↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/211

5-3 新たな体制 ―軍団と家族―

織田軍との戦火がひと息つくなか、頼朝軍は次なる嵐に備え、人事と組織の改革に踏み切る。

秀長の提案する“二つの柱”――そして父と娘、主と家臣の新たな絆が芽生え始める。

■新たな体制:譜代衆・一門衆の設置


織田軍との戦いが落ち着いているものの、那加城内の大本営、特に秀長は走り回っていた。


内政、外交、軍備、調略のほか、家臣団の人事も大切な取り組みであった。

むやみに領地を広げない頼朝軍は、領土を与えて働きに報いることはできない。

組織を整え、役割を明確にし、役職に応じた報酬……秀長は苦心していた。



その日の評定には義経、源頼光、渡辺綱、北条早雲、トモミクなど軍団の中核を成す幹部が揃った。

冒頭、頼朝が口を開く。


頼朝「ここまでの皆の働き、まことに見事であった。

度重なる織田の攻撃を凌ぎ、感謝の念に堪えぬ」


続いて秀長が進み出る。


秀長「我が軍団は、これまで事前の作戦に基づき、各部隊が作戦を遂行してまいりました。

しかし今後、戦いが激しくなるにつれ、予期せぬ状況に対応する必要性が増すかと存じます。


そこで、迅速で柔軟な判断を下せる体制を整えるべく、二つの新たな役職を提案いたします。


一つは“一門衆”。

頼朝様および源氏の一門の方々で構成します。

頼朝様万一の際は、何を措いても殿を最優先で救出する。

また、戦況が急変した際には、頼朝様の裁可を待たずに自律的に行動できる権限を持ちます。


一門衆には、義経様、頼光様、渡辺様の三名にお任せしたい。


挿絵(By みてみん)

*新たに「一門衆」に任命された渡辺綱(左)、源義経(中)、源頼光(左)


もう一つは“譜代衆”。

城主や城代など、特定地域の統治を担当し、平時の内政や戦時の緊急判断にある程度の自由度を持っていただく。


今は岐阜城のお二方――北条早雲殿、そしてトモミク殿――にお願いしたい。

岐阜城は引き続きお二人の部隊で守っていただきたく、早雲殿には引き続き岐阜城にとどまっていただきたい。


――拙者からの提案は、以上でございます」


皆、納得する中、北条早雲が言う。


早雲「異存はない。

だが一つ加えたいことがある。

赤井輝子殿を譜代衆に加えてはくれまいか?」


先の合戦で清州城を落とそうと意欲を燃やしていた赤井を見た早雲は、彼女なら一国一城を任せても面白い――と考えていた。


頼朝「よかろう、早雲殿。

だが、正式任命は次の戦で輝子殿が改めて手柄を立てることが条件」


早雲「ははっ、ありがたき幸せ!」


早雲は満足げに頭を下げる。


挿絵(By みてみん)

*新たに「譜代衆」に任命された(左)トモミク、(中)北条早雲。そして北条早雲の推挙で譜代衆が内定している(右)赤井輝子。




■父頼朝と、育ての親北条早雲


評定後、みな退出するなか、頼朝は早雲を引きとめた。


頼朝「早雲殿、ひとつ礼を申したい。

わしの娘・桜が、長く早雲殿にお世話になっていると聞いた……」


早雲「……この早雲が、責任をもってお育て申し上げる。

彼女はまっすぐな娘。

頼朝殿も岐阜城までお越しくだされ」


威厳ある老将に、父親や師匠のような優しさがにじむ。


頼朝「……感謝する」


頼朝はそれだけ告げた。

早雲に聞きたいことは多くあったが、言葉を呑み込んだ。


しかし、早雲は頼朝の気持ちを察したかのようであった。


早雲「頼朝殿、桜殿の話をお聞きしたいであろう。

じゃが、わしから聞くより、まずは、頼朝殿ご自身で岐阜へ参られよ。


桜殿に会うてやってくだされ」


頼朝は、静かに頭を下げた。


頼朝「早雲殿、かたじけない。

ただ、娘と申せ、恥ずかしながらわしは何も知らぬ。

何を話したらいいのやら……」


早雲「そうであった。

頼朝殿は、桜殿が生まれる前に、この時代にいらしたのであった。


ではなおさら、直接話を聞いてあげてくだされ。

正真正銘、頼朝殿の娘でござる。


桜は会いたがっておりますぞ。

堂々とお会いくだされ!


では、岐阜城にてお待ち申し上げておりますぞ!」


早雲は頼朝に会釈し、退出していった。


挿絵(By みてみん)




■秀長の娘・篠との対面


早雲の背中を見送り、頼朝は茶室へ向かう。

茶室には、秀長とうつむいた一人の少女が、頼朝を待っていた。


頼朝を目にすると、深く、頭を下げた。


頼朝「面を上げよ。かしこまらずとも良い……」


促されて少女は顔を上げる。

凛とした目が印象的な幼い女子だった。


篠「羽柴秀長の娘、しのにございます。

父から頼朝様のお話をいつも伺っております……」


しっかりとした言葉遣いであった。

しかし、こんな幼い娘が自分の嫁にとは――頼朝は戸惑いを禁じ得ない。


頼朝「篠と申したか。

そなたの父の働きには、いつも感謝をしている。

父を誇りとするが良い」


篠「勿体なきお話でございます。

父にとりましても、この上ない誉れでございます」


篠はあらためて、丁寧に頭を下げた。

秀長も深々と頭を下げ、意を決したように口を開いた。


秀長「……頼朝様。

何卒、この娘を頼朝様の妻に迎えていただきたく……!


篠も承知しておりまする」


挿絵(By みてみん)


頼朝は、苦笑いをした。


(承知といっても、こんな年の女子では、父親の命に従うだけであろう……)


頼朝は篠の顔を改めて見る。

すると少女は凛とした視線を合わせてくる。


頼朝「篠、年はいくつか」


篠「十二にございます」


(桜は十三……。

娘よりも幼いとは……)


頼朝「わしと夫婦めおとになることを望んでいるのか」


篠「はい。

父が尊敬申し上げる主君・頼朝様のもとで働きたく存じまする」


躊躇いなく答える篠。

父に仕込まれているに違いない。


(しかし“働ける”とは、おかしき事じゃ……)



頼朝「……秀長」


頼朝は深く息を吐く。


頼朝「わかった。

むしろ、わしにとって過ぎた縁だが、ありがたくそなたの気持ちを受け取ろう」


秀長「おお……ありがとうございます!」


秀長は感極まった様子で何度も頭を下げる。

篠も心なしか、ほっとした顔をしている。


頼朝は篠に体を向けて、静かに語り掛けた。


頼朝「すぐに、わしのもとに参る必要はない。

まずは父、母の元にて気が済むまで過ごし、学んでからでも構わぬ」


秀長「いえ、頼朝様。

篠は兵法書や武芸も一通り修めており、すぐにでも頼朝様のお役に立てるかと……」


秀長が横から口を挟む。


(十二の娘に、兵法書を読ませ、武芸に励ませ、用兵まで学ばせるとは……。

無体な父親よ……)


頼朝は内心で苦笑しつつ、篠の姿を確かめる。


頼朝「篠、そなたの父はあのように申しておるが、慌てずとも良い。

そなたは本日より頼朝の正室ゆえ、もう父に従わずとも良い。

自らの判断で、好きな時に参られよ」


篠「はい。お心遣い、恐れ入ります」


十二歳の娘の立ち居振る舞いは、隙が無かった。


頼朝は、大切な家臣の大切な娘、”正室”というよりは、養女をあずかるような気持ちで、篠を大切にしていこうと考えた。

桜との再会に向けて、心を整える頼朝。

そして、秀長の娘・篠との出会いは、頼朝の人生にまた一つ新たな縁をもたらします。

次章では、頼朝の再訪と桜との対話が描かれる予定です――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。