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ナインテイカー  作者: キミト
第三章 『極剣』
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第十四話  想定外

「藤吾、そっち行った!」

「おう、任せ……ろっ!」


 気合一閃、回転するドリルが悪魔を貫く。

 黒々とした肉体に、のっぺりとした異形の顔。そして背に蝙蝠のような羽を持った魔の者は、呆気なくその命を散らし、魔力となって霧散した。

 悪魔達が九天島に襲撃を掛けてから、一時間。島中央に存在する九式記念公園に到着したリエラ達一行は、散発的にやってくる悪魔の迎撃に励んでいた。

 彼女達がこの場所に到着してから三十分以上は経過したが、やって来た悪魔はたったの6体のみ。おまけに大した実力も無く、これにはリエラ達も拍子抜けというのが正直な感想である。

 しかし、だからといって気を抜く事は無い。何せこの場所に居るのは自分達五人だけ。自分達が気を抜けば、それは即封印の解放に繋がりかねないのだ。


「というか、流石に予想外だったわね。まさか、警備の人間が一人も居ないなんて」

「……恐らく、市街地への援軍に向かったのでしょう。この辺りは、既に避難が完了しているようですから」


 人気の無い夜の公園を見渡して、リエラは休憩しようと魔導機を地に突き立てる。

 公園は、広く明るかった。端から端まで歩けば恐らく十数分は掛かるだろう。緑の多い敷地内の至る所で、街灯が強く光を放っている。

 そんな広い公園の中心に存在する、巨大な銅像。それが彼女達の守る封印の、核と言える部分である――らしい。

 不確かなのは、彼女等が封印の詳細までは知らされていないからだ。レストに聞いても、それだけは教えてもらえなかった。重要な機密情報を漏らす訳にはいかない、という事なのだろう。

 今はやってきた悪魔達がわき目も振らずこの場所を目指していたこと、そして銅像から奇妙な力を微かに感じることから、これが封印の核だと判断して守っているだけなのである。

 故に、五人の心の中には、少々の不安が付きまとっていた。


「本当にこれで大丈夫なのか? 俺達、全く見当違いの所を守ってる、なんて事はないよな?」

「それは、分かりません。けれど、探索魔法で調べても他に悪魔は来ていないようですし……此処が相手の目的地である事は、間違い無いと思います」

「はっ、どうだか。幾ら大半の悪魔が警察に迎撃されてるからって、流石に少なすぎだろ。此処に封印があるとか、相手がそれを狙ってるとか、そもそもそこから間違いなんじゃねぇの?」


 悪態を吐く世羅に、綾香が厳しい目を向ける。

 その情報を齎した、己が師を馬鹿にされたと思ったのだろう。突き刺さるような鋭い視線に、しかし世羅は無関心に銅像へと寄りかかる。

 明らかに荒れていた。原因が何となく分かるので、誰も何も言わなかったが。

 沈黙が場を制する。それを嫌い、破るように、藤吾が明るい声を上げた。


「い、いやー、しかし悪いなあやっち。浴衣、破いちまってさ」

「構いませんよ。そのままだと、流石に動きづらいでしょうから。服よりも、皆さんの無事が一番です」

「そう言ってもらえると助かるわ。後で何か、お詫びするから」


 言いながら、リエラは何とはなしに空を見上げる。

 そして眉を顰めた。真っ黒な空に、ぽつんと何か、白いものが見えたからだ。


(星……? いやでも、輝いている訳じゃないし。っていうか、近づいて来てる……?)

「リエラさん……?」


 空を睨む彼女に気付き、ニーラが声を掛ける。

 それを切欠に皆も気付いた。空から近づいて来る、何かに。

 しかし正体を議論するよりも早く、加速した『何か』は流星のように地に堕ちる……直前で停止。ぶわりと風を巻き起こし、皆の前に姿を見せる。


「……シスター? 何でこんな所に?」


 訝しげに呟くリエラ。

 彼女等の前に現れたのは、悪魔ではなかった。真っ白な修道服に身を包み、優しく微笑む妙齢の女性。当然、見た目は人間にしか見えない。

 だからいぶかしむ。避難命令の出された今、こんな場所に人が来るだけでもおかしいというのに、ましてそれが美しいシスターとなれば尚更だ。

 と、一同が警戒と困惑を抱く中。ニーラが素早く、とある可能性へと辿り着く。


「……真っ白な修道服を着たシスター。しかも、この状況で封印の下へ来る。……もしかして」

「っ、まさか……!?」


 皆が気付いた。聞いていた首謀者四人、その中の一人にピッタリと当て嵌まる人物が居る事に。


(でも、そんな馬鹿な。だってその四人は、ナインテイカーが止めているはずじゃあ……)


 即座に臨戦態勢を取りながらも、リエラは信じられないとばかりに唇を引き結ぶ。

 ありえない事だった。全く未知の、伏兵が此処に来るのならまだ分かる。だが既に判明していた首謀者の一人を、『あの』ナインテイカー達が見逃すなど――。


「あら。どうやら先客が居たようですね」


 今気付いた、と言わんばかりに、女性はリエラ達を見て小首を傾げた。

 そうして視線を向けられた途端、リエラ達の背を悪寒が激しくノックする。

 確信した。彼女は人間では無い。自分達にとっての、絶対的な脅威だと。


「まさか……でも……本当に?」

「? どうかしましたか。顔色が優れないようですが」


 反対側に首を傾けた女性が、一歩近づく。

 それだけで、リエラは二歩後退した。本能的に彼女から距離を取ろうとしたのだ。

 その、怯えとも取れる様を見て、女性は満足そうに小さく笑う。


「どうやら、気付かれているようですね。では、此方から名乗りましょう」


 ばさり。音を立てて、女性の背から真っ白な翼が飛び出す。


「初めまして、美味しそうな人間の皆様。私の名前はアンマリー。アンマリー・ロッテ」


 丁寧に礼をする女性。瞬間的に魔力を高め、武器を握り締めるリエラ達。

 対照的な両者は、しかしこの場では似つかわしい。


「皆様に分かりやすく伝えるなら――天使です」


 じっとりと滲む汗と共に。

 リエラはこの窮地を切り抜けるため、全力で脳を稼動させた――。


 ~~~~~~


 ――リエラ達が天使と出会う、数十分前――


 九天島上空で相対したモーゲルラッハ達とレスト達、計八名は、まず会話からその戦闘をスタートさせた。

 帽子をくいと上げ、代表するようにモーゲルラッハが口火を切る。


「いやはや。かの有名なナインテイカーが半数近くも揃うなど、これは壮観な光景ですな。しかしよろしいので? せっかく隙だらけだったのですから、素直に奇襲を掛ければよかったのでは?」


 挑発するように口角を上げる悪魔に、対抗し口を開いたのは、レスト。


「これはおかしな事を言うね。勝ちが決まっているというのに、どうして奇襲など掛ける必要があるんだい? そんな事を考えている暇があるのなら、月でも眺めていた方が余程有意義だよ」

「いやはや、これは手厳しい。そして強者らしい自信ですなぁ」


 苦笑するように、モーゲルラッハは肩を竦める。

 隣から甲高い声が上がった。


「きゃきゃきゃきゃきゃ! 言われてるぜじー様、俺達は敗者決定だってよ! もっと言い返してやらなくていいのかよ~?」

「……じしんまんまん、ふゆかいです。あとそのわらいごえも」

「いやはや、お二人とも好戦的で。しかし言い返す必要はありませんよ、全ては結果が示してくれます。此処で勝ちを確信していたところで、そんなものには何の意味もないのですから」


 軽く言うモーゲルラッハに、男がまた甲高い声を上げる。

 今度はレストが肩を竦める番だった。


「言葉の割りに、大した自信だ。目が語っているよ? 勝つのは自分達だ、と」

「そんな事は思っていませんよ。勝ちの目がある、とは思っていますがね」

「それが大した自信だと言うんだ。私達相手に僅かでも勝てると思っている。自信を通り越して驕りが過ぎると思わないかい? 練夜くん」

「……どちらでも良い。俺はただ、斬るだけだ」


 腰の刀に手を掛ける四字。

 連れない味方に、レストはまたも肩を竦める。


「残り二人も、同じような意見かな?」

「イエスだレスっちー。どんな相手でも、しゅっしゅ、殴れば同じさー、しゅっしゅっ!」

「ふははははは! 私の科学力の前には、悪魔も天使もひれ伏すのみなのだー!」


 シャドウボクシングしながら答える七海と、胸を張り白衣を羽ばたかせる西加に、レストはこれ以上の舌戦を諦めた。

 自分一人言い合っても仕方が無い。それに、相手側もまともに言い合うつもりがあるのは、モーゲルラッハ一人のようだし。

 なにやら言い合っている敵側四人。そのまとめ役である悪魔とばったり目が合い、レストはアイコンタクト。


(いい加減戦おうか)

(いやはや、そうですな。後ろの者達が爆発しない内に、そうしましょう)


 何故かぴったり息が合う。それだけ周りが面倒な存在、という事なのかもしれない。

 ともかく意見を一致させた二人は、互いに戦意を顕すとさっそく戦闘体勢へと移行する。


「さて。私の相手は君だろうが……後は、誰が誰の相手をするのかな?」

「そうですなぁ。皆さんはどうしたい――「きゃきゃきゃ! んな事どうでもいいから、とりあえずやり合おうぜー!」」

「お、この七海様とやる気かー!? 顔面が原型なくしても知らんぜー、しゅっしゅっ!」

「……うざったいです、いいかげんにしてください。ぶっころしますよ」

「ぬ、口の悪いお子ちゃまめ! 私より小さいのに、ち い さ い の に、あまり粋がるものではないぞ!」

「あらあら。皆様元気ですね」

「……これはまた、カオスですなぁ」


 自分勝手に話し出す敵味方に、モーゲルラッハは現実逃避するように煙管を取り出し火を付ける。

 口に咥えたっぷり煙を吸った後で、疲れたように白い溜息。


「仕方がないですな。では、組み合わせは流れで適当に、という事で。始めるとしましょうか」

「ああ、そうだね。さあ、場所を変えようか――」


 何時ものように、その力を高ぶらせ世界を生み出すレスト。

 対するモーゲルラッハもまた、今回は素直にその世界に呑まれ、全開の戦闘に応じる。


 そう、思えた。


「――?」


 ズブリ。直下から聞こえた音に、レストは首を傾ける。

 下がった視線。その先にある己の腹部から、真っ赤な『手』が突き出していた。

 所謂貫手の形だ。それは後ろから、己の身体を貫いていて――


「御免ね、レスっちー」

「ごほっ、ぁ、かはっ……?」


 声を出そうとし、代わりに血を吐きながら、レストは呆然と首だけで振り返る。

 そこには、菜々乃七海が居た。何時もの笑みに、少しだけ申し訳なさそうな色を足して。

 そうして理解する。己に突き刺さっている腕が、誰のものなのかを。


「君、は……」

「いやー、やっぱりさー。美味しいものには、勝てなかったよ」


 あははー、と笑う七海を。

 レストは痛みに歪んだ顔で、ただじっと見詰める事しか出来なかった。

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