Sheet5:存在しない1日(エピローグ)
「エクセルのバグ?」アキラが問いただした。
「うん、エクセルにはうるう年じゃない1900年に2月29日が存在します。中村さん、その創業者の二人は二月生まれと三月生まれですよね?」エルは確信を込めて尋ねた。
「はい、おっしゃる通りです。2月28日と3月7日。確かにその年はうるう年じゃない。これを見てください」中村はスマホで明治33年のカレンダーが載っているサイトを見せた。2月29日は無かった。
「つまり、存在しない2月29日をまたいでカウントしてるからそれ以前の曜日がズレるって事か」薔薇筆が納得した。
「そんなバグがエクセルにあるなんて…直さないのかな」育美が言った。
「バグだけど、バグじゃなかった」エルが言う。
「何だそれ?となりのトトロのサツキとメイか『夢だけど夢じゃなかった』みたいな」アキラが冗談めかして言う。
スマホで検索していた薔薇筆がエルの発言の補足をした。
「このバグ…というか間違いは、分かっててあえてそうしたみたいですね。元々はエクセル以前に主流だったソフト"Lotus 1-2-3"がやらかしたミスだったんですが、そっちとの互換性を優先したらしいです」
「ふーん、何かやるせない話ですね。会社でいえば間違った上司の意見に逆らえない部下みたいというか、長いものには巻かれろというか…」会社勤めの杉田が我が事のように呟いた。
「ということで、これは本当にレアケース。このバグを回避するマクロを作れなくもないけど、要ります?」エルは中村に尋ねる。
「いえ、どういう時に起きるか分かったのでこのままで大丈夫です。これ以上お手を煩わせるのも忍びないですし」中村は遠慮気味に答えた。
「まぁ、そうだよなぁ。1900年生まれってもう存命の人は居ないだろうし。あ、でも百歳超えのお婆さんならそこそこいるのか」アキラの何気ない発言に、薔薇筆と育美の視線がエルへ向き、そのまま固まった。
「えーっと、アキラさん」普段呼び捨てで言い合ってるエルがさん付けで呼び掛ける。
「誰がお婆さんですって?」
言われて初めて気が付くアキラ。
「あ、いや、エルの事じゃない!それにその頃はこっちに居なかったんだから、こっちのカウントで何歳とか分かんないだろ?」慌てるアキラ。
「あーあ、長生きなんてするもんじゃないのう。ケホケホ」腰の曲がった老婆になりきるエル。
「いやあ、悪かった。エルは全然お婆さんじゃないよ!いつまでも若いよ、永遠の美魔女だよ!」必死でフォローするアキラ。
腰を曲げたままの格好で頭からアキラにぶつかっていくエル。照れ隠しなのが赤い耳から見て取れる。
肩を抱くアキラ。
「あーっ、もう!」
二人のカプ推しな育美は目の前で繰り広げられるイチャイチャに悶絶した。
了




