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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
新たな事件
58/149

救出へ

「このまま進んでくれ」

馬を走らせながら一緒に乗せているレイルが指示を出してくる。

乗馬経験がほとんどない彼は1人で馬に乗ることができなかった。道案内役としてアルベルトと一緒に乗ることになった。

振り落とされないように彼を前に乗せて後ろから支えてやると、最初嫌そうな顔でこちらを見たが、リリアを助けるため仕方がないとぶつぶつ文句を言いながら我慢することにしたようだ。走り出せば文句もどこかへ行ってしまい、ただ目指す方向を示してくれる。

今は王都全体を囲う城壁を抜けて、城の北側にある森へと向かっているところだった。

イズベルド王国は北側に山脈がある。王都の西側にも森が広がっているが、山の麓にも山脈に沿うように東西に森が広がっている。

アルベルトはレイルの指示でその森へと突き進んでいた。

「あの森は魔の森と言われていて、立ち入る人間はほとんどいない場所だぞ」

「だからこそ、誘拐して監禁するにはちょうどいい隠れ蓑になるんだろう」

森は国の管理下にあるが、2か所に駐留所があり常時騎士が配属されて定期的な巡回が行われている。

森の中は魔気がたまりやすい場所がいくつか存在している。理由までは解明されていないが、魔気の濃度が濃くなるとそこから魔物が発生し、森の中を徘徊するのだ。

そのため王都に魔物が押し寄せてくることを懸念した国は、魔気が集中する森の奥に魔術師や魔女の力を借りて結界を張り、魔物がそれ以上出てこないようにしている。それと同時に浄化師による定期的な浄化もしている。浄化されて魔気が消えても、時間が経つとまた魔気が溜まるという繰り返しではあるが、これによって王都が魔物に襲われるという危機を回避してきていたのだ。

その森にリリアが連れ去られたという。

結界が施されていない場所は普通の森と変わりがない。その中には騎士たちが一時的に休憩するための簡易的な小屋がいくつかあることも知っている。

あそこは第2騎士団の管轄になるので、詳しい場所までは把握していないが、そのどこかに監禁されている可能性が高いと考えていいだろう。休憩に使う以外は基本放置の小屋がほとんどのはずだ。

「隊長!」

声をかけられて横に視線を向けると、並走しながら馬を操っているミライヤが声を張っていた。

「このままいくと駐留所を避けて森に入ることになります。報告なしの侵入は後でいろいろと問題になる可能性が」

「公に動けていない今はこのまま森に入る。責任は俺が取るから気にするな」

森に入るためには駐留所で申請をしてから入る必要があった。だが、リリアが誘拐されたこと、森の中に連れ去られた可能性が高いこと。すべて非公表になっている上に、アルベルトは勝手に自分の部下達を動かしている。説明するのに苦労しそうな内容ばかりだ。

リリアの状態がわからない以上、できるだけ早く彼女を救出したかった。

責任問題を後々問われることになるだろうが、彼女の命と自分の立場を考えるなら前者が優先されるべきだ。

覚悟の決まっているアルベルトにミライヤは何も言わずに少し後ろにさがってついてくるだけにしたようだった。

その後ろを少し遅れてもう1頭の馬が駆けてきていた。

副隊長のリックスと、彼の背中にしがみ付くようにして浄化師ケインが追いかけてきていた。

アルベルトはリリアが誘拐されたことを知ると、すぐにリックスとミライヤを呼んで状況を説明した。

王都での貴族令嬢の誘拐ならば第2騎士団が担当するところだが、リリアはアルベルトの婚約者だ。救出されるまで黙って待っていることなどできない。

とはいえ大勢で動くこともできなかったため、副隊長と女性という理由でミライヤを同行させることにした。リリアを助けた時に女性が側にいれば彼女も安心するだろうという配慮だ。

事情を知った2人はすぐにアルベルトの指示に従ってくれた。

まずは誘拐された場所の確認をするためフラクトル伯爵家へ向かうことにした。

オルファは城でやることがあるということで残ったが、レイルが先に屋敷に戻って、襲われて怪我をした御者から話を聞いてくれていた。

「状況は?」

「いきなり馬車を横付けされて驚いている間に襲われて昏倒したらしくて詳しい状況がわからないと言っていた」

リリアが攫われた瞬間はすでに意識がなかったため、どんなふうに攫われてどこへ行ったのか見当もつかないという。

「街の目撃者数名からも話が聞けたが、馬車に2人の男が乗り込んでリリを抱えて逃げていったのを見たようだ。街の人たちも何が起きたのかよくわからないうちに馬車が走り出したから、助ける余裕なんてなかった」

多くの人が行きかう道端で突然起こったことに、周りは思考が付いていけなかったようだ。残された怪我人の御者の介抱と目の前のフラクトル家に通報するのが精いっぱいだったらしい。

話をしながらレイルは悔しそうな表情を隠そうとしなかった。

「ウォルスター公爵家のお茶会だから護衛を付けることもないと油断した」

伯爵家くらいの貴族ともなればお抱えの護衛騎士がいてもおかしくない。フラクトル家にも数名の騎士が所属しているが、ウォルスター公爵家の招待に人通りのある道を馬車移動することから護衛までは必要ないと考えたのだ。リリアは目が不自由なため誘導する人間が必要になるが、そこは公爵家の使用人が全面的に支えてくれることも知っていた。

「今悔いても仕方がないだろう。それよりもリリアの行方が重要だ」

悔いるレイルを宥めて、馬車が走り去った方向を見た。

「ここからどこに向かったのか」

「進みながら聞き込むしかないのではありませんか?」

リックスの言葉に頷くことはしなかった。

「いや、彼女の行方はわかるらしい」

「どういうことです?」

リックスとミライヤが顔を見合わせて首を傾げる。

「アルベルト」

声をかけられて振り向くと、立ち直ったらしいレイルが真剣な表情で道の先を見ていた。

「リリの魔力追跡をする。馬の移動になるだろう。意識を集中するから他のことに気が回らなくなる。落馬を避けるために一緒に馬に乗せてくれ」

「魔力の追跡?」

「あの子には常に魔石を身に付けさせている。目が不自由だから、外に出た時迷う可能性があることを考えてだ。もしもの時、その魔石の魔力を頼りに俺が探せるようにしてあるんだ」

「それは、魔術師ができる方法だと思うが」

不思議に思っているとレイルが不穏な笑みを零した。

「俺は魔術師ではないが、魔力は十分にあるんだ。魔法もある程度は使える。緊急時にだけ使うようにしているから、俺の魔法のことを知っている人間は少ない」

リリアも浄化師としての力を持っているが、兄のレイルも魔術師としての力があったらしい。彼の場合は秘密にしているわけではないが、あまり魔法を使う機会がないため、魔術師としての才能を周りが知らないだけなのだ。

部下2人も驚いているが、リリアの魔力を追えるのならばすぐにでも追いかけるべきだと考えた。

馬に乗ってレイルを支えるために前に乗せると嫌そうな顔をしていた。乗せろと言ったのは彼のはずなのに、男2人で乗馬という光景が気に入らないのか、アルベルトと一緒が嫌なのか、言葉にしなかったが視線から後者だろうと思うことにする。それでも仕方がないと諦めたのか嫌な顔は一瞬だけで、そのあとすぐに魔力追跡のために意識を集中してしまった。

「王都を出ている可能性があるな。急ごう」

すぐに魔力を見つけたようで、連れ去られた先を示す。

「行くぞ」

部下にも声をかけて走り出そうとした時、屋敷の門から白い影が飛び出してきた。

「ちょっと待った。あたしも一緒に連れて行ってちょうだい」

白いローブに身を包んだ男性は、馬の前に出てくると両手を広げて行く手を阻んできた。

「ケイン様、どうしてここに?」

レイルと顔見知りだったようで、驚いている彼に向かってケインと呼ばれた男は胸をどんと叩いた。

「リリちゃんに用事があって尋ねたらなんだか騒ぎになっていて、事情はサラから聞いたわ。今からリリちゃんを助けに行くんでしょう?だったらあたしも同行するわ。怪我をしているといけないもの」

ものすごく違和感のある話し方をする人だと思った。よく見れば白いローブは神殿の神官が身に着けているものだ。それにケインという名前に聞き覚えがあった。

「神官のケインって、もしかして浄化師のケイン=ラリットじゃないですか」

格好と名前でミライヤが声を上げた。

浄化師ケイン=ラリット。浄化師の中でも力の強い浄化ができることで有名だが、同時に女言葉を使い同性に興味がある人物としても城や神殿でも有名だった。

背は高いが線が細く長い髪をうなじで束ねているため、見た目が女性に近い感じはするが、はっきりと見える喉仏が性別を偽っていないことを証明しているようだ。

そういえば、彼がウォルスター公爵邸にリリアと一緒に来た浄化師のはずだ。話だけ聞いていて本人に会う機会がなかった。

「初めて見た」

「そんなこと今はいいのよ。それより一緒に連れて行ってちょうだい」

ミライヤの感心したような呟きに、虫でも追い払うようにケインが手を振る。確かに今はのんびり話をしている場合ではない。

「ケイン殿、これは非公式の捜索です。あなたを巻き込めば後々ご迷惑が」

「あの子は親友のオルファの娘であって、あたしの大事な患者よ。事情を知って黙って待っているわけにはいかないでしょう。怪我でもしていたらすぐに治療ができる方がいいと思わない?」

念のための確認をしてみたが、どうやら彼なりの覚悟が出来ているようだ。

「リックス、一緒に連れて行ってくれ」

「わかりました」

リリアを助けることを優先することにした。ケインがリックスの後ろに乗るのを確認している間に、レイルには魔力追跡の再開を促した。

そうして王都を出ると、そのまま北に向かって走り続けている。

目の前には森が迫ってきていた。

「馬車で移動しているのならどこかに道があるはずだ」

駐留所からはだいぶ離れた場所を走っている。一面木に覆われていて道らしいものが見えなかった。

「馬車を降りて中に入っていったのかもしれない」

騎士が滞在している場所から離れてしまえば周りに人はいない。見つからないように森まで近づいてそこから徒歩で入った可能性が高いのだろう。

「人を抱えて入ったとなると、そんなに奥まで行っていないはずだ」

「魔力は森の中を示している。この奥にいるのは間違いない」

「馬のままだと危険かもしれない」

人が手を付けていない森だが、馬のまま入ることも可能だ。だが、馬が怪我をする可能性も十分にある。

森に辿り着いたアルベルトは手綱をレイルに握らせると軽々と馬から降りた。

「お、おい。俺は乗馬経験があまりないんだぞ」

全く慣れていない馬に突然1人で乗せられたレイルは降りることもできず手綱を握ったままおろおろしていた。

「大丈夫だ。その馬は賢い。森の中を見てくるからしばらく待っていてくれ」

彼もいっしょの方が早くリリアを見つけることができるだろうが、連れ去った犯人も一緒にいるはずだ。戦闘になった場合を考えてレイルをここに残すことにした。

後から追ってきたミライヤもすぐに馬を降りる。

リックスも続こうとしたが、ケインも一緒に行くと主張したため、彼の護衛を兼ねて少し遅れて追いかけてきてもらうことにする。

馬の上からレイルが森に向かって真っすぐに指をさした。

「ここをまっすぐ進んでみてくれ」

魔力を感じ取ってくれたようで、行く先を示してくれた。

もうすぐ会える。無事でいることを願いながらアルベルトは迷うことなく森の中へと入っていった。


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