42話 新たな仲間と共に
アシェイラの胸でひとしきり泣き、落ち着いたシャフィーリルを連れて俺たちは地上へと出た。
焚き火を囲みながら星の瞬く夜空を見つめていた少女は、やがてぽつりぽつりと語りだす。
あの地下で何があったのかを。
その話を要約するとこうだ。
突然現れた魔人族の男に、シャフィーリルはあの地下洞窟へと連れて行かれた。
そこにいたのは、大量の魔物に襲われ傷つきながらも懸命に抗っていた女性。
石にされてしまったあのモン娘だ。
そして魔人族ピュルシは、シャフィーリルに命令した。
『あいつを石にしろ』と。
少女は抗った。
嫌だと首を振り、捕まれた腕を振りほどこうと必死に叫んだ。
だがモン娘は魔人族に逆らえない。
自分の意に反し、少女は石化の能力を使ってしまう。
その後、石になった身体を魔物に砕かせ、魔人族は去って行った。
残された少女は悔恨と悲しみに暮れ、そうして俺たちと出会ったということである。
時折鼻をすすり、その度にアシェイラに慰められながらも語ってくれたシャフィーリル。
今は話疲れたのか、うつらうつらとしていた。
なのでペンダントに入れてやる。
あとはペンダントの中で、あの二人がなんとかしてくれるだろう。
焚き火の中でパチパチと爆ぜる枯れ木を見つめながら、俺は今の話を思い出す。
どうしてもひとつ、腑に落ちない点があったな。
なぜピュルシは自分の手を汚さず、そんな回りくどいことをしたのか?
まさか『女子供には手をあげねぇからよォ!』なんて紳士なわけではあるまい。
ラキュアにもヴェルティにも、躊躇なく攻撃していた筈だ。
面倒だから手下にやらせるというのは、自尊心の高そうなアイツならありえる。
だが面倒でいえば、わざわざシャフィーリルを連れていくことのほうが面倒ではないか?
ふむ……。
そう考えこんで唸っていると、アシェイラが独り言のように呟いた。
「あんなに優しいモン娘もいるのですね」
優しいかどうかは分からない。
しかし少女の言葉を全て信じるなら、少なくともシャフィーリルには罪の意識がある。
俺がペンダントに入れと言った時、彼女は罰せられると思ったのだそうだ。
ペンダントが何かは分からない。
入った瞬間殺されるか、どこかに売り飛ばされるか。
そういった良く無い可能性が頭をよぎり、だがそれでもいいと少女は思った。
これは自分に科せられた罰なのだろうと。
「リク様なら大丈夫だと思いますが、なるべく優しくしてあげて下さい」
言いながら、アシェイラは頭を下げた。
なぜ彼女がシャフィーリルの為にそこまでするのかは分からないが、少女の話にどこか共感出来る部分があったのかもしれない。
「心配するな。俺は紳士だぞ?」
もちろん俺も酷い扱いをするつもりはない。
先頭で戦わせるほどの戦力には見えないし、ヴェルティより胸が大きくてもまだ子供だ。
手を出すならもう数年待ったほうがいいだろう。
幼女趣味はないからな。
先々楽しみではあるが。
「そう仰っていただけると思っておりました」
嬉しそうに目を細めるアシェイラ。
揺らめく炎が陰影を作り、幻想的な表情である。
しばらく悪くない静寂を楽しみ、夜は更けた。
あと五日もすればスジャルカに到着するだろう。
それまでには、俺もモン娘達もすっかり傷は癒えている筈だ。
前線で戦い、銀髪を殺し、ついでにグジャ軍も追い払う。
そんな大活躍を夢想し、星々に見守られて俺は眠りにつくのであった。
……。
翌日からは、ひたすら南東のスジャルカを目指す。
途中途中で、冬眠中の砂海蛇を砂の中から引きずり出して補充。
ついでにシャフィーリルにも戦わせてみた。
アシェイラは顔を顰めたが、シャフィーリル自身が「頑張ります」と言うので、それならばと見守るスタンス。
それに、俺も無理をさせるつもりはない。
少女の元となっている砂海蛇は、その巨体と大口が武器なのだ。
ならばそれらを持たないシャフィーリルが、戦闘を得意とする筈がないのである。
しかし戦えない、夜のお相手も出来ないとなれば、ただ飯喰らいの役立たずだ。
石化能力はどこかで使うこともあるかもしれないが、シャフィーリルもアシェイラもそれを良しとはしないだろうしな。
ちなみにその石化能力。
砂海蛇にそんな特徴はないのだが、どうやら父方の能力を受け継いでいるらしい。
今後出会う魔人族に石化能力持ちがいれば、そいつがシャフィーリルの実父である可能性は高いだろう。
色々と気をつけておくことにしよう。
ともあれ、シャフィーリルに強くなる努力はしてもらうし本人もその辺りを良く理解していた。
我がパーティーに従順さと賢さが加わったのである。
「フィー! そっちニャ!」
「はい!」
目の前で、小さめの砂海蛇をヴェルティが追い立てている。
その先にはシャフィーリルがおり、アシェイラから借り受けた剣を構えていた。
「えいっ!」
ぷるぷると震える手で持った剣が、大上段から振り下ろされた。
だがカキンと軽い音をたてたそれは、あえなく跳ね飛ばされる。
「無理ですリク様! 手助けしましょう!」
「ダメだ」
頑張ると言ったのはシャフィーリルだし、頑張らなければならないと思っているのもシャフィーリルだ。
ならばやらせるべきである。
だが助言くらいならしてやるべきだな。
「シャフィーリル! 足を……足か? まぁいい。足を上手く使え!」
「は、はいっ!」
またも少女に突進する砂海蛇。
砂上を素早く蛇行する魔物に、剣を拾いなおしたシャフィーリルが相対する。
間近まで砂海蛇の大口が迫った時、だが少女は剣を使わずに回避することに専念した。
それだけではない。
俺のアドバイスに従い、回避と同時に砂海蛇の首へと自分の下半身を巻きつけたのだ。
ぐるりと蛇の下半身を巻きつけてギュウギュウに締め付けながら、背中側に回り込んで後ろから剣で叩く。
突き刺せば簡単なのだが、それはまだ怖いのかもしれない。
何度も何度も非力な少女が剣の柄で叩き、ようやく砂海蛇の動きが止まった。
そこに俺が近付いていつもの儀式。
すると煙のように、スッと砂海蛇はペンダントへと吸い込まれていった。
ハァハァと肩で息をするシャフィーリルを労おうと、俺は少女に向き直る。
しかしその間にヴェルティが立ちふさがった。
なんのつもりなのかこの馬鹿猫は。
「ご主人! フィーはアタシが育てるニャ! 邪魔しないで欲しいニャ!」
お前に育てられたら胸が育たないじゃないか。
そんな心配がよぎるが、シャフィーリルは満更でもないようだ。
「シャフィーリルもそれでいいのか?」
「は、はい。ヴェル姉さんがフィーを一人前にしてくれるそうです」
ヴェル姉さん?
ギロリと猫を睨んでやると、怯みはしたものの無い胸を張ってヴェルティが
「アタシより年下で、後から入ってきたんだからアタシが姉ニャ!」
と高らかに宣言した。
よく分からないが、そういうことらしい。
自分より下に置くことで、パーティー内ヒエラルキーの最下位脱出を目論んでいる可能性もある。
なかなかに強かだ。
だが残念ながら我がパーティーは胸囲順である。
お前が最底辺から動くことはないだろう。
とはいえ、やる気になっている二人を邪魔するつもりもない。
ならば任せると伝えると、フフンとヴェルティは鼻を鳴らした。
「そ、それとご主人様」
おずおずとシャフィーリルが俺の背を呼び止める。
ご主人様か。
実に従順で素晴らしい。
「フィーのことはフィーと呼んで欲しいです……」
恐る恐る、やや上目使いのフィー。
ゆくゆくは我がパーティーのナンバー2に収まるであろう少女の頭を撫で、俺は満足気に頷く。
スー子を頭に乗せ、薄っすらと涙を浮かべながらアシェイラもうんうんと頷いている。
お前は誰目線だよ。
そんなこんなで、それから数日後。
俺たちは、スジャルカの手前まで辿り着いているのであった。




