ファクターズ・オンライン ~ゲーム初心者の俺がなぜか優遇。そんな中でも日は昇る
ジャンル別週間ランキング。日間ランキング1位を獲得した作品の第二弾です!
このゲームはどこかおかしい。
至って凡人で、戦闘スキルもない俺。
だけど、周囲にいる奴らが弱すぎる。
「タクト! ヘルプ!」
桃色髪の少女サクラが俺を呼ぶ。
パーティは合計4人。
基本話すのは俺とサクラだけなので、他除外。
今いるのは原っぱが広がる場所。
ここは最近話題になっている、『ファクターズ・オンライン』の世界。
その中には、メモリアというアイテムが存在する。
メモリアは、持ち主の思考を具現化したもの。
俺のパートナーAIが、そう教えてくれた。
そして、俺の願いが『強くなりたい』。
そのせいか、不自然に戦闘能力が上昇している。
パートナーAIも理由がわからないらしい。
「ねぇ! タクト! 早く早く!」
「お、おう……」
強くなりたいと願ったのに、俺の戦闘能力が上昇する。
他プレイヤーから見れば、至って正常らしいが……。
「そういえば、最近レジェンドスキル使いが現れたんだってね……」
「レジェンドスキル? なにそれ?」
「どうも、10歳の少女が発動したらしいよ? グランドウルフを一掃だって」
「ぐ、ふら……」
驚きすぎて、しっかり発音できなかった。
10歳の少女がレジェンドスキルを使用?
そんなの、異次元すぎる。
「サクラ。その少女の名前は?」
「ライトって名前らしい。パートナーAIはアイって名前。昨日始めたばかりみたい」
「しょ、初日でレジェンドスキル!?」
「ほんと馬鹿げてるよね。そもそもレジェンドスキルって、発動条件が不透明すぎる。攻略掲示板も情報屋が焦ってるみたい」
「そりゃ焦るぞ。未開拓区域をこじ開けられたもんだからな」
「それそれ!」
俺との会話では、いつもサクラは笑顔で応える。
それがいいのか悪いのか、正直言って謎でしかない。
そもそも、サクラと俺は住んでる場所が違う。
いわゆるゲー友ってやつだ。彼女のそれ以上を俺は知らない。
「そういえば、タクトの願いってどういう感じなの?」
「俺の願い? ま、まあ……、サクラを助けられるのなら、それ以上でもそれ以下でもないな……」
「そう……」
本当のことを言うと、俺はこのゲームに興味を持っただけ。
興味を持った分、楽しめればそれでいいと思っていた。
目の前のホロスクリーンには、人数が表示されている。
これが何を表しているのかはわからない。
だけど、さっきから嫌な予感がする。
プレイヤー格差をつけるのも、なにか間違っていると思う。
このパーティの中で、俺が一番強い。
次にサクラ。彼女は戦闘経験があるようだが……。
本人が言うには、このゲームでは希望通りに動いてくれないようで。
「なんで、このゲームは玄人に優しくないのかな?」
「まあ、サクラはフルダイブ経験多いって言ってたもんな……」
「うん。これまでに色んなゲームしてきたけど、こんなハードモードのゲームは初めて。なのに、初心者のタクトはチート級だよ」
「チート級?」
「うん。きっとどこかでインフレしてるよ」
「は、はぁ……」
俺は、アルファの文字を書いてステータスを開く。
✧✧基本データ✧✧
プレイヤーネーム:タクト
レベル:8
性別:Mail
年齢:16(課金制限有)
誕生日:10月10日
✧✧ステータス✧✧
武器:未装備
防具:始まりの軽装服
HP:1500
MP:1000
ATK:500
DEF:500
INT:100
RES:100
✧✧所有スキル✧✧
該当なし
✧✧✧✧✧
「うーん。そんなに変わったところないけどなぁ~」
「そう?」
「ああ、どこもおかしいところはない」
俺はなんども繰り返し読んだ。
しかし、変なところはどこにも見当たらない。
レジェンドスキル。その存在自体が謎で、解明する余地が有り余っている。
「サクラ」
「なに?」
「いや、なんでもない……」
一度言おうとした言葉を何度も飲み込む。
変に悟られたら困る。俺だって隠したいことは多い。
それでもサクラは、吸盤でもあるかのように俺にくっつく。
彼女の身体はほんのり温かく、ゲームなのに気持ちを和ませた。
「私。このゲーム好きだよ」
「は?」
「タクトのことも好き。だから、ずっと一緒にいる」
「急になんだよ……」
「なんでもない!」
彼女が何を言いたかったのか。何を伝えたかったのか。
それがよくわからない。わからなくていいと思った。
「そろそろ行こうか」
「だな」
俺たちはフィールドをあとにする。
ブイ字型に隊列を組み、広大な世界を歩く。
ふと、俺たちの近くを少女が通り過ぎた。
ひときわオーラが違う。そこらへんにいるような人じゃない。
「ねぇアイ。どんなクエストするの?」
「ん?」
「うんうん。それいいかも。だけど……」
俺よりも背の低い少女。自信なさげな顔はまだ幼い。
「タクト。あれって。ライトじゃない?」
「ライト?」
「あの。私のこと呼びました?」
「『!?』」
小柄な少女から、そよ風が発せられる。その優しい声色が肌を撫でる。
振り向けば怯え交じりの笑顔が見えた。
サクラの余計な一言。このタイミングで『ライトじゃない?』はマズい。
萎縮した身体は震えている。
―――――
「サクラ。確かだけど。そのライトってやつは人が苦手なんだよな?」
「うん。そうみたい。まあ、会うのはレアだし、私は声かけるけどね!」
―――――
「サクラ。やめとけって」
「でも……」
サクラは俺の顔を見ると、気まずそうに顔をすぼめた。どうやら自覚はあるらしい。
事前に話していたからこそ、変に思われるのは回避できたけど。
「えーと。桃色髪のお姉さんがサクラさん?」
「え、あ、はい……。先ほどは……」
「だ、大丈夫……です……」
ライトは、小走りで走り去っていく。その背中は、少し丸まっていた。
彼女がレジェンドスキルを使ったなんてありえない。
だけど、その空気感の引きつりは確かにあった。
ライト。彼女はものすごく強い。心の弱さを理解している。
そんな気がした。
「タクト。さっきの……」
「嫌われたな……」
「そうだよね……」
落ち込むサクラ。彼女の頬には、涙が伝っていた。
まるで、『せっかくの機会だったのに』とでも言っているような。
俺は慰めようか悩んだが、少し様子を見ることにした。
このパーティは、あくまで応急処置。残るも抜けるも自分の意思だ。
「よし。大丈夫」
「立ち直ったな」
「うん。高望みはいけないよね」
「その通りだな。俺もあのライトってやつに認められるよう頑張らないと!」
「私も!」
俺たちは街へ向かった。そこで新しいクエストを受注する。
レジェンドスキル。使ってみたい気持ちはある。
だけど謎は多い。俺でも使えるのか?
クエストを受注したあと、俺たちは明日の攻略に向けてログアウトした。
このパーティでは、事前受注で情報収集をしてから攻略をする。
それだけで、攻略のペースは早くなるというサクラの提案だ。
「今日もいろいろあったなぁ……」
「タクト様。現在時刻は午前8時です」
俺のスマホがしゃべる。そこに入っているのは、俺のアシスタントAI〝塁〟。
「ありがと。塁」
「ありがたきお言葉。感謝いたします」
彼に任せれば、時間管理も確実。俺が小さい時から一緒のいる。
朝に弱い俺。最近は学校にも行けてない。
完全に昼夜逆転している。そんなことはどうでもいい。
「塁。ファクターズ・オンラインでのライトってやつを検索してくれないか?」
「承知しました。検索モードへ移行します」
その間に俺は朝食の準備をする。お母さんが作ってくれたサンドイッチ。
そこに俺は淹れたてのコーヒーを用意する。
ミルクがテーブルに置かれていたが無視。するわけにはいかなかった。
俺はミルクをコーヒーに入れる。今日も学校か……。
親に願って入れてもらった通信制の高校。
俺も俺で人見知りなんだよな……。
ライトの気持ちはわかる。だけどあそこまで極度ではない。
「さて、塁。検索は終わったか?」
「はい。マスター」
「じゃあ結果を報告してくれ」
「かしこまりました」
✧✧基本データ✧✧
プレイヤーネーム:ライト
レベル:3
性別:Female
年齢:10歳(課金制限有)
誕生日:2032年8月5日
✧✧ステータス✧✧
武器:未装備
防具:始まりの軽装服
HP:1000
MP:1000
ATK:100
DEF:100
INT:100
RES:100
✧✧所有スキル✧✧
該当なし
✧✧✧✧✧✧✧
「ふむ……」
レベルが3ということは、まだ始めたてってことか……。
「塁。さらに詳細を提示できるか?」
「試みましたが、これ以上の情報はありませんでした。申し訳ございません」
「そうか……」
もうすぐで授業が始まる。皿とカップを洗い、部屋へ戻った。
昨夜から開きっぱなしのパソコン。
ディスプレイとキーボードの接続部が熱い。
冷却をしたいけど結露は避けたい。
まだ肌寒い空間。だけど、暖房は苦手。
部屋の温度は18度。冬場なのを忘れていた。
何故こんなにもパソコンが熱くなっているのだろう。
「推測します。長時間の起動。同時にゲーム内でも異常が検知されました」
「ゲーム内で検知?」
「はい。ライトとの遭遇時。彼女から不自然な周波数を感知しました。以降熱暴走が起きたとみられます」
「は?」
ライトから不自然な周波数。
それは一体どういうことなのか。
俺は塁が集めた資料を確認する。
通信時の電波の周波数。
たしかに俺がライトと出会った時間。
ほんの数秒間だけ波が高くなっていた。
そこからの低下は急だ。
彼女は一体何者なのか。
それが分からない。
パソコンならサブがある。
煌々とついている開きっぱなしのパソコンをシャットダウン。
もう一つを開いて、学校にアクセスする。
『ねぇ。ファクターズにやばい人出たって』
『それまじ?』
「もしかして、ライトってやつか?」
「『うんうん!』」
「俺会ったぞ?」
これ以上のことは言えない。
俺は授業のテキストを開く。電子工学。
将来は精密機器の開発。
塁を作ったのは――この俺だ。
「塁。ファクターズの今後を考察してくれ」
「ファクターズは今後も勢力拡大していく模様です」
「それだけか?」
「以降さらなる強敵が誕生する恐れもあります」
「俺でも攻略――」
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