聖女への不安
聖女選定が終了し、今年から2年間神殿の顔となる聖女が決まった。
聖女は神官の中でも浄化の力を持った浄化師から選ばれる。聖女というだけあって、女性の中から選ばれることになり、選ばれた者は2年間聖女という役職を賜って、地方への巡礼をすることになるのだ。
魔気が発生して困っている領主からの依頼を受けて駆け付けることがほとんどだが、何もない村や町などにも顔を出して神殿の印象を上げる効果も役目としてある。神殿の華と言ってもいい。
今年決まった聖女は噂通り侯爵家の3番目の娘であるシルフィー=エルラドに決まった。
女性浄化師の中で高い力を持っていることが評価されて選ばれたらしいが、侯爵家の出身ということを自慢するような態度が時々見られて、下位の貴族や庶民出身の浄化師に対して態度がきついということも同時に噂に上っていたが、結局は浄化の力の強さが決め手になった。
聖女が決まると、必ず補佐役の浄化師も決められるのだが、身分を気にするエルラド令嬢の補佐をしたいという浄化師が現れることがなく、大神官が頭を悩ませる事態になっているらしい。
「あたしは巡礼について行く気がないから、補佐はやらないって伝えてあるのよね」
「それっていいんですか?」
「リリちゃんの定期診察もあるし、あたしが神殿から抜けちゃうと、強い浄化師が必要な時に動ける人がいなくなっちゃうから最初から除外されているのよ」
いつもの目の診察に訪れたケインに異常がないことを伝えると、その後することもなかったので彼と一緒にお茶を飲むことになった。
出されたお茶を飲みながら、最近決まった聖女のことを話してくれる。
前にメリーナからも聖女のことを聞いていたが、彼女の話と同じように決まった聖女は身分で人を判断する人間のようだ。
「こういう時、リリちゃんが聖女ならいいのになって思っちゃうのよね」
お茶を飲もうとした手が止まる。まっすぐ前を向けば、魔力を纏わせてはっきりと視えるケインが眉を下げてこちらを見ていた。
「ケイン様」
「わかっているわよ。誰かに喋ったりもしないから。ただ、思う時があるだけ」
リリアの浄化の力は神殿には伏せられている。目のことも考えて隠すことに決めたのだ。本当に助けが必要な時に力を使うだけで、普段は目が不自由な伯爵令嬢なのだ。
「去年までの聖女様はどうだったんですか?」
「前の聖女は子爵家のご令嬢だったはず。ただ、神殿の代表として力を使うには少し弱くてね。補佐役を2人にすることで巡礼に支障が出ないようにはしたのよ」
できるだけ浄化の力が強い女性を選ぶようにはしているが、1度聖女に選ばれた者に何度も聖女をさせていてはいつも地方の巡礼で神殿にいられなくなる。巡礼も地方を知る大事なことと判断している神殿としてはたとえ力が弱くても1度は地方へ行かせたいという考えなのだ。
「他の候補者はいなかったんですか?」
浄化師の女性は他にもいるはずだ。いろいろと思うところのあるエルラド令嬢ではなく、別の聖女候補にするべきだったのではないかと考える。
「他にもいたけど、今一番力が強いのがエルラド嬢だったのよ。前の聖女は力が弱かったから、今度は強い力の聖女をと考えたみたい」
特に身分で選んでいるわけではないようだ。侯爵家が口出ししてきたから選ばれたわけでもなく、単純に神殿の都合と言っていいだろう。
「巡礼が始まれば、聖女としての自覚も出てくるかもしれませんよ」
立場や環境によって、侯爵令嬢という地位を振りかざしていられなくなることもあるだろう。そうなれば聖女としての自覚に本人も目覚めてくれるかもしれない。
「期待したいところだけど、そう上手くはいかないような気がするわ。むしろ嫌な予感の方がする」
両手で体を抱きしめるようにして震える真似をしたケインは、エルラド侯爵令嬢がどんな人物なのか知っているので、大体の予想がつくのだろう。会ったことのないリリアではわからないが、彼がここまで嫌そうにするのだから、問題は根深いかもしれない。
なんにせよ、聖女が決まったのなら巡礼の準備が始まるだろう。神殿は忙しくなるのだろうが、リリアには関係のないことだ。
ゆっくりとお茶を飲んで別の話を始める2人だったが、ケインの予想が見事に的中することになるとは、この時のリリアは思いもしなかった。




