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ファクターズ・オンライン

【お試し短編版】ファクターズ・オンライン 〜人嫌いの少女は世話焼きAIと共に、ゲーム世界の旅をする

作者: 八ッ坂千鶴
掲載日:2026/05/06

 私には両親がいない。


 父は覚せい剤所持で逮捕。


 そして、母は育児放棄。


 私は8歳にして孤独と向き合う。


 その後孤児院に入れられた。


 しかし、馴染めず一人で過ごす日々。

 

 私は隔離された世界で生きた。


 学校に通うのも気が向かない。


 また虐められる、嘲笑われる。


 そんな感覚がして、孤児院の一室にこもった。


 無力な自分は頼りたくてもできない。


 いつしか人嫌いになった。

 

 自分も他人すらも受け入れられず。


 非道の親に育てられた分壁を作った。


 まるでATフィールドのような。


 障壁の内側で現実世界とにらめっこ。


 孤児院にはキラキラするものがない。


 ゲームも制限。就寝と起床は定時。


 不登校になっても付き纏う時間の名の枷。


 周りに溶け込めない自分が嫌で。


 精神的にも追い込まれ。


 そして、10歳になったある日の昼下がり。

 

 自殺しようと孤児院を抜け出す。


 どこか遠くへ逃げたかった。


 自分の存在を抹消したかった。


 しかし、絶望の縁でも希望は来る。


「新作ゲーム機。フルスコープラムダ! 全神経全意識をゲームに落とし込み、遊ぶという画期的ゲーム機! 今なら5万円で一台プレゼント!」


「フルスコープラムダ?」


「おっとお嬢――」


「ヒィィィ!?」


 近寄る店のおじいちゃん。


 私はゆっくり後ずさりした。


 心臓が大太鼓を叩くように。


 そして、脳が張り裂けるくらい。


 自分が感じる恐怖。人嫌いの弊害。


「お嬢ちゃん可愛いね。そうだ、このフルスコープラムダを無料でプレゼントしよう。料金はワシが立て替えておく」


「……え?」


「ついでにこのゲームもあげよう。フルスコープラムダとともに発売された『ファクターズ・オンライン』だ」


「い。いら……」


「ほれほれ貰った貰った。早く帰らないと親が心配する」


 フルスコープラムダとソフトを貰った私。


 ゆっくり。ゆっくりと孤児院へ向かう。


 帰った時には夜だった。


 私はログインの準備をする。


 出来るだけ静かにバレないように。

 

「できた……」


 頭から被るタイプのフルスコープラムダ。


 私は最終確認をして、横になる。


「ゲームログイン!」


 コマンドを言うと、螺旋のような演出。


 そこからキャラクリエイトに入る。


 ゲームの知識は触りくらいだけどあった。


「プレイヤー名……。ライト」


 ――プレイヤー名がライトに設定されました。


「年齢は10」


 ――年齢設定が10歳に設定されました。18歳未満のため課金は保護者の承諾が必要となります。


「誕生日は2032年8月5日」


 ――誕生日が設定されました。キャラクリエイト完了時バースデー同期を開始します。


「基本設定はこんな感じ……」


 ――次に、容姿設定へ入ります。リアルシルエット、またはクリエイトアバターを選択してください。


「めんどくさいからリアルシルエットで」


 ――リアルシルエットが選択されました。


 ――初期スポーン地点への移動を開始……。


 再び私は螺旋の空間を移動する。


 少しずつ。少しずつ。ファクターズの世界へ。


「ライトさん! ライトさん!」


「だ、誰?」


 名前を呼ばれたけど、誰の声かわからない。


「ライトさん! こっちです!」


 瞬間。私の顔に刺激が走る。


 ペシッ! 私は自分の頬を叩いた。


「ちょっと! 痛いじゃないですか!」


「だだ、だって……」


「仕方ありませんね。ではこうしましょう!」


 私の目の前でフラッシュする。


 思わず瞼を閉じ、正面から背けた。


 眼前に現れたのは、ブルーの髪をした少女。


 身体は私と同じくらいの145センチほど。


「エッヘン! あたしはナビゲーションピクシーのアイ。こうでもしないと見えないなんて、ライトさんは見る目がないね!」


「み、みみ……見る……?」


「もー。ライトさんったら、これからパートナーになるんだからね! ビシッとして!」


 そう言われても……。


 私はアイを見て受け入れようと試みた。 


 だけど、思考が拒絶する。


「ごめん……! 私には……」


「えー! 説明しないとわからないよ!」


「そそ、それ……でも……」


 私の足がガクガク震える。


 耐えたい。この状況に耐えたい。


 きっとこのアイも、私のこと……。


 いずれ見捨てる。恐喝してくる。


 気づいた時には走り出していた。


「ちょっと! ちょっと待ってよぉ!」


 アイがピクシーの姿で私の隣に並ぶ。


 ものすごく煩わしい。しつこい。


「着いて来ないで!」


「ダメです! それよりなんであたしから逃げるの! あたしは、あなたのためだけに生まれたナビゲーションピクシー。運営の権限で紐付けもされてるの!」


「う、運営の……権限……?」


 運営が私とアイを巡り合わせた?


 ありえない。


 こんな押し付ける妖精が私と紐付け……。


「ライトさんの過去は知らないけど、あたしとあなたは切っても切り離せない仲なの! わかった? はぁ……。10歳だからイマイチピンと来ないの――」


「わ、わかった……! わかったから! でも……」


「でも?」


「私を、絶対裏切らないで……」


 私はこの時、自分の思いを言語化した。


 アイはこくりと頷き、実体化する。


 ちょうど彼女の顔が正面に来た。


「じゃあ、あたしはライトさんの隣にいるね」


「ほんと?」


「うん! ずっと。ずぅーっと!」


 この時アイと仲良くなりたいと思った。


 私たちは武具屋に向かう。


 最初の街〝ファースエリア〟。


 所持金は5000ラムダ。


「ライトさん。まずはステータス確認でしょ」


「ステータス?」


「そう。えーとこういう形に……」


 空中にaに似た形を描くアイ。


「その文字は?」


「アルファっていう文字だよ。ほらやってみて!」


「う、うん……」


 アイの動きを真似してステータスを開く。


 ✧✧基本データ✧✧


 プレイヤーネーム:ライト

 レベル:1

 性別:Female

 年齢:10歳(課金制限有)

 誕生日:2032年8月5日

 

 ✧✧ステータス✧✧


 武器:未装備

 防具:始まりの軽装服

 HP:1000

 MP:1000 

 ATK:100

 DEF:100

 INT:100

 RES:100


 ✧✧所有スキル✧✧


 該当なし


 ✧✧✧✧✧✧✧


「すごい……」


「じゃ、武器買ってみようか!」


「けど……。無理……」


「じゃあ素手で戦うの?」


 素手……。ふと親からの虐待を思い出す。


 母親は酒癖が酷く毎晩飲んでいた。


 その度に、私を殴った。素手なんて……。


「仕方ない。店員さん。この子でも扱える長剣と短剣出して」


「あいよ!」


「ちょっとアイ!?」


 武器屋の木箱から出てくる2本の剣。


 ひとつは長い剣。もうひとつは短い剣。


「ふむ。使うのはそちらの子かね?」


 ギロリと店長が私を見る。


 怖い。その顔は威圧感があった。


「はい!」


 アイが元気よく返事をする。


「あたしアイっていうの。この子がライトさんね。今日始めたばかりなんだ。武器といえばオーソドックスな長剣や短剣だよねー」


「そ、そうだな……。ではおまけして、このメモリアも渡しておこう。彼女には不思議な力があるように見えるからな」


「ありがと!」


 そのタイミングで武器が消滅した。


 途端背中が重くなる。振り向けば長剣。


 自動装備したらしい。必要ないのに……。


 それよりも気になったのはメモリア。


 アイに実体化の仕方を教わり使用。


 水晶のように色を持たない宝石。


「空っぽ……」


「空っぽ? ライトさん。どういうこと?」


「アイ。メモリアについて、説明して」


「う、うん……」


 アイは私の手からメモリアを手に取る。


「メモリアっていうのは、所有者の思いや願いが結晶化したもの。所有者が変わると、例外が起こらない限り効果が上書きされる」


 そして、アイは結晶を眺めた。


「ほんとだ。何も効果がない」


「効果がない?」


「ナビゲーションピクシーは例外で上書き対象じゃない。だから、これはライトさんのもの。だけど、何も効果がない……」


 返されるとバッグに入れた。


 私たちは、最初のクエストを受注するため歩く。


「お嬢。おいお嬢!」


 若い男性の声。私は思わず振り向いた。


「やっと気付いてくれた。一緒にパーティ組まないか?」


「無理……です……」


「あーー、なんで俺はモテないんだ! フラれっぱなしで、クエストすら攻略できやしねぇ……」


「クエスト?」


「おうよ。グランドウルフを20匹倒すってやつなんだけどよ。これが厄介なんだ」


 ✧✧パーティ申請が来ました✧✧


「わかった。本当は嫌だけど。その代わり戦い方教えて」


「あいよ!」


 戦い方わからないと、ゲームじゃない。


 男性はレグスという名前だった。


「ライト。なんであたしはダメで彼は大丈夫なの?」


「え?」


「だって、あたしと会った時大逃げしてたじゃん。なんで逃げないの?」


「なんか、波長が似てたから。拒絶。しなかった……から?」


「あなたの基準がわからないんだけど」


「ごめん……」


 私とアイが話している間もレグスは無言。


 そうしている間に最初の平原へ来た。


「嬢ちゃん。あの黒いオオカミがグランドウルフだ。武器を持ってくれ」


「はい」


 私は長剣を握った。片手で持つには重い。


 平原は広く、草が揺れていた。


 空は星空が広がっていて、無数に輝く。


 そんな世界に住んでみたい。


 心が洗われる気がした。


「嬢ちゃん! 一匹行ったぞ!」


「は、はい!」


 私は剣を大きく振った。


 だけど、重くて空振りの連続。


 こんな世界。理想だけど程遠い。


「ライトさん! モーション補正いれる?」


「い、いらない!」


「本当に大丈夫?」


「大丈夫! うっ!?」


 グランドウルフの牙が腕に刺さる。


 噛み付かれた。だけど、体力はまだある。


 このままでは……。


「お嬢! 助けてくれ……!」


 その声を聞きレグスの方を見る。


 レグスはグランドウルフに包囲されていた。


「なんで……。なんで……」


 私は仲間を失うことを嫌った。


 両親を失った私。居場所を失った私。


 どれも他人のせいで、被害者。


 加害者にされるのが怖い。


 仲間は被害者。私は加害者。


 思考は巡る。思考が廻る。


「ライト?」


 誰かが私の名前を呼んだ。


 長剣が軽くなる。足が軽くなる。


 瞬間。実体化させたままのメモリアが光った。


 視界の中央に浮かぶそれは、とてつもなく眩い。


 ――攻撃力上昇を実行しますか? 実行した場合、攻撃力が上昇し以降能力は変化しません。


実行(アクティベート)……」


 ――攻撃力上昇を実行します。


 身体が熱くなる。意識が分裂する感覚。


 足は動いていた。一閃。また一閃……。


「グゥゥ……」


 鳴り響く絶命の音色。


「ここからが本番。レジェンドスキルアクティベート!」


「れ、レジェンドスキル!? ライト、それいつ覚えたの!」


 わからない。脳内に浮かぶ言葉。


「サウザンドスラッシュラッシュ!」


 パリン。霧散した合図が無限に反響する。


 直後、ずんと身体が重くなった。


 さっきのことは、大半が消えていた。


「お嬢。お前は一体……」


「ライト、何者なの……」


「わからない。だけど、聞こえた。私を呼ぶ声が」


 こうしてクエストをクリアした私たち。


 依頼主に報告をして、フレンド交換した。


 レグスは私にとって初めての友達。


 彼なら私は大丈夫。そんな気がした。


 その日の朝、私はアイと朝焼けを見た。


 私に生きる意味。それを探す旅。


 それが今、始まろうとしている。

読んでくださりありがとうございます

主人公ライトの本名は福槌来兎。


もし人気が出たら、連載版を公開します。


いいねは賽銭箱に大事にしまっておきます

リアクションも別の賽銭箱に入れておきます


星は1から5どれでも大丈夫です


下の評価ボタンからぽちっとしちゃってください!


最高の励みになります!


ついでにぜひブクマもお願いします!


【追記】


2026年5月7日

SF VRゲームにて日間1位を獲得しました


ありがとうございます!!!!


5月9日

SF VRゲームにて週間1位を獲得しました


皆様ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ゲームに入り込む系のやつはまだ読んだことがありませんでしたが、ステータスの開き方などの説明もテンポが良く、すんなりと入り込むことができました。 無事グランドウルフが倒せたし、お友だちも増えて良かったで…
短編にしてはボリュームありましたが、 ゲーム世界を1から丁寧に説明してて良かったです。 こうなると連載版を期待したいとこですが、 そこは作者様のご判断に任せます。
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