47-3 旅の行先
トモミクと会い、
これまでの道のり、最後の覚悟、
確認をする頼朝。
逃れられない現実と、涙の先に、
見えてくる道筋はあるのか……。
涙をのみ込み、言葉を紡ぐトモミク。
トモミク「……“主”から、
お手紙が届かなくなりました」
トモミクは、ゆっくり顔をあげる。
トモミク「でも、今、分かりました。
……もう、時を越えられないのですね……」
阿国に目線を向ける。
トモミク「阿国様も……お辛かったのですね……」
トモミクは、深く息を吸い込んだ。
そして、頼朝へ向き直る。
トモミク「頼朝様……。
武田勝頼様、武田家は今も安泰。
織田信長様もご存命。
北条家も、今なお健在。
わたくしの“主”の望みは……
すでに、果たされております」
深く、頭を下げた
頼朝は、その姿を見つめる。
頼朝「……本当に、それで良いのか」
逃げ場の無い問いだった。
頼朝「源氏の血は、未来を良くするのか。
守った者たちが……さらなる争いを生まぬと言い切れるか。
血と権力なき平和など、あるのか。
……人の業は、無くならぬ」
言葉が途切れる。
頼朝「……未来が変わらぬのであれば。
家族、家臣、領民たちと共に、
静かに美濃・尾張の地を守り続けたい……。
そのようにも考える」
頼朝は力なく言う。
頼朝「だが――もう後には引けぬ。
帝との約定もある。
”神”とやらは、そのために、阿国殿へ力を与えたのであろう。
……仮初であろうとも、
皆が生きている間だけであっても、
世が静謐であれば……」
静かにトモミクを見据える。
頼朝「……それも、良い」
出雲阿国が、堪えきれず声を上げた。
阿国「頼朝様……!
あなた様でなくては……いやでございます……」
頼朝は、外へと視線を向ける。
木々の向こう、雲が流れている。
ただ、風のままに。
頼朝「……この屋敷は良い。
ここで、そなたの茶を飲みながら……」
静かな声。
頼朝「……いつまでも、過ごしていたいものだ」
トモミクが、顔を上げた。
トモミク「……可能性、なのです」
ようやく言葉を発する。
トモミク「何もしないよりは、したほうが良い事。
未来では――
その積み重ねを、図ろうとするのです。
たどり着いた、最善の可能性の一つ……。
”主”も……模索していたのです。
そして、頼朝様も……
最善を模索されてきました。
……ですが、
その先は……誰にも分かりませぬ」
嗚咽を押し殺す。
トモミク「”主”は、感謝しております。
そして、私たち家臣も……
頼朝様に、感謝しております」
それ以上は、言葉にならなかった。
頼朝は静かに頭を下げる。
頼朝「……感謝する。
話しができて、嬉しく思う……」
やがて、頼朝は再び輿に乗る。
夕暮れの光が、岐阜城を赤く染めていた。
城内は静まり返っていた。
主だった将兵は、出撃している。
頼朝は、寝所にあっても眠ることができなかった。
トモミクの涙。
阿国の沈黙。
そのすべてが、胸に残っている。
やがて、かすかな足音。
戸が、静かに開く。
白絹の衣擦れ。
闇の中、月明かりがわずかに差し込む。
「……頼朝様……」
低くかすれた声。
差し込む月明かりに、その姿が、浮かび上がる。
戸が閉じる。
再び、闇。
阿国は頼朝の傍へ進む。
かすかな月明かりに、頬の涙が光る。
阿国の帯がはらりと畳へ落ち、
薄絹が白い肌にかさりと擦れる。
阿国は、ゆっくりと近づく。
言葉は、ない。
ただ、その気配だけが満ちていく。
頼朝は、静かに身を起こす。
伸ばした手に、阿国の身体が触れる。
その瞬間――
かすかに、震えた。
阿国「……たとえ、裁かれようとも……今だけは……」
それ以上、続かない。
頼朝は、その身を抱き寄せた。
消せないとまどいに震えながらも、
頼朝に身体を預ける。
障子に、二つの影が映る。
生と死の境が、曖昧になっていく。
悲しみと、求める想いが、
静かに重なり合う。
やがて、すべては溶けるように、
夜の中へ沈んでいった。
秋の虫の声だけが、遠く、細く続いていた。
お読みいただきありがとうございました。
頼朝を支えてきたトモミク、出雲阿国、
導かれるものを失い、時代に取り残されました。
運命の犠牲となるのか、
光を見い出せるのか……。
この後も、引き続きお付き合いくださいませ。




