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七ー4

「ええと、これからどうします?秘書さん」

「申し遅れました。私の事は美山と御呼びください」


彼は眼鏡をくいっと上げながら、インテリらしい雰囲気を醸し出す。


「夕食はお二人も一緒に頂きましょう!」


終恋がにこやかに、月歌達の方に微笑む。


「は、はい」


愛人をのぞく一同が何事もなく夕食を済ませ、1時間ほどチェスなどをして時間を潰した後、そろそろ寝る頃合いだと言って、当主が先に部屋へ向かった。


「ミステリー小説なら一人になった愛人さんは何者かに殺害され、食事には毒が盛られて誰かが倒れ警察を呼ぶところですね」


月歌は雨田の近くに寄り、小声で不謹慎なことを言った。


「いや愛人が乗り込んで来たり、嵐で帰れなくなったりするだけでも十分それらしい事だから……何事も起きなくてよかったよ」


若干引き気味の雨田が苦笑いを浮かべて、目線で周囲に聞かれていないかを気にする。


「秘書さん、終恋ちゃんの車椅子お願いできない?」


継子が言うと、彼は快く了承した。ここは少し滞在する用の別邸なので、本来は終恋が滅多に来ない場所だった。

階段がバリアフリーではなく、ここには男手があまりない。彼のように若い青年に白羽の矢が立つのも仕方ない。


「月歌さん。僕、弱そう?」

「そうですね」


その後、終子の車椅子を秘書が押して二階の客人用の部屋まで送って数刻で戻ってくる。


「ふふ……美山さんって力持ちなんですねぇ」


番子は頬に手を当てながら感心している。確かに眼鏡をかけていて、振る舞いから非力な頭脳タイプの印象だったが、それなりに力はあるようだ。


「事件が起きたら秘書さん犯人コースですね」

「そうだね」


なんて冗談めいた事を言っていると、どこからか女性の悲鳴が聞こえた。

おそらく終恋だろうと、すぐに二階へかけつけると、ドアの鍵はあいていて、人影が彼女を襲って揉み合ったかと思えば、窓から外へと飛び出して逃げていった。

はっとして電気をつけ、外を見渡しても、嵐による激しい雨で何も見えやしない。

危険なので終恋は違う部屋で姉や従姉と女性3人同じ部屋で固まって眠ることになった。


「人死には出ませんでしたが、事件が起きてしまいましたね……」


寝るどころではない月歌達は秘書の他には誰もいなくなったリビングで、今回の件で話合いをする。


「なぜこんな事が起きたのか……今は情報が足りなさすぎて考えてもしかたないですね」

「……まさか、あの件が漏れて、ライバルを蹴落とすために暗躍している誰かがいるとか?」

「旦那様は貴方達へ依頼を持ち掛けるまで、私にも秘匿されておられました。生前贈与の件は私が漏らしたのでなければ知られるはずはありません……まして金に目をくらませた人物があのような無茶な身体能力を持つ外部犯を手配する時間は……」


「依頼を受けて1日もないですし、現実的ではないですね」

「何であれ、嵐が収まるまで警察を呼べませんが……」


「きゃああああああ!」


また悲鳴がして、かけつけると、メイドが誰かの部屋の前で尻もちをついて怯えていた。指をさすと、ドアの隙間から、赤黒い液体が流れていた。


「ここは誰の部屋ですか?」


雨田は秘書にたずねる。秘書は一呼吸置いてから、口を開く。


「おそらく旦那様の……お部屋です」

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