討伐と聖女
秋の夜会が終わると、本格的な冬の訪れの前に魔物討伐が始まる。魔物討伐は毎年行われる大事な行事である。
夏に領地へ戻った領主たちから魔物の発生状況の報告を受けて、秋から冬にかけて討伐が順次行われていく。午前に開催される収穫祭と日が落ちてから城で開かれる秋の夜会が終わると一気に城の中は魔物討伐へと意識が変わっていった。
アルベルトも第3騎士団の黒騎士として遠征へ行く機会が急激に増えるのだ。そうなると王都にいる時間も限られてくる。
自分の仕事机に向かって黙って報告書を眺めていたアルベルトは、これからの遠征で向かうメンバーの組み合わせに頭を働かせていた。
2組に分けて組むことになるのだが、今回の遠征の途中で、もう1つやらなければならない仕事があった。その仕事とのバランスが悩みでもある。
「そろそろ聖女選定の時期ですね」
アルベルトの悩みを汲み取ったかのようにリックスがぽつりと漏らした。
「2年に1度の選定ですよね。今年はどんな人が選ばれるんでしょうか?」
近くにいたリュックが声に反応して口を開く。
「選定が終わればすぐに巡礼の準備も始まりますよね」
「向かう場所によっては黒騎士も数名同行する可能性があるからな」
2人の会話に内心頷きながら、アルベルトはじっと書類を睨んでいた。
まさに今悩んでいたのは、その聖女に関することだった。
イズベルド王国では2年に1度、神殿の女性浄化師の中から聖女と呼ばれる存在を選び出す。聖女に選ばれた者は2年間、神殿の代表として要請をしてきた領地へ赴き浄化の力を駆使することになる。
魔物の多発で討伐要請を受ける騎士団とは違い、神殿への要請は魔気が確認された場所の浄化だ。魔気が漂っている場所に生き物が長くいると魔気を吸い込んでじわじわと侵食され、魔物化したり体に異変をきたして命を落とすことがある。植物なども同じように枯れてしまい、作物は育つことがない。
魔気がいつどこでどのように発生しているのか解明されてはおらず、魔気が確認されると神殿へ連絡がいき聖女が動くという流れになっている。
聖女は女性浄化師が選ばれるが、浄化師は戦う力を持っていない。そのため浄化に向かう時は必ず護衛として騎士が同行する。
選定を受けてから半年間は、各騎士団から派遣された騎士が同行することが決まりとなっていて、半年後には一度王都に戻ってきて聖女の指名を受けた騎士が残りの期間を専属騎士として派遣の要請を受けて同行することという流れだ。
巡礼中はずっと騎士たちに守られる聖女にとって、一緒に行動する騎士への信頼は必要不可欠だ。性格的に相性が良くない者も中にはいる。それを見極めて騎士が選ばれる。この半年間だけはそれなりに人数を削られることになる。いつも秋の討伐に重なって行われるため、別の時期にしてほしいと思うのだが、神殿の慣例でもあるため無闇に意見できないのがつらい。
黒騎士隊も聖女の護衛につくことは例外ではない。ただ、彼らは特別な騎士隊であるため、必要に応じて派遣されるだけの臨時騎士という立場になる。専属護衛騎士に選ばれることはない。
それでも周りの騎士たちとの相性も考えながら、自分達の本来の遠征での仕事も考慮しつつ人選を組まなければいけない。アルベルトの今の悩みはこれに尽きる。
「今年の聖女は侯爵家のご令嬢が最有力だって聞いたことありますよ」
リックス達の会話を聞いていたのだろう。ミライヤが思い出したように声を上げた。
「貴族の中でも侯爵位の人間が浄化師をしているのは珍しいって聞いてます。それだけ力が強かったということでしょうね。いつかは聖女に選ばれるだろうという話でしたが、どうやら今年あたりじゃないかと噂がありましたよ」
「どこからそんな情報得てきたんだよ」
「神殿に知り合いくらいいるのよ。特に女同士は噂話が大好きだから」
リュックが驚いたように感心していると、ミライヤが胸を張っていた。女性ならではの情報収集をしてきているらしい。
「確かな情報なのか?」
噂が本当なら、アルベルトは選ぶ人間を限定しなければと思った。書類から顔を上げてミライヤに声をかける。
「まだ決まったわけではありませんが、ほとんど決まりそうなことを聞きました。おそらく神殿内は侯爵令嬢を聖女と定めて調整していると思います」
「そうなると、こちらも人選を絞った方がいいな」
相手が侯爵令嬢ならば、それなりの対応ができる人間が必要になる可能性がある。
内心面倒だなと思ってしまった。
半年間の我慢だとも思いなおしておく。
ふと、浄化師の女性ということから自分の婚約者も当てはまると気が付いた。目が不自由なため周りの大人たちに守られて神殿に報告されていない浄化の力を持った存在。
彼女が聖女ならば、喜んで護衛役を買って出るなと思う。専属騎士になれないと知っていても公爵家の力でも使って専属騎士の座をもぎ取る自信がなぜかあった。
実際リリアが聖女に選ばれることはないので、すべては妄想でしかない。
変なことを考えてしまったなと思いながら苦笑し、次の書類を手に取って再び仕事に戻ったアルベルトであった。




