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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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カティラス侯爵家の夜会当日ー次男の再度の注意

「それで、何を考えていたのかな?」


また話が戻った。

もう完全に終わった話だと思っていた。

だから、軽く驚く。


その後で訝しげな気持ちが頭をもたげてきた。

そこまで引っ張るような話題でもない。

何故そこまでしつこく訊くのだろう?


「そんなに気になりますか?」

「一応聞いておいたほうがいい気がしている」

「そうですか」

「それとも話せないようなことなのかな?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」


ただ本当に話す程でもない。


「なら、是非とも聞かせてほしい」


ファビアン・カティラス侯爵令息は微笑んでいるがその目の奥は真剣だった。

これはもう話さないと退かないだろう。

アナスタシアは心の奥で小さく溜め息をつく。


「本当に大した話ではありません。ただ、女性騎士の方や鍛えている方なら太刀打ちできるのかしら? と考えただけですから」

「なるほど」


ファビアン・カティラス侯爵令息は頷いた。


「大した話ではありませんでしたでしょう?」


ファビアン・カティラス侯爵令息は同意も否定もしなかった。


「確かに女性騎士であれば、非力な男くらいなら不意をつかれなければ対処できるだろうね。むしろそれすらできないようなら騎士にはなれない」

「そうですね」


騎士が一般男性に負けるようでは職務をまっとうできないだろう。


「鍛えている令嬢、というのはあまり聞かないが、いたとして、鍛え方によるんじゃないかな?」

「なるほど」


どのように鍛えるかによっても確かに違うかもしれない。

世の中には役に立たない筋肉というのもあるようだし。

ふむと頷く。


「たぶん、クーパー嬢の思っているのとは違うと思うよ」

「え?」


瞬いてアナスタシアはファビアン・カティラス侯爵令息を見上げる。


「鍛える目的が違うと言えばわかりやすいかな?」


呆れではなくどこか楽しげな光を宿してファビアン・カティラス侯爵令息は言う。


「えっと、」

「戦うことを目的に鍛えるのと速く走ることを目的にして鍛えるのでは鍛え方が違うだろう?」

「あ、そうですね」

「ただ速く走ることを目的として鍛えていたとしたら、逃げるのならともかく、力で押さえつけられたら太刀打ちできないよね?」

「確かにそうですね」


それはそうだ。それは逃げるためであり、倒すためではない。

下手なことをすれば自分のほうが怪我をしてしまう。


「まあ上から押さえられたら鍛えていても女性にはね除けるのは難しいと思う」

「え?」

「男のほうが重いからね。体重をかけて押さえ込まれたらさすがに無理だと思うよ」


言われてみればそうかもしれない。

だから素直に頷く。


「そうですね」

「何でそんな考えになったかわからないけど、クーパー嬢は身体を鍛えているわけではないだろう?」

「そうですね。鍛えてはいないです」


いくらお転婆だったとはいえ、鍛えるようなことはしていない。

王都に来てからは散歩をするくらいで積極的に身体を動かしてもいない。

……体力も落ちてきているかもしれない。


それはアナスタシアにとって由々しきことだ。

いざとなった時にマティスを助けられない。

下手したらマティスの足手纏いになりかねない。

それだけは絶対に嫌だ。


屋敷の庭や学園内を歩き回ってせめて体力だけは戻さないと。

密かに決意する。


さすがにそこまでは読み取れなかったのだろう。

ファビアン・カティラス侯爵令息は先程の話のまま注意する。


「どんなに非力そうに見えてもやはり男の腕力には一般的な女性では太刀打ちできないだろう。だからいいね? 変な男にはついていっては駄目だよ?」


恐らくもう一度こうやって釘を刺したかったのだろう。

だからあれだけしつこく話を聞きたがったのだと思う。

そうでなければあれだけ話を戻すのはおかしい。


「はい」


しっかりと頷いておく。


「うん、いい子だ」


ファビアン・カティラス侯爵令息は満足そうに微笑(わら)う。

それは、子供に対する言い方だ。


むぅっと心の中で唸る。

勿論表に出すようなことはしない。


だがファビアン・カティラス侯爵令息はすぐに気づいたようだ。


「っと失礼。淑女に言う言葉ではなかったね」

「いえ」


それしか言えない。

実際に思ってしまったことだから。

もっと経験値があれば素敵な返しができたかもしれないがアナスタシアには無理だった。


「本当にごめん。つい妹のように扱ってしまった」


それなら仕方ない。

先程も妹と重ねていたようだったし。


「いえ、本当にお気になさらず」

「ありがとう」


ファビアン・カティラス侯爵令息がふわりと微笑む。

アナスタシアも微笑み返した。


初対面の相手なのにいつの間にか緊張感がなくなっていることにアナスタシアは気づいた。

いや最初からあまり感じていなかった。

何故か初対面なのにこの人は大丈夫だという安心感がある。

本当に何故か。


ファビアン・カティラス侯爵令息を見上げながら歩き、ふと誰かの面影が重なったような気がする。


「どこかでお会いしたことがありましたか?」

「異性にそんなことを軽々しく言っては駄目だよ。利用される」


そう言うからにはアナスタシアの気のせいだったのだろう。

重なったような気がする面影ももう思い出せない。


「ごめんなさい」


素直に謝る。


「これから気をつければいい」

「はい」


まるで兄妹のようなやりとりだ。

やはりどこか妹を重ねて見ているのかもしれない。

アナスタシアは兄を重ねることはないけれど。


それからは会場に戻るまで学園でのことなどごくごく一般的な話をしたのだった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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