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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第3章 少年期 黒鉄の左腕 編
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また例の夢を見たけど怖くありません


 いつもの夢を見ている。


 上を見上げれば雲一つない蒼い空。


 下を見下ろせば地面が見えないほどの高さを漂っているのが理解できる。


 もう何度も体験した景色。


 少し経てば未だに話したことがない二人目の『夢の人』が出てくるだろう。


 そして『憂鬱』の方は、三年前のあの時から姿が見えない。


 おそらく休むと言っていたから長い冬眠にでも入っているのか、全く出てきてくれない。


 自分の能力について、いろいろ相談したかったが気長に待つしかないようだ。


 おっと、二人目が出てきたようだ。


 現れた二人目が手を差し出してきた——これは、つい最近手を差し出してくるようになった——ので、俺もそれに答え手を出そうとする。


 その途端、俺は浮力を失い落下した。


 浮いたままのもう一人と距離が離れていく。


 『憂鬱』と違って未だに『二人目』とは接触出来ていない。


 いつになったら二人目とコミュニケーションがとれるのだろうか。


 落下がどんどん加速していき、意識が消えそうなその時、右手に暖かさを感じる。


 最近というか三年前からだが、この落下の中において俺は安心感を得ている。


 そして、俺は意識を失い――



 カッと目を開けるとリサの顔があった。


 どうやら夢でうなされていたのを心配していてくれたようだ。


 うん、相変わらず可愛いですね、言葉には出しませんけど。


 自分の右手に目をやるとリサの両手がしっかりと握られている。


 「おはよう、リサ。いつもありがとう」

 「構いませんわ。……大丈夫のようですわね」


 リサが俺の顔をジーっと見て問題ないことを確認すると両手を離した。


 三年前からリサは俺が夢でうなされているを知ると、いつの間にかこのように手を握ってくれている。


 おかげで目覚めた時の心臓のバクバクはしなくなった、ホントに感謝だな。


 「ごめん。仮眠のつもりが眠ってしまったみたいだね」


 俺はそう言いながらあたりを見渡す。


 側にはシュタイナーが伏せ状態で待機している。


 そして長く生い茂った草木に、顔を上げていけば木々に囲まれている。


 そう言えば滝小屋近くの森に来てるんだった。


 「研究や開発で最近は徹夜漬けなんですもの仕方ないですわ。それに、そろそろターゲットもいらっしゃる頃合いですし、ある意味タイミングが良かったですわね」


 ターゲット――村の自警団の依頼である魔物のことだ。


 昨日の下調べした結果、足跡からゴブリンで数が十四、五体ということが分かった。


 ゴブリン達の通るルートを予想して、先回りして待ち伏せていた。


 「じゃあ、希望通りに前衛がリサで、シュタイナーは遊撃。俺は、弓兵等のゴブリンを仕留める感じでいこうか」


 リサは腰の細剣に手を当てながら頷き、シュタイナーは小さく「ワン」と答える。


 リサが自分を鍛えたいから『前衛を!!』と激しく主張するので、このフォーメーションが最近では多い。


 ちなみに装備のほうだが、俺は自作ボウガンをメインにソードブレイカーと魔導銃、あと三年前に手に入れたあの『左腕』を装備している。あとは、睡眠香などの戦闘で使う香水が数点だ。


 『左腕』自体、未だに内部の魔導回路を解明できていないので動作出来ていないし、成長した俺でもまだ少し大きいのだが、装備するメリットの方がでかいので戦闘時はほぼ装備している。


 やはり特殊魔法金属のため防具としてかなりの高性能で、普通の剣戟で傷が付かない。しかも魔法も中級相当は防げる——上級以上の魔法は実験する機会が無いため検証できていない——ので使わないという手はない。


 リサの装備はあまり変わっていない。細剣のみである。


 シュタイナーはこの三年間で俺の腰より低いくらいの高さへ成長しており、立派な中型の成犬へとなっている。


 ただ、成長が止まったかと言うと大きくなっているような気がする……元がケルベロスだから予想がつかない。


 シュタイナー自身、ケルベロスだった頃の火球系魔法はまだ使えないが、己の牙と爪を武器に十分な戦力になってくれている。


 「リサ、大丈夫だと思うけど、いつものゴブリンだからって油断しないようにね」


 リサの「分かってますわ!!」の抗議を背中に受けつつ、俺はムチを使って木の上に登っていく。


 最近はゴブリン退治ばっかりしているせいか、この間は油断して死にかけゴブリンの反撃にあって危なかった事を思い出してくれたようだ。


 俺はこの三年間で、妖精郷にいたエルフが使っていたムチの木登りを、見よう見まね練習していたらマスターしていた。


 オベイロンさんから貰ったムチも伸縮性が抜群で、しかも品質が良かった事もムチ木登りの習得に貢献しているだろう。


 ちなみにリサは相性が悪いのかマスター出来なかった。


 木に登った俺はゴブリンの隊列を確認する。


 兵士タイプが十三に、距離を取って散会してる弓兵タイプが四……五だな、それにリーダーらしきのが一。


 ん? あのリーダーに鎖で引っ張られているのは何だ?


 ゴブリンのようだけど、他のゴブリンより二回り大きな身体に目は虚ろで口から涎を垂らし、濃い紫色の肌に腕をだらんと落とし、足取りも引きずるように歩いている。


 あれは要注意だな、気にしながら狩っていこうか。


 俺は最後尾のゴブリン兵士の頭をボウガンで狙う。


 矢は見事ゴブリンの眉間に命中し倒れ、ゴブリン達はそちらに駆けよる。


 ゴブリン達が後ろを見せたその時、俺はリサ達に手で合図して飛び出しを指示する。


 素早くゴブリン達の背後に駆けよったリサが二体、三体目となぎ払っていく。


 「うふっ、うふふっ。さあ、かかっていらっしゃい、ゴブリン。うふっ、うふふっ」


 ああ、リサは後ろ姿しか見えないがいつもの悪魔のような笑顔をしているんだろう。


 こればっかり治らないんだろうなあ。


 さて、俺も俺の仕事をするべくゴブリン弓兵達にボーガンのサイトをあわせて倒していく。


 下を見るとリサをフォローするように、シュタイナーが回り込みながらゴブリンの喉を噛み切っていく。


 ……ほぼゴブリン達を倒した頃、ゴブリンリーダーの方で異変が起こる。


 「ゴアアアアアッーー」


 突然の奇声にそちらを向くと先程の鎖に繋がれていた紫ゴブリンが悠然と立ち、ゴブリンリーダーが何かを唱えている。


 「ガッ、ガッ、ゴアアアアアッーー」


再度の奇声と供に紫ゴブリンは鎖を引きちぎり、こちらに駆けだしてくる。


 マズい、想像より敏捷だ。


 紫ゴブリンはあっという間にリサの目前に現れ、リサを体当たりで吹き飛ばす。


 リサを確認すると咄嗟にガードをしたおかげでダメージは大丈夫なようだ。


 俺は木の上から飛び降り、紫ゴブリンの前で右手に魔導銃、左手にソードブレイカーを構える。


 「リサ、こいつは俺がやらないとマズそうだ。そっちはシュタイナーと一緒にゴブリンリーダーを倒してくれ。魔法を使ってもいいけど、『氷』にしてね」


 一瞬の逡巡と供にリサは頷き、シュタイナーと一緒にゴブリンリーダーへ向かって行った。


 紫ゴブリンは、「ゴアッ」の奇声と一緒に飛びかかってくる。


 俺は身体を傾け、突進を避けつつソードブレイカーで切りつける。


 想像以上に硬い表皮に驚いた俺は、距離を取るため俺は後方へ飛ぶ。


 突進の威力が凄まじいのか木々をなぎ倒していった紫ゴブリンが、こちらへ狙いを定めた獣のように四つん這いになってゆっくりと歩いてくる。


 「まるで獣だな。パワーもスピードもゴブリンとは思えないな」


 紫ゴブリンを観察していると、いくつか気が付いたことがある。


 まず、俺のソードブレイカーがつけた傷以外にも身体の至る所で血が滲み出始めている。


 それに肩で大きく息をしている、体力の消耗が激しいようだ。


 意味が分からないが脇腹のあたりに魔法陣が浮かび上がっている。


 魔法的な身体強化なのだろうか?


 考えていてもこれ以上の解答はでないので、紫ゴブリンを倒すことに集中しよう。


 「ゴアアアアッーー」


 先程と同じように突進をしてくる紫ゴブリンに対して、俺は機動力を奪うべく両足の膝めがけて魔導銃の引き金を引く。


 「ギャイッ!!」とうなり声と供に、ぐるんと転がる紫ゴブリン。


 動けなくなったゴブリンに対して、後は止めを刺すため俺は近づいていく。


 ――としたが、突然紫ゴブリンが立ち上がった!?


 打ち抜いた両足が不自然な方向に曲がっているが、紫ゴブリンはそんな事を気にしていないかのように飛びかかってくる。


 俺はありったけの弾丸を浴びせ、最後に紫ゴブリンの横に回り込み『左腕』で顔を押さえ、顎下から脳天に向けソードブレイカーを突き上げる。


 やっとのことで動きを止めた紫ゴブリンを見下ろしながら、俺はさっきの戦闘を考える。


 紫ゴブリンに痛覚は無かったんじゃないかな?


 両足を打ち抜いても、銃弾を当てても、気にするわけでもなく突進してきたな。


 しかも理性とかが無くなって発狂したみたいだった。


 ……そうだ、リサ達の方は無事か?


 俺は紫ゴブリンの考察を一旦止め、リサ達の方に向かった。


 リサ達を見つけた時には、ちょうどゴブリンリーダーが下半身氷漬けでリサとシュタイナーの同時攻撃で倒されていたところだった。


 「お疲れ。そっちも倒せたようだね」


 俺はシュタイナーの頭を撫でながら尋ねる。


 「もちろんですわ。『そっちも』? まさか、さっきのゴブリンをもう倒したんですの? あれは普通のゴブリンではありませんわ。しかも無傷ですわね……はあ、流石ですわね」

 「あの突進力と痛覚がないような異常性は驚いたけど倒したよ」


 リサが痛覚のくだりで反応したので、銃弾を何発も放っても気にせず攻撃してきた事を話した。


 「そんな魔物は初めてですわね。しかも、脇腹に謎の魔法陣?」

 「どうだろうね、見たことが無いタイプだったから何系の術式かは解んないなぁ。とりあえず、リサも確認してみる?」


 俺達は退治した紫ゴブリンのもとに向かったが……そこにはブクブクと腐って液体化に成りかかっていた死体があった。


 「ええ? どういことだ? さっき倒したばかりなのにもう腐食していっているの!?」


 俺の驚きとは正反対に、その状態の物体に慣れていないリサは見た瞬間に吐き気を伴ったのか近くの林に飛び込んでいった。


 森で狩りをしている俺としては、動物を捌いたりしているせいか吐き気などはない。


 話を戻すが、なんでこんな短時間で腐食した?


 やっぱ何か特殊な魔術なんだろうか。


 村に帰ったら父さんやフランツさん達にゴブリン退治の報告と合わせて紫ゴブリンについて話をしておこう。


 そしてこんな感じで今回のゴブリン退治は、謎も残ったが完了した。


 俺達は、ゴブリンの死体を一カ所に集め、リサの魔法で火葬して村に帰るのであった。


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