表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/144

61話 その名はアシェイリス

 困ったことになった。

 否。

 大変困っている。


「おいアシェイラ。どうするんだよ」


 俺の隣を歩くアシェイラは、その詰問に後ろを振り返る。

 見れば、ぞろぞろと付いてくる三千人の人間達。

 いや、戦いで命を落とした者。

 一命は取り留めたものの、自力で動くことが出来なくなった者。

 自分で道を切り開こうと、すでに立ち去った者もいる。

 なので三千はいないだろう。

 だいたい二千ちょっとか?

 まぁだからなんだという話だ。

 大変困った状況に変わりはないのだから。


 場所はポポスの北。

 兼ねてから予定していた通り、断世の渓谷を歩いている最中だ。

 このまま北へ向かって北方連合領土に入る。

 そこで魔物を集め、グジャ王国やロンゴ帝国と渡り合えるだけの力を蓄える。

 そういう予定なのだが……。


「これではどの町にも入れないぞ?」

「ですよね……」


 これだけの人数を。

 しかも無一文の人間達を、どうぞと招き入れる町などありはしないだろう。

 そればかりか、侵略者と思われて矢を射掛けられかねない。

 そんなことになれば、いよいよ俺の居場所は世界のどこにもなくなってしまう。

 ペンダントに入れられれば楽なのだが、人間は入れてくれないらしい。

 不思議空間のくせに融通の利かない奴である。


 加えて食料問題も頭を悩ませる要因だ。

 なにせ二千人以上の元奴隷。

 金を持っている奴などいないし、蓄えもない。

 俺達がその面倒までみる義理はないのだろうが、見捨てて餓死させたとあっては、なんのために苦労したのか分からなくなってしまう。


「お金なら多少はありますが……」


 そう言ってアシェイラは金貨の入った袋を取り出す。

 これは彼女が元々持っていた金に加え、ウォレッドの懐から頂戴したものだ。

 決して少なくない金額だが、それでも二千人を食わせ続けるなど不可能である。

 持って一ヶ月。

 それも、ギリギリ切り詰めての計算だ。


 ふむ。

 仕方ない。


 両側をゴツゴツとした絶壁に囲まれた、断世の渓谷。

 その中ほどで俺は立ち止まり、振り返ってパンパンと二度ほど手を叩いた。

 何事かとついて来ていた人間達が注目する中、声を張り上げて俺は告げる。


「ここまで来れば安全だ。お前達は自由を手に入れたのだ!」


 途端『おぉっ!!』と歓喜の声が沸きあがる。


「よって、お前達は行きたいところへ行くのだ! 解散ッ!」


 途端『おぉ?』と疑問系の声が広がった。

 そして誰一人動こうとしない。

 なぜだ?


「どうした? どこへなりとも行っていいのだぞ?」

「好きなところへ、でいいんだよね?」


 群衆の中から、幼い少女がおずおずと挙手し尋ねてきた。


「うむ。そうだぞ」

「ならもう来てるよ!」


 ここか!?

 こんな岩場に来たかったのか!?

 うぅむ。

 幼い見た目によらず、なかなかマニアックな趣味をお持ちだ。


「そ、そうか。良かったな」

「うん!」


 まぁそういうことなら仕方ない。

 こんな岩場で放り出すのは気が咎めるが、本人の希望だ。

 俺は振り返り、また北へと進み始める。


 ……。


 さらに十分程行ったところで、また振り返った。

 ……数が減っていない。

 というか、先ほど発言した少女が先頭にいる。


「少女よ」

「ファニスだよ」

「そうか。ではファニスよ。なぜ着いて来るのだ?」

「行きたいところへ行けと言われたから?」


 お下げ髪を揺らしながら、少女が疑問系で答えた。

 俺には良くわからないが、同じような岩場でも良い岩場と悪い岩場があるのかもしれない。

 そしてこの少女は、その場所を探しているのかもしれない。

 うぅむ。

 ならば放ってお――。


「リク様」


 隣のアシェイラが、クスクスと含み笑いを浮かべながら声をかけてきた。


「もう分かっておりますよね?」

「まったく分からんぞ!

 共に行きたいというなら、俺ではなくアシェイラと共にだろう!?

 コイツ等の心を揺さぶったのも、共に戦ったのもお前ではないか!!」


 薄々は気付いていた。

 というか、気付かない方がおかしい。

 この二千人は、俺の行くところへ行きたい。

 俺と共に生きたいと思っているのだ。


 だがなぜなのかが分からない。

 彼等に語りかけたのはアシェイラだし、俺はただ戦っていただけなのだから。


「私達は、ちゃんと見てたんだよ?」


 お下げの少女ファニスが、俺の袖を掴み見上げる。


「お兄ちゃんが傷だらけで苦しんでいても、絶対に私達に酷い事しなかったこと。

 ううん。私達を守ってくれてたことを!」


 その言葉に、少女の後ろにいる者達も一斉に頷く。

 それは隣にいるアシェイラも同様だった。

 彼女はそれがなにより嬉しいのだと、微笑みながら補足する。


「あの土壇場で彼等が立ち上がれたのは、そうしたリク様を見ていたからです。

 まだ成人もしていない少年が、自分達の為に傷つき戦う姿。

 それが、皆の心を打ったのですよ」


 ……まいった。

 これは本格的に参りました。

 そんなことを曇りない瞳で言われてしまったら、もう見捨てられないではないか。

 もう一度、二千人の顔を見渡す。

 その誰からも、俺に対する信頼が感じ取れてしまった。


「あぁっ! もう分かった! 勝手に着いて来て勝手に後悔しろっ!!」


 そうしてまた、俺はズンズンと北へ向かう。

 早足で歩く俺の横に、アシェイラが駆け寄って来る。

 彼女は微笑みながらこちらを覗い、そして俺の頭を撫でた。

 柔らかな手の感触が、なんとも気恥ずかしくて俺は叫んだ。


「子供か俺は!」

「はい」


 とはいえ彼等をどうするかは、まだ何も決まっていない。

 食料、住居、生活。

 その全てを与えるなど、到底不可能に思える。

 俺は強いとはいえ、身分は何も無い。

 ただの流浪人のようなものなのだから。

 例えば俺が富豪や国王だったなら、それも可能なのだろうが。


 ……。


 国王か。


 ……。


 再度振り返ってみる。

 そこには何も疑わず、真っ直ぐに進んでくる人の群れ。

 誰もが俺を信頼し、共に未来を目指している。

 そんな眼差しだ。


 それと同じ目をした人間。

 隣を歩くアシェイラに、俺は聞いてみる。


「なぁ」

「はい」

「作れると思うか?」

「何をですか?」

「国」


 聞いておいてなんだが、俺はアシェイラが笑い出すかと思っていた。

 何を言っているんですかと。

 やはりリク様はまだ子供ですねと。

 しかし彼女は笑いも驚きもせず、ただ笑顔で答える。


「作れますよ。リク様なら」


 と。


 残念ながら、俺はおだてられるのが得意だ。

 褒められて伸びるタイプでもある。

 そして、すぐ調子に乗る男だ。

 さすがである。


「じゃあ作るか」

「良いお考えかと思います」

「ではさっそく今夜俺のベッドに来るが良い」

「……国のことでは?」

「子供のことだろう?」


 今までであれば、即座に否定していたアシェイラ。

 だが今回は様子が違った。

 少し考えこみ、意外な答えを返してくる。


「私に王妃は似合わないかと。

 役職をいただけるのでしたら、親衛隊などが良いですね」

「弱いのにか?」


 クククッと笑いながらからかってやるが、彼女は勘違いをしている。

 国を作ると言ったな?

 だが国王が俺だとは一言も言っていないのだ。

 そもそもそんなお堅いことを、俺がやりたい筈も無い。

 肩書きなどなくとも、常に王であり、常に最強なのだから。


「決めたぞアシェイラ」


 隣の彼女は、その腕前を否定されて少し憮然としていた。

 だが弱くても構わないだろう?


「アシェイリスでどうだ?」


 自分の名前が含まれた響きに、アシェイラが目を見開いた。


「子供……の名前ですか?」

「お前が治める国の名前に決まってるだろ? アシェイラ女王陛下」


 かくして俺達は北へ向かう。

 二千人の国民とともに。


 **********   3章 ロンゴ帝国の客将 完 **********


これにて3章「ロンゴ帝国の客将」編は完結となります。

幕間を挟み、次回からは4章「建国のために」編を開始する予定です。


物語も中盤。

一人では限界があると知ったリクは、前世とは違い人との繋がりを大切に歩き出しました。

そしてアシェイラや奴隷から解放された人々と、北方地域にて自分達の国を作り始めます。


北方連合同盟の内紛や、襲い来る魔人。

明かされていく真実。


無事に国を造り、自分達の居場所とすることが出来るのか。

そして、銀髪のイスリアや魔人ノルディーを倒せるのか。

引き続きお楽しみ頂けるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ