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120 神代、刀との出会い

俺たちはジャック武具店へ向かった。


店に入ると、いつものようにエリスさんが店番をしていた。


俺は軽く頭を下げる。


「お久しぶりです、エリスさん」


「すみません。今日も装備一式を一人分、購入しに来ました」


するとエリスさんは目を輝かせた。


「あー! カズキさん!」


「本当に久しぶりだね!」


そして隣にいる神代君へ視線を向けると、店の奥へ向かって大声を張り上げた。


「あんたー!」


「英雄のカズキさんとユキノさんが、新しいお客さんを連れて来たよ!」


「早く出てこないと、英雄さんを他に取られちまうよ!」


俺は思わず頭を抱えそうになる。


英雄は本当にやめてほしい。


隣を見ると雪乃も恥ずかしそうに下を向いていた。


すると奥から慌ただしい足音が聞こえてくる。


「なんだ!?」


「武器に不具合でも出たか!?」


ジャックさんだった。


相変わらずの勢いで飛び出してくる。


俺は苦笑した。


「武器は問題なく使えていますよ」


「むしろ最高です」


そう言って腰の棍棒を持ち上げる。


するとジャックさんは満面の笑みになった。


「そうかそうか!」


「そりゃ良かった!」


雪乃も腰の小剣を抜く。


「私の小剣も、切れ味が良すぎて未だに刃こぼれ一つありませんわ」


ジャックさんは小剣を眺めながら満足そうに頷く。


「おう」


「綺麗に手入れされてるな」


「別嬪のあんたと同じで、美しい小剣だ」


雪乃は一瞬で顔を赤くし、視線を逸らしてしまった。


ジャックさんはそんな雪乃を見て豪快に笑う。


そして神代君へ視線を向けた。


「今日はこの兄ちゃんか?」


俺が頷く。


神代君は一歩前へ出た。


「ユウキといいます」


「よろしくお願いします」


ジャックさんは大きく頷く。


「おう!」


「俺はジャックだ」


「こっちは妻のエリス」


「見たところ剣使いだな?」


「剣士か?」


神代君は答える。


「武器は今、大剣を使っています」


「小剣と刀も使えます」


その瞬間。


ジャックさんとエリスさんの動きが止まった。


「……おい」


「今、刀って言ったか?」


エリスさんも目を丸くする。


「私にも刀って聞こえたよ……」


神代君は不思議そうに頷く。


「はい」


「まだ使ったことはありませんけど、使えるみたいです」


二人は顔を見合わせた。


数秒後。


ジャックさんが突然店の奥へ走り出した。


「ちょっ、待ってろ!」


そしてしばらくして戻ってくる。


両手に何かを抱えていた。


長い。


細い。


綺麗な黒塗りの鞘。


刀だった。


俺ですら思わず息を呑む。


ジャックさんは刀を神代君へ差し出した。


「あんた」


「ちょっと振ってみな」


神代君は慎重に受け取る。


そしてゆっくりと刀を抜いた。


――その瞬間。


空気が変わった。


神代君自身も驚いたような顔をしている。


まるで手に吸い付くような感覚なのだろう。


静かに構える。


上段から一振り。


続いて横薙ぎに一振り。


無駄がない。


淀みもない。


初めて持ったとは思えない動きだった。


ジャックさんが思わず息を呑む。


エリスさんも目を見開いていた。


神代君は刀を見つめながら言う。


「良いですね……」


「凄く手に馴染みます」


「振りも鋭い」


ジャックさんは深く頷いた。


「あんた、凄いな」


「鞘からの抜き方も」


「構えも」


「振り方も」


「全部様になってる」


俺たちは何が起きているのか分からず首を傾げる。


するとジャックさんが語り始めた。


「その刀はな」


「俺の先々代――つまり爺ちゃんが旅人から預かった物なんだ」


「いつか次の使い手が現れる」


「それまで預かってくれ」


そう言われたらしい。


エリスさんが続ける。


「昔、住んでいた場所を追われた時もね」


「これだけは手放さなかったんだよ」


神代君は驚いていた。


「そんな大事な物を振らせてもらってありがとうございます」


そう言って返そうとする。


だがジャックさんは首を横に振った。


「違う」


「それはあんたのもんだ」


神代君は慌てる。


「いやいや!」


「家宝なんですよね!?」


「そんな貴重な物、無理ですよ!」


しかしジャックさんは笑った。


「さっきも言っただろ」


「次の使い手が現れるまでの預かり物だ」


「使い手が現れたんだ」


「渡すのが預かった者の務めだよ」


神代君は言葉を失う。


俺はそっと口を開いた。


「縁だよ」


「ここでジャックさんと出会ったのも縁」


「ジャックさんが刀を持っていたのも縁」


「神代君が刀を扱えたのも縁だ」


「ありがたく受け取ったらどうかな」


神代君はしばらく刀を見つめていた。


やがて深く頭を下げる。


「大事に使わせてもらいます」


ジャックさんは満足そうに頷いた。


そして刀へ向かって語りかける。


「良い主人に出会えたじゃねぇか」


「大事に使ってもらえよ」


その声はどこか寂しそうだった。


エリスさんも少し涙ぐんでいる。


こうして刀は新たな持ち主の元へ渡った。


その後、神代君の防具も新調する。


動きやすさを重視し、俺たちと同じ形式の装備に決まった。


会計を済ませる際、俺は金貨十枚を差し出した。


しかしジャックさんたちは頑なに受け取ろうとしない。


そこで雪乃が口を開く。


「これから先も戦いは続きそうです」


「そのためには、私たちには高性能な武器が必要になります」


「研究費、開発費だと思って受け取ってください」


二人は顔を見合わせた。


そして渋々受け取る。


だがエリスさんが言った。


「もうこれで最後だよ」


「これ以上は受け取れない」


「ただでさえ、あんたたちのお陰で大儲けしてるんだからね」


俺は苦笑するしかなかった。


神代君へ説明すると、


「じゃあ俺も宣伝やります!」


「ジャック武具店のイメージキャラですね!」


と目を輝かせる。


確かにそうかもしれない。


俺は思わず笑った。


こうして俺たちはジャック武具店を後にした。


次の目的地――


冒険者ギルドへ向かうために。


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