずの頼光隊であったが、その勢いは全く衰えず、前田利家隊へと猛然と突撃を繰り返す。
頼光「邪魔だ、利家! 我らが進む道を開けよ!」
頼光隊の鬼神の如き突撃の前に、先の戦いで兵が削られていた前田利家隊は抗することができず、壊滅。
利家自身も、頼朝軍の捕虜となった。
前田利家隊を壊滅させた後、岩村城の守備隊は、戦わずして城を頼朝軍に明け渡した。
*中央右下が岩村城を下したトモミク隊と頼光隊
*左の軍勢は鳥峰城を包囲している頼朝隊と赤井輝子隊
トモミク「頼光様! 急ぎましょう!」
トモミク隊と頼光隊は、休む間もなく岩村城を発ち、犬山への帰路を急いだ。
ほぼ時を同じくして、頼朝隊、赤井隊が包囲していた鳥峰城も降伏する。
頼朝「…秀長。織田の本軍が出陣したという報せは、まだ、この鳥峰にも、岩村にも、届いてはいなかったようだな」
頼朝は、安堵の息をつきながら言った。
秀長「はっ! 綱渡りでございますな」
秀長も比較的早くの東美濃の諸城の降伏に安堵した様子であった。
秀長「実は……織田本隊がこんなに早く出てくるとは想定外でした。義経殿と早雲殿に全て託すことになり……申し訳……」
頼朝は秀長の肩を叩く。
頼朝「そなたの陣立てが無ければ、武田はもう滅んでいたかもしれぬ。
東美濃も放置しておけば、我らにとっても由々しき事態となったであろう。
他に選択肢は無かった。
あとは義経たちを救うべく、一刻も早く犬山へ向かうだけだ!」
秀長「はっ!」
秀長は顔を上げ、急ぎ全軍の犬山への行軍の準備にとりかかった。
(義経よ……! どうか、無事でいてくれ……!)
頼朝「全軍、犬山へ全速前進! 道中の敵は、各々が薙ぎ払え!」
頼朝の檄が、東美濃の山々にこだまする。
岩村・鳥峰の城は陥ちた。早雲の騎馬は駆け、頼朝軍は犬山を目指す。
義経が選んだ“動かぬ覚悟”。迫る稲葉と滝川の刃に、援軍は間に合うのか――。




