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7-2 砦の炎、少女の誓い

犬山へ迫る織田の先鋒三万。頼朝不在の美濃を守るのは義経たち留守居軍――幼き篠も出陣を願い出る。

義経、篠、光、梓――それぞれが覚悟を決める中、拠点は崩れ、決断の時が迫る。

◾️留守居部隊の対応と幼き志


那加城にも、西から織田軍三万が犬山に迫る報は届いていた。

義経はじめ、留守居を預かる諸将に緊張が走っていた。


岐阜城の早雲からは「近江方面も警戒が必要。動けぬ」という早馬が届いた。


義経「拙者に、あの織田の大軍を止めよ、とはな。早雲殿にも、随分と頼りにされたものよ!」


義経は、書状を読み終えると、自嘲気味に笑った。


岐阜城もまた、西からの織田の侵攻を防ぐ最重要拠点。早雲隊を岐阜城から出撃させることも、頼朝軍にとっては危険な事でもあった。


(美濃に残っている兵力では、先の戦のように、こちらから打って出て敵を殲滅することは、もはや不可能、兄上が戻られるまで、敵を足止めできれば上出来……!)



そこへ、頼朝の新妻・しのが進み出て、幼いながらも凛々しい声を上げた。


篠「義経様、私も出撃いたします! 前線を維持するには、少しでも多くの部隊が要ります!」


義経「篠殿……大事なそなたを危なき目に合わせては、兄上や父秀長殿に顔向ができぬ……ここは我らにお任せあれ」


義経は此度の戦いの厳しさを知るがゆえ、篠には留まって欲しかった。しかし、本来であれば頼朝隊の副将を務める櫛橋光が割って入る。


光「義経様、篠様を私の隊でしっかりお守りします。わずかでも部隊を増やすのが得策かと。亀田高綱殿に篠様の護衛をお任せれば安心ですし……」


さらに出雲阿国も続いた。


阿国「人員不足の今、篠様にもお力をいただきましょう」


義経は逡巡するが、ついに承諾した。


義経「…皆がそこまで申すのであれば――

篠殿、くれぐれも無理はなされるな。光殿、頼み申す!」


光「お任せくださいませ!」


篠「義経様、御礼申し上げます」


十代前半とは思えぬほどの覚悟を、その瞳に宿していた。


挿絵(By みてみん)



義経は気を取り直し、毅然と指示を出した。


義経「那加城に残る予備兵をすべて動員し、出陣いたす!


新設される光殿の部隊には、我が隊の鉄砲兵の一部を配属する。また、大草城の兵も呼び寄せ、急遽編成してほしい。


梓、犬山城の太田道灌殿には、急ぎ小牧山の砦に入るよう伝えてくれ」


梓「かしこまりました」


武田梓は、伝令を犬山城に走らせるべく、早々に退出した。


挿絵(By みてみん)

*織田軍先方の滝川一益隊(左下)が、清州城より小牧山の砦(中央)に進軍する。

*頼朝軍は犬山城(中央右)より太田道灌隊を、小牧山の砦に敵より先に布陣する事を目指す。

*義経隊と、櫛橋光隊は那加城(中央上)から、犬山城を経由して、小牧山の砦に向かう。




◾️小牧山砦での戦闘


犬山城から、太田道灌率いる第三突撃隊が、小牧山の砦へと急行する。だが、ほぼ時を同じくして、織田軍の先鋒・滝川一益隊もまた、猛然と小牧山へ迫っていた。


間一髪、太田隊が砦に駆け込み、滝川隊を押し戻したが、砦の城門は大きく破壊されてしまう。

そこへ義経隊と櫛橋隊も加わり、辛うじて第一波は凌いだものの、砦は深刻な損傷を受けていた。


義経「梓、城門ばかりか外壁がここまで破壊されては、先のような狭所攻撃ができぬな。ここで守り続けるのは危険だ……」


義経は武田梓に囁く。


挿絵(By みてみん)


梓「義経様。私も、この城門と外壁は使い物にならないと存じます」


梓は冷静に答えた。


梓「ですが、ご覧ください。山頂にある物見櫓ものみやぐらの城門は、まだ健在です。いったん、あの櫓まで兵を引き、そこを拠点として敵を迎え撃つというのは、いかがでしょう」


義経「…それしかあるまいな。梓の言う通りだ」


梓は、武田家伝来の軍略にも通じており、義経の参謀として的確な助言を与えてくれる。


義経「全軍に伝達! 山頂の櫓まで後退し、そこで敵を迎撃する! 急ぎ、陣形を整えよ!」


義経は、山頂の櫓を指差し、檄を飛ばした。



頼朝隊が東美濃で織田軍を圧倒したという報は、周辺地域にも伝わっていた。それに勇気づけられたのか、美濃太田の国人衆たちが、この不利な戦であるにもかかわらず、頼朝軍への援軍として駆けつけてくれていた。兵数は少なくとも、事ここに至っては貴重な戦力であった。



義経「梓、見てみよ。眼下に迫る織田軍……砦に迫る福島正則の部隊も見えるが、その後詰の兵数が、先の戦とは比較にならぬほど増えておる」


櫓の上から軍勢の波を見下ろし、義経は押し殺すように呟いた。


梓「はい。織田の力も、日に日に増しているようです。この規模の軍勢に、繰り返し攻め寄せられるとなれば、相当に厳しい戦いとなるでしょう。


……ですが、義経様と、ここにいる精鋭の部隊であれば、大丈夫です。各個に敵の部隊を殲滅し続けていれば、しばらくは我らが優位であることは、間違いございませんから」


梓は、夫を励ますように、力強く言った。


義経「…心強いぞ、梓」


義経は頷いた。


だが、梓もまた、理解していた。『しばらくは』、という言葉の、重い意味を。


挿絵(By みてみん)



◾️福島正則の猛攻


福島正則隊が、前回の敗戦の屈辱を晴らすかのように、山頂の櫓の城門へと猛攻を仕掛けてきた。


挿絵(By みてみん)


義経軍は、美濃太田の国人衆の援軍も合わせ、鉄砲隊で必死に応戦する。だが、先の戦のように、鉄砲の数に物を言わせて敵を圧倒することはできない。

ついに、福島隊によって櫓の城門は破壊され、敵兵の突入を許してしまう。


挿絵(By みてみん)


なだれ込んできた福島隊の兵士たちは、先陣の美濃太田の国人衆を瞬く間に蹂躙し――いよいよ義経軍本隊へと刃が迫る。


挿絵(By みてみん)


義経「うろたえるな! 我が隊と櫛橋隊は、後先を考えず、撃ち尽くせ!」


義経は、隣にいるはずの篠の身を案じながらも、必死に檄を飛ばす。


義経「頃合いを見て、太田道灌隊は突撃を敢行! 櫓に侵入した敵兵を、斜面から突き落とせ!」


ここから、もはや後退できる場所はない。背後は、切り立った山の斜面なのだ。


後先を考えない義経隊、櫛橋隊の斉射で動きが止まった福島隊に対して、太田道灌隊の騎馬隊が突撃をかける。義経隊に肉薄した福島隊であったが、太田道灌隊の突撃で斜面から押し戻され、改めて矢玉が降り注ぐ。


正則「ええい、忌々しい!ここは退く!」


挿絵(By みてみん)



福島隊の猛攻を、辛うじて撃退した義経であったが、山頂の櫓の損傷は激しく、もはや拠点としての機能は失われつつあった。


後続の織田軍との攻防にも、義経は必死に軍を鼓舞するが、体勢は限界に近い。


(この砦に留まれば、一つ間違えれば我が軍は全滅。しかし、犬山城へ退けば、大草城方面が無防備となる……)


義経は、すべてを天秤にかけた末、山を下りて街道沿いに布陣し、持久戦で織田の攻勢を削ぐ決断を下した。

福島正則の猛攻を退けた義経軍だが、山頂の櫓は崩れ、義経は街道へ陣を移し、迫る織田の波を削ぎ切れるか――そして頼朝軍本隊は東美濃で二城攻囲のまま。

次章、ふたつの戦場が同時に燃え上がる。

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