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ティアードロップス  作者:
序章
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プロローグ

これは物語が始まる序章

夜と朝の狭間は、誰のものでもない。


空はなお群青に沈みながら、その果てには淡い白が静かに滲んでいた。

闇は去りきらず、光もまだ世界に触れようとはしない。

人はこの刻を――彼者誰(かわたれ)と呼ぶ。


彼なのか。


誰なのか。


人か。


神か。


その境界が最も曖昧になる、夜明け前のひととき。



神々は滅んだ。


空を巡り、大地を治め、世界の理を司っていた者たちは、互いに刃を交え、その果てに一柱として残らなかった。


後に人は、その最後の戦いを神々の黄昏と呼ぶ。


世界が終わることを悟った最後の神は、人間たちを前に静かに言ったという。


――生きよ。


その言葉とともに、人へ一つの術を遺した。


錬金術。


火を灯し、水を生み、石を鉄へと変える。

神の奇跡には遠く及ばぬ、小さな世界の書き換え。


人が滅びゆく世界を生き抜くための、最後の贈り物。


神は術を託し、その姿を消した。


こうして神の時代は終わり、人の時代が始まった。



神々が去ったあとも、世界はなお在り続けた。

世界の中心には、一本の巨木があった。


世界樹


天を支え、海を抱き、大地へ根を張る世界の礎。

人が生まれるよりも遥か昔から立ち続け、神々さえ見上げたという大樹。


その存在だけが、崩れゆく世界を辛うじて繋ぎ止めていた。


しかし。


永遠と思われたその命にも、終わりは訪れる。


枝は枯れ。


葉は色を失い。


幹には深い裂け目が走る。


世界樹が弱るたび、世界もまた少しずつ姿を変えていく。


海は荒れ。


大地は裂け。


空は歪み。


四季はその巡りを忘れ始めた。


誰も口にはしなかった。


だが、誰もが薄々気づいていた。


世界は静かに、確かに終焉へ向かっているのだと。



それでも人は生きていた。


朝を迎え、


畑を耕し、


子を育て、


笑い、泣き、誰かを愛した。


錬金術は奇跡ではない。


暮らしを支える知恵であり、


命を繋ぐ術だった。


人は今日を生きるために火を灯し、


明日を信じるために水を湧かせる。


それだけで十分だった。


少なくとも、この時までは。



終わりは、鐘を鳴らして訪れるものではない。


夜が音もなく朝へ移ろうように。


潮が誰にも気づかれぬまま満ちていくように。


世界は静かに、その最期へ歩み続けていた。


夜明けは近い。


彼者誰(かわたれ)の刻は終わりを告げる。


これは、神々が去った世界で。


一人の人間が、滅びゆく世界と向き合う物語の始まりである。

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