【お試し短編版】ファクターズ・オンライン 〜人嫌いの少女は世話焼きAIと共に、ゲーム世界の旅をする
私には両親がいない。
父は覚せい剤所持で逮捕。
そして、母は育児放棄。
私は8歳にして孤独と向き合う。
その後孤児院に入れられた。
しかし、馴染めず一人で過ごす日々。
私は隔離された世界で生きた。
学校に通うのも気が向かない。
また虐められる、嘲笑われる。
そんな感覚がして、孤児院の一室にこもった。
無力な自分は頼りたくてもできない。
いつしか人嫌いになった。
自分も他人すらも受け入れられず。
非道の親に育てられた分壁を作った。
まるでATフィールドのような。
障壁の内側で現実世界とにらめっこ。
孤児院にはキラキラするものがない。
ゲームも制限。就寝と起床は定時。
不登校になっても付き纏う時間の名の枷。
周りに溶け込めない自分が嫌で。
精神的にも追い込まれ。
そして、10歳になったある日の昼下がり。
自殺しようと孤児院を抜け出す。
どこか遠くへ逃げたかった。
自分の存在を抹消したかった。
しかし、絶望の縁でも希望は来る。
「新作ゲーム機。フルスコープラムダ! 全神経全意識をゲームに落とし込み、遊ぶという画期的ゲーム機! 今なら5万円で一台プレゼント!」
「フルスコープラムダ?」
「おっとお嬢――」
「ヒィィィ!?」
近寄る店のおじいちゃん。
私はゆっくり後ずさりした。
心臓が大太鼓を叩くように。
そして、脳が張り裂けるくらい。
自分が感じる恐怖。人嫌いの弊害。
「お嬢ちゃん可愛いね。そうだ、このフルスコープラムダを無料でプレゼントしよう。料金はワシが立て替えておく」
「……え?」
「ついでにこのゲームもあげよう。フルスコープラムダとともに発売された『ファクターズ・オンライン』だ」
「い。いら……」
「ほれほれ貰った貰った。早く帰らないと親が心配する」
フルスコープラムダとソフトを貰った私。
ゆっくり。ゆっくりと孤児院へ向かう。
帰った時には夜だった。
私はログインの準備をする。
出来るだけ静かにバレないように。
「できた……」
頭から被るタイプのフルスコープラムダ。
私は最終確認をして、横になる。
「ゲームログイン!」
コマンドを言うと、螺旋のような演出。
そこからキャラクリエイトに入る。
ゲームの知識は触りくらいだけどあった。
「プレイヤー名……。ライト」
――プレイヤー名がライトに設定されました。
「年齢は10」
――年齢設定が10歳に設定されました。18歳未満のため課金は保護者の承諾が必要となります。
「誕生日は2032年8月5日」
――誕生日が設定されました。キャラクリエイト完了時バースデー同期を開始します。
「基本設定はこんな感じ……」
――次に、容姿設定へ入ります。リアルシルエット、またはクリエイトアバターを選択してください。
「めんどくさいからリアルシルエットで」
――リアルシルエットが選択されました。
――初期スポーン地点への移動を開始……。
再び私は螺旋の空間を移動する。
少しずつ。少しずつ。ファクターズの世界へ。
「ライトさん! ライトさん!」
「だ、誰?」
名前を呼ばれたけど、誰の声かわからない。
「ライトさん! こっちです!」
瞬間。私の顔に刺激が走る。
ペシッ! 私は自分の頬を叩いた。
「ちょっと! 痛いじゃないですか!」
「だだ、だって……」
「仕方ありませんね。ではこうしましょう!」
私の目の前でフラッシュする。
思わず瞼を閉じ、正面から背けた。
眼前に現れたのは、ブルーの髪をした少女。
身体は私と同じくらいの145センチほど。
「エッヘン! あたしはナビゲーションピクシーのアイ。こうでもしないと見えないなんて、ライトさんは見る目がないね!」
「み、みみ……見る……?」
「もー。ライトさんったら、これからパートナーになるんだからね! ビシッとして!」
そう言われても……。
私はアイを見て受け入れようと試みた。
だけど、思考が拒絶する。
「ごめん……! 私には……」
「えー! 説明しないとわからないよ!」
「そそ、それ……でも……」
私の足がガクガク震える。
耐えたい。この状況に耐えたい。
きっとこのアイも、私のこと……。
いずれ見捨てる。恐喝してくる。
気づいた時には走り出していた。
「ちょっと! ちょっと待ってよぉ!」
アイがピクシーの姿で私の隣に並ぶ。
ものすごく煩わしい。しつこい。
「着いて来ないで!」
「ダメです! それよりなんであたしから逃げるの! あたしは、あなたのためだけに生まれたナビゲーションピクシー。運営の権限で紐付けもされてるの!」
「う、運営の……権限……?」
運営が私とアイを巡り合わせた?
ありえない。
こんな押し付ける妖精が私と紐付け……。
「ライトさんの過去は知らないけど、あたしとあなたは切っても切り離せない仲なの! わかった? はぁ……。10歳だからイマイチピンと来ないの――」
「わ、わかった……! わかったから! でも……」
「でも?」
「私を、絶対裏切らないで……」
私はこの時、自分の思いを言語化した。
アイはこくりと頷き、実体化する。
ちょうど彼女の顔が正面に来た。
「じゃあ、あたしはライトさんの隣にいるね」
「ほんと?」
「うん! ずっと。ずぅーっと!」
この時アイと仲良くなりたいと思った。
私たちは武具屋に向かう。
最初の街〝ファースエリア〟。
所持金は5000ラムダ。
「ライトさん。まずはステータス確認でしょ」
「ステータス?」
「そう。えーとこういう形に……」
空中にaに似た形を描くアイ。
「その文字は?」
「アルファっていう文字だよ。ほらやってみて!」
「う、うん……」
アイの動きを真似してステータスを開く。
✧✧基本データ✧✧
プレイヤーネーム:ライト
レベル:1
性別:Female
年齢:10歳(課金制限有)
誕生日:2032年8月5日
✧✧ステータス✧✧
武器:未装備
防具:始まりの軽装服
HP:1000
MP:1000
ATK:100
DEF:100
INT:100
RES:100
✧✧所有スキル✧✧
該当なし
✧✧✧✧✧✧✧
「すごい……」
「じゃ、武器買ってみようか!」
「けど……。無理……」
「じゃあ素手で戦うの?」
素手……。ふと親からの虐待を思い出す。
母親は酒癖が酷く毎晩飲んでいた。
その度に、私を殴った。素手なんて……。
「仕方ない。店員さん。この子でも扱える長剣と短剣出して」
「あいよ!」
「ちょっとアイ!?」
武器屋の木箱から出てくる2本の剣。
ひとつは長い剣。もうひとつは短い剣。
「ふむ。使うのはそちらの子かね?」
ギロリと店長が私を見る。
怖い。その顔は威圧感があった。
「はい!」
アイが元気よく返事をする。
「あたしアイっていうの。この子がライトさんね。今日始めたばかりなんだ。武器といえばオーソドックスな長剣や短剣だよねー」
「そ、そうだな……。ではおまけして、このメモリアも渡しておこう。彼女には不思議な力があるように見えるからな」
「ありがと!」
そのタイミングで武器が消滅した。
途端背中が重くなる。振り向けば長剣。
自動装備したらしい。必要ないのに……。
それよりも気になったのはメモリア。
アイに実体化の仕方を教わり使用。
水晶のように色を持たない宝石。
「空っぽ……」
「空っぽ? ライトさん。どういうこと?」
「アイ。メモリアについて、説明して」
「う、うん……」
アイは私の手からメモリアを手に取る。
「メモリアっていうのは、所有者の思いや願いが結晶化したもの。所有者が変わると、例外が起こらない限り効果が上書きされる」
そして、アイは結晶を眺めた。
「ほんとだ。何も効果がない」
「効果がない?」
「ナビゲーションピクシーは例外で上書き対象じゃない。だから、これはライトさんのもの。だけど、何も効果がない……」
返されるとバッグに入れた。
私たちは、最初のクエストを受注するため歩く。
「お嬢。おいお嬢!」
若い男性の声。私は思わず振り向いた。
「やっと気付いてくれた。一緒にパーティ組まないか?」
「無理……です……」
「あーー、なんで俺はモテないんだ! フラれっぱなしで、クエストすら攻略できやしねぇ……」
「クエスト?」
「おうよ。グランドウルフを20匹倒すってやつなんだけどよ。これが厄介なんだ」
✧✧パーティ申請が来ました✧✧
「わかった。本当は嫌だけど。その代わり戦い方教えて」
「あいよ!」
戦い方わからないと、ゲームじゃない。
男性はレグスという名前だった。
「ライト。なんであたしはダメで彼は大丈夫なの?」
「え?」
「だって、あたしと会った時大逃げしてたじゃん。なんで逃げないの?」
「なんか、波長が似てたから。拒絶。しなかった……から?」
「あなたの基準がわからないんだけど」
「ごめん……」
私とアイが話している間もレグスは無言。
そうしている間に最初の平原へ来た。
「嬢ちゃん。あの黒いオオカミがグランドウルフだ。武器を持ってくれ」
「はい」
私は長剣を握った。片手で持つには重い。
平原は広く、草が揺れていた。
空は星空が広がっていて、無数に輝く。
そんな世界に住んでみたい。
心が洗われる気がした。
「嬢ちゃん! 一匹行ったぞ!」
「は、はい!」
私は剣を大きく振った。
だけど、重くて空振りの連続。
こんな世界。理想だけど程遠い。
「ライトさん! モーション補正いれる?」
「い、いらない!」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫! うっ!?」
グランドウルフの牙が腕に刺さる。
噛み付かれた。だけど、体力はまだある。
このままでは……。
「お嬢! 助けてくれ……!」
その声を聞きレグスの方を見る。
レグスはグランドウルフに包囲されていた。
「なんで……。なんで……」
私は仲間を失うことを嫌った。
両親を失った私。居場所を失った私。
どれも他人のせいで、被害者。
加害者にされるのが怖い。
仲間は被害者。私は加害者。
思考は巡る。思考が廻る。
「ライト?」
誰かが私の名前を呼んだ。
長剣が軽くなる。足が軽くなる。
瞬間。実体化させたままのメモリアが光った。
視界の中央に浮かぶそれは、とてつもなく眩い。
――攻撃力上昇を実行しますか? 実行した場合、攻撃力が上昇し以降能力は変化しません。
「実行……」
――攻撃力上昇を実行します。
身体が熱くなる。意識が分裂する感覚。
足は動いていた。一閃。また一閃……。
「グゥゥ……」
鳴り響く絶命の音色。
「ここからが本番。レジェンドスキルアクティベート!」
「れ、レジェンドスキル!? ライト、それいつ覚えたの!」
わからない。脳内に浮かぶ言葉。
「サウザンドスラッシュラッシュ!」
パリン。霧散した合図が無限に反響する。
直後、ずんと身体が重くなった。
さっきのことは、大半が消えていた。
「お嬢。お前は一体……」
「ライト、何者なの……」
「わからない。だけど、聞こえた。私を呼ぶ声が」
こうしてクエストをクリアした私たち。
依頼主に報告をして、フレンド交換した。
レグスは私にとって初めての友達。
彼なら私は大丈夫。そんな気がした。
その日の朝、私はアイと朝焼けを見た。
私に生きる意味。それを探す旅。
それが今、始まろうとしている。
読んでくださりありがとうございます
主人公ライトの本名は福槌来兎。
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【追記】
2026年5月7日
SF VRゲームにて日間1位を獲得しました
ありがとうございます!!!!
5月9日
SF VRゲームにて週間1位を獲得しました
皆様ありがとうございます!




