成美と清純の初夜
「ルームメイトが訳あり女で、3年間バレるな、かよ…」
部屋に戻る道すがら、清純は小さくぼやく。
「いったいどんな繊細な事情があって女を男として卒業させるんだか…ま、俺には理解できねえ世界もあるしな」
清純は、自分が認識する世界が一筋縄ではいかない事は既に理解している。
主に中学時代青碧で過ごした3年間で。
─────否。それ以前にも、だ。
「実は女子」として紹介された阿久津成美。
顔も姿もどこからどう見ても、普通の男ならほぼ確実に二度見するレベルの美少女。
だが。
過去にそんな見た目でありながら実は男、というパターンを、清純は既に経験している。
思い出したのは、一つ下の、同じ空手道場に通っていた後輩だった。
「アイツみたいな見た目で実は男でした、なんて、現実に二人といてたまるか」
そのくらい、顔見知りの後輩はありえなかった。
異次元に可愛い顔して、そのくせ妙に肝が据わっていて、何より才能が自分以上にあった。
思い出したら悔しくてムカついてくるほどに。
だが、今はその相手はこの場にいない。多分地元の中学で普通に生活してるんだろう。
そして今はそんな事どうでもいいくらいの事案が目の前にある。
自分の部屋のドアを無造作に開けて、引っ越し作業の続きをしようと思い部屋に入ると。
「あ、おかえり、加納くん」
中から甘い声が飛んできた。
「あー、ただいま…ってお前、その恰好…」
部屋に居た成美は、寮長室で会った時の服装から既に楽な格好に着替えていた。
が。
その恰好がオーバーサイズのだぼだぼなTシャツを羽織っているだけ…にも見えて、あまりにも無防備すぎる姿にしばし固まる。
「え?楽な格好にしただけだよ?」
「下履け!足見えてるだろうが!」
「あはは、そこ気にしちゃうんだ?」
「気になるだろ普通!」
「心配してくれてるの?」
「当たり前だ!お前、男と同じ部屋にいるんだぞ!?」
これから3年間、女であること隠して生活しなきゃいけないのに、この無防備さ。
清純が頭を抱えるその横で、
「大丈夫だよ、ちゃーんと履いてるから」
と、Tシャツの裾をめくって見せたのは、裾にほとんど隠れるほど短いショートパンツだった。
「ってちょっと待て!下着じゃねえのは安心したが少しは恥じらいってもんがねえのか!」
「この部屋の中でくらい、いいでしょ?」
「…」
あっけらかんとした口調だったが。
そういえば、目の前の女は3年間性別を隠して生きていかなきゃいけないのだ。
それがどれほど気を張るか、など清純には想像もできない。
この部屋の中でくらい、とは。
自分の部屋の中で、自分の秘密を知る相手の前だけでも、素の自分でいたい、という願望の現れであっても、何ら不思議はない。
「ったく…外じゃ自重しろよ」
「うんっ」
このくらいは自分が許容してやらないとな、と思い、ふとある事に気付いた。
「お前…どっち側にするんだ?」
「へ?」
「この部屋。どっちのベッド使うんだって」
青光寮の部屋は10畳、二人部屋でドアを開けて両サイドにベッドが置かれていて、中央は薄いカーテンのようなもので仕切られる作りになっている。
「どっちでもいいよ」
「わかった」
成美より先に部屋へ入り、既に右側で荷解きを始めていたため、清純はそのまま右側のベッドを使うことにした。
(俺…こいつと3年間マジでやっていけるんだろうか…)
この短いやり取りでも、成美のあまりにもな無防備さに、清純は相当に気疲れしていた。




