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34-4 “真”を背負う決意

長き眠りから目覚めた頼朝。

重き夢と、阿国から突きつけられた“真”。

頼朝は静寂の中で現実と向き合っていた。

そこに、幼き頃より頼朝に嫁いだ妻・篠が現れる。

気がつけば、立派な女子おなごとして成長し、気丈な御代どころとして振る舞う篠。

静かな夜更けに、篠が差し入れた茶は、二人の絆を静かに温めた。


■篠との夜明け


出雲阿国が去った後の一間には、深い静寂が残った。

燭台の灯がわずかに揺れ、頼朝の影が長く畳に伸びている。

あまりに多くの“真実”が、この夜、彼の上に降りかかっていた。


ひとつ、またひとつ。

朝廷の思惑、阿国の過去、神の沈黙、別の自分の死、立花宗茂と“主”の願い――。


すべてが胸の奥で重なり、沈んでいった。

頼朝は静かに息を吐いた。

結局は、決別したはずの覇権という闇と、また相対せねばならぬのか。


(……もはや、これ以上の“真”を見せられる夢など、御免こうむりたい)


掌に残る阿国の言葉の余韻が、妙に熱を帯びている。

希望も絶望も、すべて“現”の中にある――

その思いが、心に重くのしかかっていた。


「……もう夢は見とうないものじゃ……」

頼朝は、誰にともなく呟いた。

それは亡き者への嘆きではなく、己が耐えうる心の限界を恐れる、ひとりの男の吐露であった。


挿絵(By みてみん)


その時、戸の外から、柔らかな声がした。

篠「頼朝様……まだお休みになられておりませぬか?」


篠であった。

頼朝は軽く姿勢を直し、「入れ」とだけ答える。


篠は小さな盆を手に、そっと部屋へ入ってきた。

茶の香が淡く立ち上る。

その気配は、夜の冷気に温もりを添えるようであった。


頼朝「……篠。夢を見るのが、少し怖いのだ」

篠「夢……でございますか?」

頼朝「長く寝すぎての、夢を見過ぎた。厳しきうつつも夢も……まっぴらじゃ」


篠は微かに眉を下げ、しかし静かに微笑んだ。

篠「……ふふ、おかしなことをおっしゃいますね。

実は私も、頼朝様が夢の世界からお戻りになられて嬉しく存じます。“現”に戻られなければ、どうしようかと思いましたよ。

いつまでも起きていてくださる方が、私にとっては何よりでございます」


頼朝は、その言葉に視線を上げた。

篠の面差しは、かつての幼い妻ではなかった。

そこには、静かな慈しみと、揺るがぬ覚悟が宿っていた。


(篠も……もう娘ではないのだな)


頼朝「篠よ。……そなたは立派な女子おなごじゃな」

篠「いいえ。ただ、頼朝様のおそばにおりたくて、今日まで歩んでまいりました。

それだけにございます」


挿絵(By みてみん)


頼朝は茶を置き、ゆっくりと立ち上がった。

頼朝「……すまぬの」


その一言は、夜風に紛れるほど小さかったが、篠には届いた。

篠は静かに微笑み、「よくぞ、お戻りくださりました」と深く頭を下げた。


篠が去った後、頼朝は灯を見つめ、微かに呟いた。

「……神も人も、皆、わしを試すか」


やがて、夜明けの光が差し始める。

頼朝は背筋を伸ばし、金色の朝を見つめながら口にした。

「――よい。ならば、神が見ぬこのうつつを、わしが征こうではないか」


外では、鶏の声が聞こえ始めていた。

新たな戦の朝が、また訪れようとしていた。



■頼朝の決意


天正十四年(1586年)の暮れ。


頼朝軍団の主だった家臣団、そして各城代たちが、久しぶりに那加城へと集結していた。


西からの織田の侵攻に備える安土城には、北条早雲。

東からの徳川の侵攻に備える犬山城には、太田道灌。

そして、京にて朝廷との交渉や御所の修繕にあたる二条城代・太田牛一。

この三名だけは居城を離れることができずにいた。


連戦に次ぐ連戦。

こうして筆頭家臣団が一堂に会する評定が開かれるのは、頼朝軍がまだ美濃一国と尾張の一部を領有していた頃以来のことであった。


頼朝が静かに評定の間へと姿を現すと、集まった家臣たちは一斉にこうべを垂れた。

そこには古くからの家臣団に加え、先の戦で新たに頼朝軍へと加わった旧織田家の将たちの姿もあった。

それぞれが頼朝の回復した姿を目にして、胸をなでおろしていた。


頼朝「此度のこと、随分と心配をかけた。大事な時期に、少しばかり眠り過ぎてしまったようだ。すまなんだ」


頼朝は、まず、自らの不明を詫びた。


頼朝「だが、わしが目を覚ました時には、すでに越前も、伊勢も、そして山城までもが見事に平定されておった。

また、その他の領国も敵に攻め取られることなく、むしろ目覚ましく発展しておる。


これもひとえに、ここにいる有能なる家臣団、皆の働きのおかげである。

改めて、心より御礼申し上げる。


まさに“果報は寝て待て”、であった!」


くすくすと笑う家臣が多い中、横に控える義経は「人の気も知らずに」とでも言いたげに、あきれた面持ちをしていた。


頼朝は、居並ぶ家臣たちの顔を一人ひとり、ゆっくりと見渡した。


頼朝「これだけ多くの者たちが、これほどの大手柄を次々と立てておるのだ。

果たしてそのすべての功に、この頼朝が十分に応えられるかどうか……不安はある。


だが、急速に広がったこの広大な領国の管理・運営――皆にさらなる苦労をかけることとなろう。

おそらくは恩賞に対する不満を申しておるいとまはなく、

忙しく働かされることへの不満の方が多かろう!」


頼朝がそう言って笑うと、今度は大きな笑いが評定の間に広がった。

そこで頼朝は、あらためて決意をこめた眼差しを皆に向ける。


頼朝「……だが良いか、皆の者。本当の戦いはこれからじゃ。


残念ながら、京の朝廷は、我らがただ山城国を支配したからといって、

やすやすと『惣無事令』の発布に同意してくれるほど甘くはなかった」


頼朝の声に、再び力がこもる。


頼朝「我らが真に天下静謐を成し遂げんと欲するのであれば、

この頼朝軍団の力が試されるのは、まさにここからぞ。


皆の者、引き続きこの頼朝への、さらなる力添えを――是非とも頼む!」


頼朝が声を張り上げると、家臣たちも口々に頼朝に賛同の意を表した。


挿絵(By みてみん)


『我らの力を見せるのはここからじゃ!』

『どこまでも頼朝様について参る!』

『天下は頼朝様のものじゃ!』


一連の様子を静かに見守る出雲阿国がいた。

(神よ……頼朝様の歩む道が正しきものであるならば――

 どうか、この方をお守りくださいませ……)


挿絵(By みてみん)


お読みいただきありがとうございました。

“真”の重みを背負いながらも、頼朝は再び歩み出します。

次なる舞台は、京と天下の岐路。

頼朝と軍団の新たな戦い、引き続きお付き合いいただければ幸いです。


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