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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
聖女選定
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メリーナの秘策

「今年の聖女はエルラド侯爵令嬢に決まったそうよ」

公爵夫人のメリーナ=ウォルスターからお茶のお誘いを受けて訪ねると、開口一番にその話題が出てきた。

「今年は聖女選定の年でしたね」

リリアは視線を合わせないように持っているカップを見つめた。カップはぼんやりとしか見えないが、目の前でお茶を飲むメリーナは魔力を纏わせているためはっきりとした姿が見えてしまっていた。油断すると視線が合ってしまう。弱視で見えていないというのがリリアの周囲の認識だ。目が合うなんておかしいと思われてしまう。

「エルラド侯爵家は3姉妹なのよ。確か、長女が伯爵令息と結婚して婿として侯爵家に入ってくれたはずよ。次女もすでに結婚して屋敷を出ているし、末娘が浄化の力を持っていたらしくて神殿で神官として勤めているのよ」

さすが公爵夫人として情報収集はお手の物のようだ。外に出ないリリアは貴族間の情報などほとんど持ち合わせていない。

「聖女に選ばれるのですから、力もさることながら、立派な方なのでしょうね」

全くわからないエルラド令嬢ではあるが、聖女に選ばれたのなら周りの評価は高かったのだろう。

「う~ん。浄化の力は強いらしいけど、少し強気な性格がトラブルになることがあるらしいわ」

「トラブルですか?」

「貴族令嬢ですからね。爵位で物を見る癖があるみたいなのよ。ほら、神官は平民から貴族まで立場が関係なくいるでしょう」

神官になれる条件は治療の力があること。治療ができれば誰でも回復士になれ、神殿で神官として働くことができる。さらに上の浄化の力を使える者たちは浄化師と呼ばれ、神官の中でも地位は上になる。だが、浄化師も力があれば平民も貴族も関係ない。表向きはみな平等ということになっているが、やはり貴族出身の浄化師は他の浄化師を下に見てしまう癖が残っているようだ。

「それは、大変ですね」

侯爵家出身ともなれば、貴族の中でも上位に入る。神殿内でも令嬢を諫められる人間は少ないだろう。

知り合いの浄化師にケイン=ラリットがいるが、彼は平民出身ではあるが浄化の力がとても強い。力で侯爵令嬢に負けるとは思わないが、爵位を盾にされて困っているのではないだろうか。今度診察に来た時にでも聞いてみよう。

「ところで、話は変わるけど」

お茶を飲んでから、メリーナが目を輝かせた。

「アルベルトとは最近はどうなの。ちゃんとデートとかしているのかしら?あの子ったら、たまに屋敷に戻ってきても旦那様と仕事の話しかしないし、夜会のことを聞いた時もダンスを踊った報告だけだったのよ。もっと色々あるでしょう」

最後はアルベルトがあまりにも話をしないための愚痴のようだ。

義姉としてアルベルトのことを心配しているのだろうが、アルベルトがあまりにも2人のことを話さないため婚約者であるリリアに話を聞くことにしたようだ。

「秋の夜会はダンスを1曲だけ踊りました。夜会でのダンスは初めてだったので緊張してしまって、無理をさせないようにアルベルト様が配慮してくれたんです」

アルベルト=ウォルスターの婚約者は目が見えない。そんな噂が貴族の間で広まっていた。実際リリアは目が見えないのではなく、はっきりと物の輪郭を捉えることができない弱視だ。完全な盲目とは違う。そこの理解が貴族たちの間では広がっていない。

だがそこは気にしていない。それよりも目が見えないような令嬢を婚約者にしたアルベルトへの同情や、公爵の弟に弱みを見せてすり寄ったと思っている貴族たちがリリアを蔑んでいることの方が問題だ。

秋の夜会ではその誤解を払拭する意味も込めて、仲睦まじくダンスを披露することにしていた。

夏の夜会で踊れなかったことへの再挑戦でもあった。

結果として効果は抜群だったと言えるだろう。

リリアがダンスを踊れるなど、他の貴族たちも思っていなかったようでまずはそこに驚いて会場がざわついたのを覚えている。踊り始めるとアルベルトがしっかりと支えてリードしてくれ、リリアが嬉しそうに踊る姿は仲の良さを表していた。

曲が終わり会場の端へと戻れば、途端に知らない貴族たちから話しかけられた。声だけで判断できないほど知らない男性ばかりだったためリリアは勢いに押されるように身を固くした。それを優しく支えてくれたアルベルトは簡単な挨拶だけをしてすぐに会場を出てくれたのが事の顛末だ。

「あれ以上夜会に参加するのは難しいと判断したアルベルト様とすぐに帰ることにしたんです」

「私も夜会には参加していたけど、リリアちゃんが踊ったところは見たわ。あの後目が見えないことを見下すようなことを言っていた令嬢が悔しそうに押し黙っている姿は見物だったわ」

ほほほと笑うメリーナが黒い笑みを浮かべているように視えたのは気のせいだと思うことにしよう。

「帰ってしまったのは残念な気もするけれど仕方がないわね。まぁこれでしばらくアルベルトとリリアちゃんのことを悪く言うような人間は出てこないでしょう」

悪い噂はしばらく聞くことはないだろう。

「それで、夜会以降にアルベルトとは会っているの?」

「この前お茶をしたくらいです」

「それだけ?」

秋の夜会が終わると冬に向けての魔物討伐の準備が始まる。第3騎士団に所属しているアルベルトは当然魔物討伐に参加する。遠征になれば数か月会えなくなる日々が続くだろう。少しでも時間を作ってリリアに会いに来ようとしているようだが、やはり隊長という立場もあって仕事が山積みのようだ。

「ゆっくり出かけている時間はあまりないようですね」

仕方ないとわかっていても寂しいと思ってしまう気持ちは拭えない。

「だったらこちらから乗り込むのも手ではあるわ」

「え?」

何かを閃いたようにメリーナがぽんと手を打った。

「ここはリリアちゃんの得意分野で攻めてみましょうか」

先ほどとは違う満面の笑みがこちらに向けられる。見えないふりをしつつ何を思いついたのか内心ドキドキしながら首を傾げるだけにしておいた。

「お手柔らかにお願いします?」

聞かない方がいいのではと思いつつ疑問形でとりあえずお願いだけはしておいた。


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